【 密室殺人 】
◆wb/kX83B4.




110 :修正時間外No.01 密室殺人 1/2 ◇wb/kX83B4:08/01/21 23:09:45 ID:3DBCRRQJ
艦橋に身の置き場が無い唯一の"長"である砲術長が二段ベッドの上で本を読んでいると、
薄暗い艦内では目立つ白い帽子を被った艦長が話しかけてきた。
「アキラ、ちょっといいか?」
アキラと呼ばれた砲術長が、艦長に話しに応ずる答えを返す。
「かまいませんが、勤務交代まであと20分ほどありますよ。」
砲術長の言うとおり、艦長の半舷が休憩に入るまではもう少し時間があった。
「なに、誰に迷惑がかかるわけではない。プサンの報告ではソナーには何の感もないという。」
艦長はソナー手の名前を挙げ、休憩の時間を守らないいいわけをした。彼女は、ソナー担当では一番の古株であり、
最近は、一つのミスもやっていないと言うことを知っていたアキラはそのいいわけにとやかく言わなかった。
彼がベッドから立ち上がり、下のベッドに座ると、艦長はその隣に座って、話し始めた。
「「航海」が始まって、我々の体感時間では一ヶ月だ。「潜水艦」はどうだね。」
アキラはやや自虐的に答えた。
「ライほどではありませんが、身の置き場は心得てきましたよ。とにかく、じゃまにならない場所がそこです。」
同じ士官学校出身の友人ながらも、ずっと前からこの艦に配属されている水雷長の名前を挙げた。
「そう言うな。」
艦長が語り出す。
「君は、「海」についてどれくらい知っているかね?」
「海ですか?士官学校にはいる前から、ヨットが趣味でしてね、知らないことなんてほぼありませんよ。
練習航海でもいろいろ回りました。」
「海の上じゃなくて、潜る方は?」

「潜る方はあまりやっていませんね。大学時代にカレドニアの海に潜ったくらいです。ああ、潜水艦にもその頃に
乗っていれば良かったかもしれませんね。潜水艦というのは「海」でも特別なものでしょう。」

「ああ、そうだね。潜水艦は一つの小さなかわいらしい世界だよ。外の生存不可能な世界から完全に隔絶されている。
そして、そこから逃げ出す事は出来ない。我々が生活している地球のようにね。完全に孤立しているんだ。」

「地球よりも孤立していると思いますよ。何しろ、外側という概念が無いのですから」

「こんな話をするなら私よりも、リー先生の方が向いていそうだな。ところで、そこについて説明してくれないか?
艦の指揮はともかく、「海」のことはほとほとわからないのだ。少し前に質問した気もするがな。」

111 :修正時間外No.01 密室殺人 2/2 ◇wb/kX83B4:08/01/21 23:10:14 ID:3DBCRRQJ
「わかりました。ところで、リー先生の仕事は72時間後くらい後までかかるんでしたっけ。」

「それくらいだと思うよ。」

「48時間ほど前に、そのことについてお話をしたときには説明していませんでしたね。この「潜水艦」は7次元の
空間において、カーテンのしずくのようにその表面を移動しているわけです。」

「そういう説明は聞いているよ。」

「「潜水艦」と7次元空間の関係は、我々が宇宙と読んでいる4次元の空間とその7次元空間の関係と同じなんですよ。」

「この艦が一つの宇宙だと言うことか?それと、例の言葉との関係は?」

「外側、という概念が成り立つのが、四次元空間だけだと言うことです。」

「いわゆる外宇宙や子宇宙というのはどうなるのだ?この「潜水艦」も我々の宇宙の子宇宙だろうに。」

「四次元宇宙同士では、外側という概念で理解が出来るのです。だから、将来、この艦が、軍艦として戦う
事になるとしたら、宇宙同士が子宇宙である「水雷」を打ち合う事になるのでしょうね。ただ、「水雷」
が効果を発揮するには、元々子宇宙、親宇宙の関係にない宇宙を融合させる技術が必要になるのでしょう。
それが出来ないから、我々は、元々いた宇宙から離れられないままでいるのですよ。しずくの周りを回る
ほんの少しだけくっついた小さなしずく、というのが我々の潜水艦です。もっと広い範囲を探して、外の
宇宙を探すためには、外の宇宙から来た「潜水艦」と「水雷」を打ち合える技術が必要なのです。
不測の事態に備えて、組み立て式の砲が設置される予定なので、私が乗り組んでいますが、役に立つことが
あるとすれば、その技術が確立してからでしょう。」

「なるほどな、もっと広い範囲で探査するための技術が、宇宙同士の殺し合いを可能にする、ということか。
完全に孤立したもの同士の殺し合い。古いミステリーの用語で表現できそうだな。」



BACK−密めきビタミン◆QIrxf/4SJM  |  INDEXへ  |  NEXT−密告カルテ◆4oIY5Zvkdw