【 「密閉」 】
◆572rQaXGEU




81 :No.21 「密閉」 1/2 ◇572rQaXGEU:08/01/20 23:20:10 ID:skV5Bk2N
夕方、いつものスーパーへと向かう。街はオレンジ色に染まっている。
暖かな色がなぜだか食欲を刺激する。

豚、牛、鶏……様々な生肉が並ぶ業務用冷蔵庫の前に私はたたずむ。
私は料理が苦手である。したがって作れる料理もうんと少ない。
ここ最近はカレーの作り貯めを続けている。さて今回は何のカレーにしようか。

「ありがとうございましたー」
とぼとぼと店を出る。風がびゅうっとすり抜ける。しかし今日は少し温かな気がする。
今日はチキンカレーだ。


眠りから覚める。なんだか少し窮屈な気がする。そして実に騒がしい、臭いし。
「こけーーーーっ!!」
ん?なんだ、なんだ?音がヤケに近い。振動までも感じるほどに近い。
ふと右を見る。にわとり。ふと左を見る。にわとり。
すると私は?きっとにわとり。そもそも鳴いたのも私な気がする。
それで音があんなに近かったのか、と納得する。

82 :No.21 「密閉」 2/2 ◇572rQaXGEU:08/01/20 23:22:02 ID:skV5Bk2N
「ねえ、きみ」
と私は右のにわとりに問いかける。
「なんだ?」
と素っ気ない。苦手なタイプだな。先が思いやられる。
「いや、別に……」
口ごもる私。やはりこの手のタイプは無理だな。
左のにわとりに聞こう。何だか優しげな表情をしているし、なんてことを考えていると右のにわとりが一言こぼす。
「今日だな……出荷」
「え?」
「もう1時間もないのかな、細切れにされるまで」
「冗談?」
「言えるかよ、こんなときに」
「……」
「太陽って知ってるか?」
「……そりゃ知ってるよ」
「けど見たことはないんだろ?当たり前だよな。俺たちは歩くことすら許されないんだから」

肥やすためであろう。首しか動かすことができない。目の前には雑穀の列がどこまでも続く。
同胞もどこまでも、どこまでも続いている。

「来たぞ」
と右のにわとりが言う。ひどく憎しみのこもった口調で。
見覚えのあるかつての私の同胞が私を屠殺し、細切れにし、そして包装し、出荷する。
作業である。まったくもって作業である。
恐怖はない。執着もない。あるのはただ厳然たる理だけである。

私は届けられるのであろう。いつものスーパーへと。
あのオレンジ色の包み込むような優しく穏やかな光は私の赤々とした筋繊維を照らすのであろうか。<了>



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