【 「キセカエ」 】
◆ZetubougQo




69 :No.24 「キセカエ」 1/3 ◇ZetubougQo :08/02/24 23:07:57 ID:jZBIcH1D
 天は二物を与えずって言葉があるけど、あれは嘘だと思う。
 同じクラスの昌樹くんを見てると本当にそう思う。
 勉強はいつも学年で一番。
 体育の時間にはその種目の部活の部員だって適わない大活躍。
 技術科では先生もびっくりするほどの丁寧な出来栄え。
 他にも、ゲームをすれば負け無しだとか足でピアノを弾くだとか、本当か嘘か分からないような伝説があったりする。
 きっと神様が他の人に分け与えるはずだった才能をこっそり持ってきたに違いない。
 だから変わりに僕はなんの才能も無いんだ。
 そんなことをぼんやり考えていると、4時間目終了のチャイムが鳴り、静かだった教室は一転して騒がしくなる。
 これから、給食と昼休み。
 僕の、一番嫌いな時間。
 手を洗いに行けば水をかけられ、給食を取りに行けば足を引っ掛けられる。
 ほら、こんな毎日だ。
 みんなが楽しく給食を食べ、昼休みを過ごす中、僕だけ倒れこんでいる。
 そう、これもいつものこと。
 五時間目は体育だ。
 グラウンドに出て待っていたが誰も来ない。
 チャイムが鳴ってしばらくすると体育教師が怒鳴りながらやって来た。
 今日は急遽バスケットボールをすることになっていたらしい。
 教科係が伝えたはずだと叱られた。
 きっと僕が居ない時間だったに違いない。
 体育館に入ってもべつに変わらない。
 補欠の僕は隅で応援しているだけだ。
 と、いきなり僕の眼前にボールが飛び出してきた。
 避けきれず顔面で受け止める僕を見て、みんながゲラゲラと笑っている。
 悪い悪い、と謝りながらボールを取りに来たのは昌樹君だった。
 どうやら、彼がシュートをミスしたらしい。
 へぇ、あの完璧な彼もミスをするんだ。
 そんなことを考えていると、またボールが飛んでくる。
 今度は、他の男子がわざと狙っていた。

70 :No.24 「キセカエ」 2/3 ◇ZetubougQo:08/02/24 23:08:18 ID:jZBIcH1D
 6時間目は美術。
 今日最後の授業。
 いつ模様に席に着き、いつものように授業が始まる。
 今日は、描いた絵を発表する日だった。
 提出された絵を先生が淡々と評価していく。
 元気が良い、のびのびとしている、力強い等々、本当にほめているのか怪しい評価を聞きながら僕は、
クラスメイトにつかまらずに帰るにはどうしたら良いかを考えていた。
 すると、突然後ろから頭を小突かれた。
 振り返ると小さく「前を見ろ」と言われた。
 首を戻すと、ちょうど僕の絵の番だった。
 なにやらさっきまでとは口調が違う。
 正確なパースがどうの、繊細な色使いがどうのとまくし立てる。
 挙句、前に立たされて褒めちぎられた。

 授業後、早速クラスメイトらに取り囲まれた。
「天狗になってるんじゃねえよ」
「調子に乗るな」
 一体僕が何を下って言うんだ。
 ただみんなと同じように授業で絵を描いただけなのに。
 こんなことなら発表なんてしないでくれたら良いのに。
 そう思っていると。
「お前たち良い加減にしろよな」
 その「彼」の一声が聞こえると、僕に絡んでいたやつらはあっさりと踵を返していってしまった。
「お前も自分でなんとか言ったらどうだよ」
 そういって肩をポンと叩くと、昌樹君は笑って見せた。
 そんな風に言われたのは初めてで。
 蔑みじゃない笑い顔を向けられたのも初めてで。
 今まで溜まっていた感情、どうしようもない悲哀を彼にぶつけた。
 彼は困った顔をしながらも、それを全部聞いてくれた。

71 :No.24 「キセカエ」 3/3 ◇ZetubougQo:08/02/24 23:08:29 ID:jZBIcH1D
 話し終わるころにはもうかなり時間がたっていて、ホームルームが始まってしまっていたが、
叱られそうな僕を見た昌樹君が庇ってくれた。
今まで庇われるどころか、擦り付けられる側だった僕は、それだけでうれしくて走り出しそうだった。
 放課後、お礼を良いに行くと、うちに来ないかと誘われた。
 帰り道、彼は僕に美術の授業での絵のことを聞いてきた。
 絵は昔から嫌いじゃなかったし、今回はそれなりに力を入れて書いたんだと言うと、
 それだけであれだけのものが描けるなんて、才能があるんだねと、自分のことのように喜んでくれた。
 そんなことを話しているうちに、いつの間にか彼の家の前まで来ていた。
 人の家にお邪魔するなんて初めてだった僕はとたんに緊張して固まってしまった。

 あまりの緊張にトイレに行きたくなった僕は、お邪魔して早々にトイレを借りることにした。
 でも、彼の部屋を出たはいいが、どうしてもトイレがどこか分からない。
 まずい、我慢できないと思った僕は適当に近くのドアを開け放った。

 そこは、トイレではなかった。
 でも、普通の部屋でもなかった。
 一見して巨大なクローゼットの中のようなその部屋には、子供の首からしたがズラリと……



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