92 :No.25 「深夜の密談」 1/2 ◇ZetubougQo:08/01/20 23:43:11 ID:skV5Bk2N
一学期が終わり、夏休みが始まる。
終業式の午後から僕は居てもたってもいられず、ただいまの声もそのままに家を飛び出した。
これからこうしてずっと遊んでいられると思うとワクワクが止まらなかった。
でも。
夕方日が沈むころ、夕焼けに負けないくらい真っ赤に錆びた自転車を漕ぎ漕ぎ家に帰ると、
待っていたのは父さんの大目玉だった。
カバンの中の成績表を見られてしまったらしい。
それまでの楽しい気持ちなんて吹き飛んでしまった。
ちぇ、確かに成績は悪かったけど、何も夏休みの一番最初にこんなにしからなくてもいいのに。
さすがに自分でも今回は悪いと思って、友達と勉強会をする約束だってしたのに。
すっかり不機嫌になった僕は、早くに布団に入って寝てしまった。
いつもと違う時間に寝たからか、真夜中に目が覚めてしまった。
半分寝ぼけたままトイレに行こうとすると、居間の方から話し声が聞こえてきた。
どうしたのかと思って耳をそばだててみると、どうも父さんと母さんが話しているようだ。
「今までずっと面倒見てきたけど、やっぱりあいつはダメだな。もうお手上げだよ」
「そうかしら。まだ大丈夫だと思うけど……」
「いままでそう言い続けてきたじゃないか。いっつもそうだそのときだけ良くなったようで、本当はまったく直っちゃいないんだ。
ちょうど明日は休みだ。あんな役立たず、放り出してこよう」
え……父さん。それって……
「明日ドライブに行くときに山にでも捨ててこよう」
「なに言ってるんですか。そんな……」
それから先は覚えていない。
夢中で布団に飛び込んで、震えているばかりだった。
父さん、お母さん、僕、そんなに駄目な子だったの?
休みのたびにキャッチボールをしてくれた父さん。
ドロだらけの服を苦笑いしながらきれいに洗濯してくれた母さん。
そんな二人が、本当は僕のこと、嫌いだったんだ。
僕は布団を頭まですっぽりかぶり、声を殺して泣き続けた。
93 :No.25 「深夜の密談」 2/2 ◇ZetubougQo:08/01/20 23:43:28 ID:skV5Bk2N
どれほどの間、泣いていたのか。
いつの間にか窓の外は明るくなっていて、下から母さんのご飯よという声が聞こえてくる。
昨日の声が頭から離れない。
そのままじっとしていると、痺れを切らした母さんに布団を剥ぎ取られ、起きてくるように言われた。
恐る恐る居間に入ると、お父さんもお母さんもそろっていた。
昨日の夜のことなんて嘘のように二人ともやさしい顔をしている
こんな顔で僕をずっとだましてきたのだと思うと、胃に石でも入ったように苦しかった。
そのまま鉛のようなご飯を食べ終わると、お父さんが話しかけてきた。
「なあ、今日ちょっと出かけないか」
固まった僕の肩に手を乗せながら、顔を覗き込んできた。
行っちゃいけない。ドライブになんて行っちゃいけない。
そうは思っていても、有無を言わせないようなものを感じて、僕はうなづくしかなかった。
車に乗ってからは、もう何も考えられなくなっていた。
またこの町に帰ってこられるのか、学校はどうなるのか。
頭の中が混乱してしょうがない。
うつむいて、ただくしゃくしゃになった頭で、涙をこらえるのが精一杯だった。
「おい、ついたぞ」
お父さんの声に頭をはたかれて、僕はびくっと跳ね起きた。
ここは……あれ?近所のホームセンター?
「今日から夏休みだしな。お前もあんなボロボロの自転車使ってちゃあ楽しめないだろ。昨日お母さんと相談してな。
古い自転車を捨てて新しいのを買ってやろうってことになってな」
「聞いたよ、お友達と勉強会もするんだってね。これで誰の家に行っても恥ずかしくないね」
お父さん、お母さん。
二人のその顔を見ると、僕はまたうつむいてしまった。
その言葉で、簡単にこらえていた涙があふれてきてしまった。