【 地球という名の密室 】
◆QkUF35VH4c




83 :No.22 地球という名の密室 1/1 ◇QkUF35VH4c:08/01/20 23:24:13 ID:skV5Bk2N
「人が多すぎるのよ」少女が眉をひそめて言った。「もっと減らさないといけない」
「でも日本は少子高齢社会だし、これからはどんどん人口が減っていくと思うよ」少年はそう返して、さらに付け加えた。「まず、
中高年がさっさと死ぬべきなんだ。そして、先進国のお金を途上国にまわして、子供をたくさん生まなくてもすむようにする」
「甘いわね、途上国ではどのみち生まれた子の大半がすぐに死ぬからいいのよ」少女は冷たいことを平気で言い放った。「ど
うしてあなたはそうやって物事を平和的に解決しようとするの?」
「君は戦争がしたいの?」
「私は戦争がしたいんじゃないわ。弾圧がしたいのよ。戦争に勝つだけじゃダメだわ。もちろん劣勢すら論外。圧倒的に蹂躙し
ないと気がすまないの。踏みにじるのよ、ゴキブリみたいに。途上国の未発達な人間なんて人間ではないわ」
「君はゴキブリを踏みにじるのかい?」少年は大袈裟に尋ねた。
「揚げ足とらないでよ。できるわけないでしょ、あんな気持ち悪いの。あー、やだ。想像するだけで寒気がするわ」
「表現したのは君じゃないか。それにしても……1000年前も君みたいな人間がいたね。平家にあらずんば人にあらず、って。
君風に言えば、先進国にあらずんば人にあらず、かな?」
「安直よ。別に私は先進国を誇示したりなんかしてないわ。それくらいあなたもわかってるでしょ? そうね……平家みたいな
没落貴族と同類にされたくないけれど、私的には、我にあらずんば人にあらず、かしら」
「君以外は人間じゃないのかい?」少年は自嘲気味に微笑んだ。「じゃあ、僕も人間じゃないわけだ」
「あなたは特別よ。大切な人間だわ」少女はそう言ってから、少年の口元の笑みに気づき、きまり悪そうにした。「私今なんて
言ったのかしら? 誰かに乗り移られてたみたいだわ」
「君は僕が大切な人間だって言ったよ」少年は意地悪そうに言った。「特別なんだ。なんだか嬉しいな。だってこの世には人間
が僕と君の二人しかいないんだもんね?」
「そうね、だからといってこの二人が夫婦になるとは限らないわ」少女は気丈に振舞った。「アダムとイブが最初の夫婦なら、
私とあなたは最後の……」
「最後の?」
「……ラ、ライバルよ」
「くっ……なんだよ、それ」少年は苦笑いをした。
「地球は狭いわ。こんなところに閉じ込められた人類と水槽の中の金魚と、何が違うのかしら?」少女は一方的に話を変換した。
「金魚からしたら、僕らは宇宙に住んでいるわけだね。僕らからしたら、地球の外はなんだろう?」
「鯛焼きか何かじゃないかしら?」少女はつまらなそうに答えた。「お腹が空いたわ」
「鯛焼きでも食べに行こうか」
「やっぱり安直ね」少女は満足げな顔をした。「私、餡子嫌いなのよ」
「君はねじれすぎなんだよ」少年は肩をすくめた。



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