【 秘密 】
◆0CH8r0HG.A




94 :No.26 秘密 1/5 ◇0CH8r0HG.A :08/01/20 23:48:10 ID:skV5Bk2N
 寒い寒い冬の国。
 雪で覆われたこの国は、優しく美しい女王様、可愛らしいけれどお転婆なお姫さま、雪で作られた
けらいたちが仲良くくらしていました。
 これは、このお姫さまと、勇敢な男の子のお話です。

 この国に時々訪れる吹雪。一週間近く吹き荒れた冷たく激しい吹雪が去った日。朝日を浴びて国中
の雪は光るじゅうたんのよう。
 しばらくの間、お城の外に出て遊ぶことが出来なかったお姫さまは、けらいたちの中から自分と一番
仲良しのスノゥを連れて、遊びに行くことにしました。
 スノゥはお姫さまと同じくらいの大きさの美しい雪人形で、お姫さまの四つの誕生日に女王さまが魔
法で作ってくれた初めての友達です。
 いつもやんちゃなお姫さまに振り回されてばかり。
 だけど、どんなときでもお姫さまの味方をしてあげる、とても優しい男の子でした。

95 :No.26 秘密 2/5 ◇0CH8r0HG.A:08/01/20 23:48:21 ID:skV5Bk2N
「スノゥ! 何ぐずぐずしてるの!? さっさと来ないと置いてくわよ?」
 落ちていた木の棒をブンブン振り回し、お城の近くにある森の中をすすむお姫さま。
 吐く息は白く、鼻を真っ赤にしながら積もったばかりの雪をかき分けていきます。
「ま、待ってくださいよぉ〜姫さま〜」
 その後ろをおろおろと追いかけるスノウ。
 新しい雪をかぶった森の木々は、その姿を見ると声をかけてきました。
「おい、スノゥ! 今日もお転婆のおもりかい? 大変だな」
「あ、おはようモミの木さん。やっと吹雪が晴れたから、お姫さまと久しぶりのお出かけなんだ。こ
れから森のおくにある見はり台に行くんだよ」
 見はり台は、冬の国を高い所から見ることが出来る、お姫さまのお気に入りの場所です。
 お姫さまは、その上から、お日さまに照らされて輝くお城を見るのが大好きでした。
 これを聞いたモミの木は、ちょっと困ったような声で言います
「見張り台だって? それはやばいぜスノゥ。ここ何日かの吹雪でエサをとりに出れなかったオオカミ
達が、見はり台の辺りをうろついてるらしい。用心しないと食べられちまうぞ?」
 これを聞いたスノゥはビックリぎょうてん。
 慌ててお姫さまを追いかけます。
「姫さま〜! 姫さま〜!」
 やっとの思いで追いつくと、お姫さまにオオカミの話を聞かせました。
「姫さま、危ないから今日は帰ろう? オオカミたちに食べられちゃうよ。また今度くればいいじゃない」
 そうして、お姫さまの手を引いて帰ろうとします。
 ところが、お姫さまはスノゥの手を振り払いました。
「もう! スノゥの意気地なし! 見はり台すぐそこじゃない! それに、次来る頃には昨日降った雪は
溶けちゃってるかもしれないでしょ! 帰りたいならスノゥ一人で帰りなさい!」
 姫さまは、スノゥが止めるのも聞かず、森の奥に走っていきました。
「あ! 待って! 危ないですよ〜! 姫さま〜!」


96 :No.26 秘密 3/5 ◇0CH8r0HG.A:08/01/20 23:49:00 ID:skV5Bk2N
 見はり台に付いたお姫さま。
 ハシゴはこおっていて、すべると危ないので注意深く登っていきます。
 てっぺんまでたどり着くと、冷たい風がお姫さまの頬をなでました。
「うわぁ〜! すっごくキレイ……」
 お日さまを浴びて、お城はキラキラ光っています。
 けれど、それを見ながらお姫さまはちょっと残念そうな顔。
「スノゥの弱虫……。キレイなお城を二人で見たかったのに……」
 お姫さまはスノゥが大好きだったので、このながめを見せてあげたかったのです。
「オオカミなんて出ないじゃない……。ばか! 一人で見ても半分しかうれしくないよ……」
 しばらく、お城をながめていたお姫さまでしたが、だんだん風がつめたくなり、一人でいるのが寂しく
なってきました。
「そろそろかえろ……」
 そうして、お姫さまがハシゴをおりようとした時です。森のおくから低いうなり声が聞こえてきました。
「え?もしかして……」
 そう。その正体はオオカミでした。一匹ではありません。七匹ものオオカミがあっという間に見はり台
の周りを取り囲みます。
「ウウウウ……ハッハッハッハッ!」
「ガウウウウウウ……!」
「ガルルルルル!」
「グルゥゥゥゥゥゥ!」
 はらをすかせたオオカミたちは、見はり台の上にいる小さなエモノに目をつけたのです。
 一匹は吠え立て、一匹はハシゴを登ろうとし、一匹は見はり台の周りをグルグルと回りながら、お姫さ
まをにらみつけます。
「あ……!ふ、ふぇぇぇぇ……」
 お姫さまはおそろしさのあまり、動けなくなってしまいました。
「これじゃ帰れないよぉ……。こわい、こわいよぉ……。」

 お姫さまが泣きそうになったその時です。
「姫さまをいじめるのはやめろ!」
 飛び出してきたのは小さなかげ、つららを持ったスノゥでした。

97 :No.26 秘密 4/5 ◇0CH8r0HG.A:08/01/20 23:50:37 ID:skV5Bk2N
 オオカミたちは、いっせいにスノゥにおそいかかります。
 牙をつき立て、爪でひっかき、スノゥはいつしか傷だらけ。しかも、動き回りすぎたせいで、体の雪が
少しずつ溶けていきます。
 しかし、それでもスノゥは負けませんでした。
 手に持ったツララを振り回し、勇敢にオオカミたちに立ち向かいます。
 スノゥは怖がっている大好きな女の子を守るためにも、負けるわけにはいかなかったのです。
 どれくらいたったでしょうか?
 スノウと戦っているうちに、オオカミたちは一匹、また一匹と逃げていきました。
 そして、最後の一匹が逃げたのを確認すると、スノゥは安心して倒れこみました。

「スノゥ! スノゥ! 大丈夫!?」
 目を開けると、目の前で大好きな女の子が泣いています。
「ひめさま……だいじょぶ……?」
「わたしは大丈夫。ゴメン!ゴメンねぇ……わたしのせいで! スノゥの体ボロボロにしちゃって!」
「だいじょぶ…だよ。お城に帰ったら、女王さまがなおして……くれるから」
「うん……うん!」
「ひめさまぶじで……よかったぁ」
 笑顔でスノゥは眠りにつきます。
 お姫さまはしばらくの間、スノゥの胸で涙を流し続けました。

98 :No.26 秘密 5/5 ◇0CH8r0HG.A:08/01/20 23:50:52 ID:skV5Bk2N
 スノゥが再び目を開けたとき、そこはお城の中の氷のベッドの上でした。
 傷だらけのスノゥを、お姫さまが泣きながらつれて帰ったのです。
「スノゥ……。娘を守ってくれてありがとう」
 そばにすわっている女王さまがほほえんで言いました。
 スノゥは少し照れながら、立ち上がろうとします。
 するとどうしたことでしょう?
 いままで付いていた足がなくなっているのです。
それだけではありません。
今までは雪だった手が、木のえだに変わっていました。
「女王さま!? 何で僕の体が雪だるまになっちゃってるの!?」
 なんと、それまでは人の子供と同じ形をしていたスノゥの体は、ブサイクな雪だるまに変わっていたのです。

「ごめんなさいね、スノゥ。実は、どうしてもあなたの体を自分でなおしたいって聞かない子がいたの」
女王様は笑顔でカーテンに向かって手招きをします。
すると、その影からすまなそうな、照れくさそうな顔をしながらお姫さまが出てきました。
「わ、わたしがじきじきになおしてあげたんだからね! 感謝しなさいよね!」
「姫はまだまだ魔法が下手だから、ちょっと形もいびつになってしまったのよね?」
「お、おかぁさま! ひどい!」
 スノゥはこのやりとりを見て、自然と笑顔になっていました。
「ちょっとの間ガマンしてなさいよ。私がもう少し魔法が上手くなったら、もう少しカッコ良くしてあげるから」
 お姫さまのはにかんだ顔を見て、スノゥはこのブサイクな体が前の体より好きになれる気がしました。


「でも、姫さま? なんで、ぼくをじぶんで治したいと思ったの?」
「ないしょ!」

 おわり



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