24 :No.07 清算/凄惨 1/3 ◇p/4uMzQz/M:08/02/17 23:04:27 ID:5krz/sVH
仕事で嫌なことがあった。電車に向けて飛んでやろうかと思ったが、よく考えたらいつもの事だったので止めた。
祐二の奴に会ったのは、そんな足で向かった先の居酒屋。いきつけと言うには頻度が足りず、
知らない場所と言うには来た回数が多いくらいの場所。そんな店の奥のカウンターに、彼が居た。
「あれ? ……奈摘か、久しぶりだなぁ」
そんな声を聞くなり、私はヒールで彼の革靴の先端を踏みつけていた。
ぐにゃ、と彼の顔が見る見るウチに歪んでいった。
「いっ……」
てぇえええええええええええええええええええええええええ。
「うるさいわよ、周りの迷惑じゃない。もう子供じゃないんだから」
「てめぇ何様だその口今すぐホッチキスでぱっちんしたろうかぁ!!」
ぱっちんて何だ。可愛いぞ。
「謝んないわよ、お返しなんだから」
生中二つ、とだけすっかり面食らっている店員に伝え、私は彼の隣の椅子を引いた。
「あぁ? お返し? 何だお前、いきなり」
「久しぶりよねぇ、全く」
被せるように言葉を発する。
「アンタと最後に会ったのは、……成人式の時か。もう四年、ね」
思い出すだけで腹が立った。何が一番むかつくかって、コイツは全く悪気が有った訳じゃ無いであろう事だ。
祐二は自分の分のジョッキを手に持って、やっぱり呑まずにテーブルに置き、口を開いた。
「あー、そうだな懐かしいなぁ。確か何だっけ、終わった後飲み行って、五人ぐらいでカラオケ行って──」
「その後アンタは私をお持ち帰りして、そのまま次の日には大学の方に帰っちゃったのよ」
25 :No.07 清算/凄惨 2/3 ◇p/4uMzQz/M:08/02/17 23:05:07 ID:5krz/sVH
「…………あれ?」
多分、背景に書き文字を置くとしたら「ずどーん」とかそんな感じの空気の重さだ。自分でやっといて何だが。
私がその事を怒っていると今更気付いたらしく、祐二の奴は顔を真っ青にしていた。額に汗が浮き始めている。面白いなコイツ。
「え、ええええぇ、えと」
「朝になってさ、アンタは一言『じゃ、俺東京帰っから』って。私からしたら何言ってんだコイツ、よ」
私のビールが運ばれてくる。それを掴むなり、私は二ついっきに飲み干した。すぐにもう二杯頼んだ。
「……俺の分じゃなかったのかよ」
「んな訳ねぇでしょう」
そう答えると祐二は自分のジョッキを持って、今度こそ、ちびちびと飲み始めた。
「えっとな、あの、その、すまんかった」
「それだけ?」
一言で切り捨ててみた。
「あ、……え、あ」
怯えたような表情になった祐二は、少し私から体を離しながら、口を開くことも出来ずに戸惑っていた。
「…………はぁ」
次に来たビールを、再びイッキに飲み干す。あー、いい感じにくらっと来た。
「あ。おい、奈摘、あんまり無理して飲まないほうが」
「うっさいわらしがお酒つよいのしってんれしょう!!」
視界が少し歪んでる。頭が急に重たくなる。やっばい、さすがにちょいキツいか。
「うぅー、くっそう、親父ィ!! もぉーう一杯だぁ!」
「お、おい奈摘止めとけって」
「うるさいうるしゃい! 黙れ祐二!」
「あと、そもそも店員さんは親父じゃなくて女の子だぞ」
それはどうでもいいだろ、律儀だなこの馬鹿!
26 :No.07 清算/凄惨 3/3 ◇p/4uMzQz/M:08/02/17 23:05:49 ID:5krz/sVH
「うざいなぁ……、じゃあいいよそれ寄越せ」
私は祐二の手からビールを引っ手繰ると、それをまた一度に飲み干した。
「お、おい、だからお前そんなに飲んで大丈夫なのか」
「黙れひゅうじ! アンタねぇ、おさななじみだからって、何しても許されるとでも思ってる訳? あーん?」
祐二の肩に手を回して、体を椅子ごと引き寄せる。顔を近づけて喋り続ける。
「アンタがさぁ、いきなりあんなことする奴だたぁー思わなかったらよ、それにその後音信途切れうし。
ひかも何? それでお互い地元帰って就職した思ったら、今度は必死に私避けてたっつー訳?!」
「い、いや別に避けてなんか。ほら、招待状送っただろ? 俺が」
「だから? 謝罪の言葉も無し、私に会おうともしない、そっちから連絡もしない。それで避けてないってかぁ?」
確かに去年葉書は実家に来たなぁ。結婚しますっつー、いきなりな招待状が。
首に絡ませた腕を、そのままキツく閉めてみた。これくらいなら、許されるだろう。
「ちょ、マジ、首絞まってる……勘弁して、なつ、み……」
いやいや、こんなんじゃまだ足りない。これだけであの仕打ちを許してあげようっていうんだから。それに、
「口答えは無し。私がいいってまで、ずっとわたひの話を聞きなさい」
私が招待状を見たあの日まで、いや、今もアンタの事を好きな事を言わないでいてあげるんだから。
それに今日だって、成人式の飲み会ん時みたいにわざとツブれる気も無いんだし。
そんな私の優しさを考えたら、ここでアンタがされることなんて、大したことじゃないわよね?
「日付変わるくらいには解放したげるから、それまれ話聞きなさい!!」
私のその言葉に、顔を更に青くしながら祐二は頷いた。あー、私って優しいわっ。
了。