【 奇跡のエンピツ 】
◆wXNIieV/7o




82 :No.22 奇跡のエンピツ 1/5 ◇wXNIieV/7o:08/02/10 23:10:53 ID:RqqC7kMw
(僕も今年で高校三年生、もう少しで大学受験か……
 進路どうしよう……やっぱり県内の普通レベルの大学を目指すのが無難かな……)

「おーい西田!」
 一人で考え事をしながら歩いていた僕の耳元で、大きな声が響き渡る。
「…え、何?」
「何?じゃないだろ、どーした? 下見ながら考え込んだ表情しちゃってさ」
 心配そうな顔をして、僕の親友である霧也は下から僕の顔を覗き込んでくる。
 こんなに近づくまで、接近するのがわからなかったなんて……どうやら僕は完全に上の空だったようだ。
「ごめん、ちょっと考え事してて……」
 僕は照れ笑いをして、軽く頭をかく。
「水臭いな、相談ならいくらでも俺が聞いてやるぜ?」
 霧也は僕の胸を軽くグーで叩いてきた。
 さすが親友、僕の事を本気で心配してくれてるんだな……。
「実は――」
 僕は霧也に一通りの説明をした。
 進路について悩んでいる事、そして、どの大学に行こうか迷っている事。

「ようするに、進路について悩んでたって訳だな」
「うん……そうなんだ」
 人通りの少ない帰り道、いわゆる近道の森の中を歩きながら、僕は霧也に心中を伝える。
「実は俺も悩んでるんだよねー……進路についてはさ。」
「霧也もなんだ?」
 僕は親友が同じ悩みを持っていた事に、少しだけ安心した。
 辛さを共感し合えると思ったからだ。
「一応俺はPC関係の専門学校行こうと思ってるんだけどな
 まあ、なんっつーか、目標とかないんだよ、なんとなく行こうと思っただけで。」
「僕は結構、妥当な判断だと思うよ」
 霧也は自他共に認めるPCヲタクだ。
 その霧也の進路としては、妥当にも程があると僕は本気で思った。

83 :No.22 奇跡のエンピツ 2/5 ◇wXNIieV/7o:08/02/10 23:11:30 ID:RqqC7kMw
 そう僕が思った瞬間、霧也の足が止まった。
 視線を霧也から、正面に移した瞬間、僕も足を止めてしまった。
 なんか凄い男が、森の奥からコチラに歩いてきたからだ。
「ンーブホハハハハハハハハ!!!」
 全身白いタイツ、靴は白い作業靴、頭には黒いシルクハット、手には白いカバンを持っている。
 そしてなんか笑ってる。間違いなく変態だ。
 そう思った次の瞬間 ――謎の変態は姿を消した!
「シルクハットだ、変態のシルクハットマジックだよ!」
 僕が訳もわからず、無我夢中で叫んだ。
「落ちつけ、沼に落ちただけだ!」
 よく目を凝らして見てみたら、近くの小さな沼からシルクハットと片手だけ顔を出している。
 しかもピクピク震えているので、どうやらあの世に旅立つ寸前のようだ。
 僕達は急いで、謎の凄い男を助ける事にした。

「危ない所だったよボーイ、恩に切る」
 僕達に助けられた謎の変態は、ベチョベチョの服装のままアグラをかき一息をついた。
「どうしたしまして、それよりも……貴方は一体何者なんですか?」
 僕は思った疑問をそのまま謎の変態にぶつけた。
 何故こんな格好をしているのか、何かの罰ゲームだろうか? その疑問に終止符を打つために。
「しからば自己紹介を! この私は! ハーバード大学卒の天才で、秀才で、優雅なッ、超エリート発明家のアダムだ!」
「……」
 僕と霧也は「怪しすぎるだろ」という疑いの表情を見せる。
「なんだその表情は……私を疑うのか? ならば私の発明した丸秘スーパーアイテムの一つを見せてやろう!」
 アダムと名乗る男はカバンの中から、小型の金庫らしき物を取り出し、さらにその中から一つの道具を取り出した。
 しかし、その道具はお世辞にもスーパーアイテムには見えなかった。
「え、えんぴつ……?」
 僕と霧也は、ためらいながらも同時に発言した。
「これは私が開発した、二次元を三次元にするエンピツ……名づけて『奇跡のエンピツ』!」
「おいおい、人間がそんなの作れる訳ないだろ、俺達をおちょってんのかよ?」
 霧也はまるで信じていない口振りで、アダムに言い返す。

84 :No.22 奇跡のエンピツ 3/5 ◇wXNIieV/7o:08/02/10 23:11:49 ID:RqqC7kMw
「フフッ、命の恩人であるユー達にはこの『奇跡のエンピツ』をプレゼンツしてやろう、使ったらきっと驚くはずだ
 ちなみに描いた本人が『完成』と言えば、その声を『奇跡のエンピツ』が認識して、絵が二次元から三次元になる仕掛けだ!
 気持ちを込めて絵を描きたまえよ! では、さらばだッッ!!」
 そういい残し、アダムは僕に『奇跡のエンピツ』を渡して、僕達が来た方向に去っていった。

「……どうする? このエンピツ」
 僕は『奇跡のエンピツ』の処理に困り、霧也に聞いた。
「どう見てもただのエンピツだよなー、一応何か描いてみれば?」
 そう言って、霧也は僕に小さなメモ帳をちぎって僕に渡した。
「……それじゃ、僕が何か描いてみるよ。」
 僕はササッとエンピツを走らせ、メモ帳に絵を描いた。
 描いた絵は綾波レイという、いわゆるアニメの美少女キャラ。
 一度、このキャラに抱きつかれてみたいと前々から思っていたからだ。
「よし、『完成』したよ。」
「これ、アニメの綾波レイのつもりか? ヘッタだなお前……」
 そう霧也が発言した瞬間、いきなりメモ帳が光り輝きだした。
 さらに次の瞬間―― メモ帳から、身長150cm程度の謎の生物が姿を現した!
「ま、まま、マジかよ……まさか本当に実体化するなんて! い、色までついてるぞ……」
「だ、だけど、これは不味いと思う……」
 ――たしかに僕が描いた絵は実体化した、ご丁寧に想像通りの色までついている。
 しかし、僕が描いた絵のレベルで実体化されたため、厚化粧に失敗したオジサンのような顔をしている。
 次の瞬間、綾波レイもどきがいきなり僕に抱きついてきた!
「ぎゃあああああ!!!」
 僕の骨がミシミシとムゴイ音を立て、悲鳴をあげる。僕も痛みで叫ぶ。慌てて、霧也が引き剥がそうとするも、ビクともしない。
 そして、抱きついてから数秒後、綾波レイもどきは勝手に消滅してしまった。
「だ、大丈夫か? すげえ事が起こったな……」
「な、なんとか僕は平気……」
 正直、両腕の骨と背骨が砕け散るかと思った。まさかこんな事になるとは……。
「しかし、これはどうやら本物のようだな……よっしゃ、次は俺が絵を描かせてもらうぜ」

85 :No.22 奇跡のエンピツ 4/5 ◇wXNIieV/7o:08/02/10 23:12:14 ID:RqqC7kMw
 霧也はフゥー……と一息をつき、真剣な表情でメモ帳に絵を描き始めた。
 プロでも通用するんじゃないかというぐらいに凄い画力だ。
 描いてる絵は、何故かピカチュウという名の、ネズミみたいなモンスターだけど。
「……出来た! 『完成』だ!」
 だが、そう霧也が叫んだ瞬間、メモ帳に描かれたピカチュウの絵は消滅してしまった。
「な、何故だ!? 俺、何か間違った事やったか!?」
 納得できない――と言った表情で、霧也が叫ぶ。
 その時、僕は、ある一つの原因が思い浮かんだ。
「霧也、いったい何を想像しながら絵を描いたの?」
「集中してたから、余計な事は何も考えてなかったぜ? ピカチュウの形は想像してたけど……それがどうかしたか?」
 ムスッといじけた顔で、僕を見てくる。
「さっきアダムが『気持ちを込めて描け』って言ってたから、強く想像しないと駄目なんじゃない?」
 そう、アダムはさっきそれらしい台詞を言っていた。
 事実、僕は綾波レイに抱きしめられたいと思っていたら、綾波レイもどきに抱きしめられた。死にかけたけど。
「その話が本当なら困ったな、俺は絵を描く時に、集中しすぎるのが癖なんだよ…… あっ」
 霧也の目線を追ってみると、僕達の反対側から、中学生ぐらいに見えるスケッチブックを持った少女がこちらに歩いてきている。
「人に見られると不味いな、とりあえず後の事は、家に帰ってから話し合うとしようぜ?」
「うん、そうだね、焦る必要は無いし……」
 僕は霧也の意見に同意し、その場から立ち去った。

 あれから1時間が経過した――
 僕達はアダムに会ってから30分ほど歩いた後、霧也の家に着き、二人でジュースを飲んでいた。
 そして、二人で二次元の話をして盛り上がっていた、これからも楽しくなるはずだった。
 そう、ある出来事に気がつくまでは……。
「あっ……………ポケットに……穴、開いてる」
 そう言い残し、霧也の顔が、不気味な程にみるみる青ざめていく。
「…………き、『奇跡のエンピツ』がねえー!!うわあああ!!何処かで落としてきた!!」
「うおおおおおおおおおお!!」
 僕はそれを聞いて、霧也の予備の自転車を借り、今までに無いぐらいの爆速で来た道を戻った。
 霧也も自分の自転車に乗り、チーターに追いつけるんじゃないかと思うぐらいの速さで走った。

86 :No.22 奇跡のエンピツ 5/5 ◇wXNIieV/7o:08/02/10 23:12:39 ID:RqqC7kMw
 猛スピードで走行中、ある少女がスケッチブックに絵を描いている姿を見つけた。
 さっきのスケッチブックを持った少女だ、そして手に持っているのは――『奇跡のエンピツ』!
「――これで『完成』だね」
 そう少女が発言し、ニッコリと笑った瞬間、周りの世界が一気に変わり始めた。
 ――まるで、森全体が歓喜の声を上げてフォークダンスを踊っているかのような世界に変わっていく。
 小鳥の美しい声、魚、虫、いや……土、沼、石までもが僕達に優しく語りかけてくるような―――
 一言で言うなら、自然の理想郷―――

「なんだろう、今、少しの間、妙な気分になった……。」
 少女は不思議と満足が入り混じった表情で言った。
「感動した!!」
 僕がそう叫ぶと、少女は心臓が止まったぐらいの勢いで驚き、『奇跡のエンピツ』を地面に落とした。
「俺も感動したぜ! アンタの心、そして画力、これこそ芸術だ!」
 霧也も涙を流しながら、少女に向かって叫ぶ。
「え? あ、うん、なんかよく分からないけど、ありがとう……」
 少女は森で絵を描こうとしたものの、書く道具を忘れてきてしまい、諦めて帰ろうとした所でこの『奇跡のエンピツ』を見つけたという。
 この後、僕達は事情を話し『奇跡のエンピツ』を返して貰った……後、メルアドを交換した、可愛かったので。

 ――この一件から『奇跡のエンピツ』を使っても、あの夢のような出来事は起こらなくなっていた。
 『奇跡のエンピツ』は、やはり人間の作れる物では無い――アダムという男は神の使いだったのかも知れない。
 本当の芸術とは、二次元を三次元にしようと考える『邪な心』では無く―――『自然と芸術を愛する心』
 それを教えるために、アダムは僕達の目の前に現れたんだろう。
 僕達はこの出来事を機に、美術大学を目指す事にした――あの少女のような本来の自然の姿を見れる心と画力を手に入れるために。
 ありがとう、神の使いアダム、僕は貴方の示してくれた道標を一生忘れない……

アダム「あっ、そういえば、あの『奇跡のエンピツ』は軽く落としただけの衝撃で壊れる精密機械って事も、教えてあげた方が良かったかもね……
     ま、いっか! 今度は何を作ろうかなー、ブボハハハハハハ!!」





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