【 relatively being 】
◆wb/kX83B4.




97 :No.23 relatively being 1/2 ◇wb/kX83B4.:08/02/03 23:11:43 ID:sYxQu+th
トワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワト

家の裏にある川縁で、かげろうをたくさん見つけたので、捕まえて虫かごに入れた。
家に戻ると、家族から余計な用事を言いつけられそうな雰囲気だったので、久しぶりに
街の方に出ることにした。面倒なことは相対的にイヤだからね。
街をほっつき歩いている方が相対的によりよい選択だ。

目の前には、いわゆる摩天楼。三日前に竣工したこのビルは、ビニールの被いもまだ取られていない。
300メートルという高さのこのビルは、街の名物になるだろうと言われている。
名物の価値なんてのも相対的なものだろう。

人々は言う、なんて高いビルだろう、こんな高いビルはこの町には無かった、と。
でも、僕には低いとしか思えなかった。まあ、相対的なものだ。

足を踏み込んで離すと、からだがどんどん上に上がってゆく。誰かが息をのむ声が聞こえた。
トワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワト
ぼくはビルのてっぺんに立った。作業をしていたとおぼしきヘルメットを被った男性と目があった。
「どうもこんにちは。」
挨拶は基本だから言わなくてはならない。この基本とやらの価値も相対的だがね。

男性は目を見開いて、どうやってここに来たのかを聞いてきた。
なぜそれを不思議がるのかが僕には理解できない。
彼の顔をつかんで、目を近づけた。あくまでも相対的にだが。
こうすると、僕は彼になり、彼は僕になる。
トワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワト
僕になった彼は、僕がどうしてここにいるのかを理解し、
彼になった僕は、彼が僕の存在を不思議がったのかを理解した。
世の中相対的なものしかないのだから理解し合えるに違いない。
疑問が解消した僕と彼は相対的に硬く握手した。

98 :No.23 relatively being 2/2 ◇wb/kX83B4.:08/02/03 23:12:02 ID:sYxQu+th
トワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワト
僕は親方から言いつかった足場の部品のチェックを再開した。
彼はビルの端から飛び降りた。
立場なんてものは相対的なものだ。
作業が終わる頃、この恐ろしく高いビルの屋上に、中年の男が飛び上がってきた。
彼にとっては、このビルは相対的に低いのだろう。
だが、どうしてそんな事ができるのか不思議だった。
彼はぐっと僕を抱き寄せ、目を見つめた。
トワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワト
ああ、そうだった。僕は彼で、彼は僕。僕が自分のかみさんと子供だと思っていたのは、
彼のそれだったのだ。関係も相対的なものだから、いくらでも入れ替わる。
相対的に固い握手を交わして、僕らは別れた。

僕がビルの下に降りた音は、相対的に大きかったのだろう。周りに人が集まってきた。
中から、紺色の制服に身を包んだ若い男が身を乗り出した。
若い男はなにやら威圧的な言辞を弄すると、僕に詰め寄った。相対的にね。
僕は彼に、彼は僕になり、お互いの疑問は無くなった。問題や法律も相対的なものだ。
トワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワト
僕は彼を交番に連れて行き、彼が行った、ビルから飛び降りるという行為が如何に
危険で、法律をないがしろにするかを刻々と説諭した。あくまでも相対的な事ではあるが、
相対的に大事なのだ。
相対的にではあるが、未来のある若者のことなので、ここで彼に家へ電話させて、
両親に引き取ってもらうことにした。
彼に電話させたところ、両親が来るまで話し足りない事を話すのに十分な時間が必要だとの事
だったので、もう一度説諭した。
熱が入って、顔を相対的に近づけてしまう。
トワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワトワト
両親が迎えに来たので、両親に怒鳴られながら家に帰ることになった。相対的にだが、やかましい。
帰りに、かげろうを入れた虫かごが目にとまった。中のかげろうはみんな死んでいた。
相対的にではあるがなんと長生きなのだろう。1昼夜は生き延びたのだ。命も相対的なんだろう。



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