【 料理 】
◆yMe.v0PE8c




56 :No.16 料理 1/2 ◇yMe.v0PE8c:08/02/18 00:24:04 ID:BZcQtSMZ
 僕のアパートに妹が来てから、一日が経った。
 妹は、同棲している彼氏が帰ってこないという事を、僕に告げた。
 彼氏は、酒飲みで、酔っ払って妹に暴力を振るう。
 彼氏は、妹に煙草を吸い、灰皿の代わりに妹に煙草を押し付ける。
 妹の皮膚に傷をつけ、妹の心に傷をつける。
 シスコンと呼ばれるほどではないと思うが、僕は妹の事が好きだった。
 ストレスを発散したいのかは知らないが、妹に痛みを与える彼氏を、僕は嫌いだった。
 そんな奴と、何故同棲なんかしているのだろう。
 僕には分からない。
 そんな奴が帰ってこないというのに、何故、妹は悲しんでいるんだろう。
 僕には分からない。
 落ち込んでいる妹を何とか元気にしてあげたかった。
 僕の知っている妹は、こんな顔はしない。
 何をしたら、昔の明るい笑顔を取り戻せるだろうか。
 そうだ、料理だ。
 まだ中学生、高校生の頃に、僕はキッチンに立つ事があった。
 料理は好きだったし、僕の料理を美味しいと言ってくれる妹の笑顔も好きだった。
 妹が僕のアパートに訪れた日、つまり昨日。
 僕は冷凍庫にある肉と、野菜を細切れにし、それを皮で包み餃子を作った。
 一つ食べてくれたかと思うと、それ以上食べようとしなかった。
 何故だろう、こんなに妹の事を思って作ったのに。
 妹は美味しいと言ってくれなかった。
 次の日、つまり今日。
 今度は生姜焼きを作ろうと思い、僕は冷凍庫から肉塊を取り出した。

57 :No.16 料理 2/2 ◇yMe.v0PE8c:08/02/18 00:24:19 ID:BZcQtSMZ
 上手くスライスし、醤油と生姜を混ぜ合わせたタレに肉を入れ、それを焼き上げる。
 出来上がった生姜焼きを、妹の前に出す。
 妹はまた、一口食べた所で箸を止める。
 それ以上食べてくれない。
 どうして。
 どうして食べてくれない。
 こんなにも、こんなにも思いをこめた料理だというのに。
 昔、あんなにも喜んで食べてくれた料理だというのに。
 ……そうか。
 分かったぞ。
 あの肉だ。
 あの肉が不味いというんだな。
 酒ばかり飲んで、味を悪くした肉が。
 煙草ばかり呑んで、味を悪くした肉が。
 僕は先程冷凍庫にしまった肉を取り出し、すりこぎ棒で思い切り叩く。
 曲がった根性を叩き直してやる。
 《叩く》なんて、そんな優しいものじゃない。
 潰す。
 叩き《潰す》!
 妹に傷をつけやがって、妹にこんな顔させやがって、妹に、妹にいもうとにイモウトニ!

 晩、僕はハンバーグを妹の前に差し出す。
 一つ食べてくれたかと思うと、それ以上食べようとしなかった。
 何故だろう、こんなに妹の事を思って作ったのに。
 明日、一緒に買出しにでも出かけたら、笑ってくれるだろうか。

 完



BACK−如月ミキの場合◆gtyBrNPylc  |  INDEXへ  |  NEXT−ちょこっとlate◆zsc5U.7zok