【 秘密のお願い… 】
◆czxS/EpN86




67 :No.18 秘密のお願い… 1/5 ◇czxS/EpN86:08/01/20 22:59:32 ID:skV5Bk2N
 人間には他者に知られたくない黒歴史というものが確実に存在する。

……いや、そう思いたい。というか、そうであってくれ。

「結婚はしたくないんですけど、子供は欲しいんです、謝礼もお支払いいたします」
「誰にも内緒で、あなたの精液を、直接くださいませんか」

全てはこのメールから始まった。
今ならこのメールに全力でツッコむことができるだろう。というか見ず知らずの他人にこんな
頭がスイートスポットな事を頼む女には、まず関わろうともしないはずだ。

しかし、俺は違った。
当時の俺は中二病の中期で、
「窓を開けっぱなしにしておけば銀髪の不思議少女が現れるかもしれんワーイ」
と大真面目に信じその結果窓枠を雨で腐らせ、

「世界への扉が……開きますように……」
などと呟きながら自分で自分の携帯に謎の呪文メールを送り、
文面が変わって
いないかどうか確かめ続けるといったそれはそれは痛い男だった。

そんな男に青臭い性欲が加わり、とんでもないモンスターが誕生したのは言うまでも無い。

 メールを受け取って30秒後には指定サイトでの登録を済ませていた俺は、
「ひとみ」と名乗るその子作り志願者にメールを送った。
「メール見ました、早速打ち合わせしましょう、こっちとしては日曜とかが都合いいんですけど」
メールはすぐに返ってきた。



68 :No.18 秘密のお願い… 2/5 ◇czxS/EpN86:08/01/20 22:59:49 ID:skV5Bk2N
「始めまして、ひとみです。今おいくつなんですか?私みたいなタイプはどうですか?」
ここで冷静に返すんだ、いいか焦るなよ……。
「俺はまだ20歳(大嘘)で、あなたをひと目見てこれだとこの人しかいないと思いました」
完璧だ。
そうだ、どうせだからプロフィールも登録しておこう。これなら質問されなくて済む。

「ああ、そうですか。私、最近彼氏に振られちゃって……そんな時にあなたからメールを貰って、凄く嬉しかったんです」
なんて事だ、俺はいつの間にかこの子にメールを送って……あれ?
しかし、彼女が謝礼の話を始めたので、そっちに集中する事にした。

いつしかメールの回数は20通を超えた。
「それじゃ、日曜日。お菓子作って持っていきますから。遅刻は無しですよ?」
ふぅ……まったく、お菓子だなんて、わざわざ気を使ってくれなくてもいいのに……。

「いえ、謝礼だけで十分ですよ、それに俺、甘い物は好きじゃないんで」

こうして、謝礼として30万円と、ホテル代を出してくれる上に子作りまでしてくれるというひとみと
会うことになった。

決戦の日は日曜日だった。
「明日の日曜、どっか行こうぜ」
という友人からの誘いに
(へっ、せいぜいゲーセンでも行くがいい。俺が大人の階段を昇っている間になぁ!!)
「すまん、明日はちょっと先約があってな、まぁ、正直気乗りはしないんだがなぁ…」



69 :No.18 秘密のお願い… 3/5 ◇czxS/EpN86:08/01/20 23:03:16 ID:skV5Bk2N
と答え、颯爽と家に帰った。
(早漏じゃ、何かかっこ悪いよなぁ)
と二回ほど処理をした後、明日の為に新しいパンツを出して、その日は眠った。

 朝はやってきた。
俺は身支度をして家を出た。
待ち合わせ場所は駅前のハンバーガーショップだった。
バスに乗り、携帯でサイトに接続し、待ち合わせ場所を確認……
できなかった。

 携帯の料金リミットが発動していた。

それはそうだろう。調子にのってパカパカとサイトに繋げていれば、自ずとそうなる。
しかし困った。これでは連絡が取れない。
確かひとみはおっちょこちょいなタイプで、だから待ち合わせ場所に着いたら必ずメールを
してくれ、とそれはそれは何度となくメールしてきたはずだ。
暫く悩んだが、結局
「まぁ、待ち合わせ場所に行けば何とかなるだろう、うん大丈夫」
と結論を出した。

駅前のハンバーガーショップに着く。
いつもはコーラを頼むところだが、
「甘い物が嫌い」
と宣言してしまった以上、それを破るわけにもいかない。もしひとみが待ち合わせ場所に到着し、
「あ…あの人はコーラを飲んでいるから、違うわ」
となってしまったら、一大事だ。
「アイスコーヒー下さい。あ、シロップはいいです」
ブ ラ ッ ク コ ー ヒ ー な ん て 飲 ん だ こ と ね え よ 畜 生

70 :No.18 秘密のお願い… 4/5 ◇czxS/EpN86:08/01/20 23:04:19 ID:skV5Bk2N
 ちっとも美味しく感じないコーヒー
をストローでチューチューやりながら30分。
ひとみらしき人物を今か今かと入り口前で待ち続けるギラギラした男を、周りの主婦達はどう捉えていたのであろうか。
恐らくは店員も注目していたはずだ。
「あ、全然怪しくないっすよ、俺はただですね、ひとみと子作りを……」
と横に座っている若奥様の会話に入っていこうかとも考えたが、それはやめておいた。

いくら待ってもひとみは訪れなかった。
いつの間にか夜の9時を過ぎ、周りにはカップルや高校生達が座るようになった。
俺は、ゆっくり席を立った。
そして……
そのまま、愚かな自分に反省しつつ……



駅前のテレクラへ駆け込んだ。
そうだ、きっとひとみは、何度メールを送っても返事が来ないから、だからきっと勇気が出なかったんだ。
でも今度は大丈夫、だってほら、60分900円って、とっても良心的じゃないか。
「初めての方ですと、入会金4000円かかりますね」

構うものか、ひとみに流させた涙は、4000円じゃ払えない。
緊張しながら、受話器を取る。
「はじめまして、唯って言います」
唯は19歳の女子大生で、テニスをやっているそうだ。

71 :No.18 秘密のお願い… 5/5 ◇czxS/EpN86:08/01/20 23:05:26 ID:skV5Bk2N
「え?ぺ〇ス?」
「もう、やだぁ、違いますよぉ」
大分打ち解けて来た所で、俺はいよいよ会う約束を取り付けた。
「今、練習終わって友達と飲んでたんですよ……汗臭かったらごめんなさい。」
気遣いまでできる唯に、俺はすぐに魅かれた。

深夜1時に、唯を待つ。
30分、1時間、そして2時間。
時折通りかかるタクシー、運転手が俺を不審な目で見つめる。
ほろ酔いで歩いてきたOLが、深夜の道端に立ちすくむ俺を見つめ、通り過ぎ、もう一度振り返り、走り出した。
やがて夜が明けた。

「学校……行かなきゃ」
誰に言うとも無く呟いた。
ひとみからは、それ以来二度とメールが来ることはなかった。傷付けてしまったのだろう。
だから、このサイト利用料金21730円(税込)は、精液を提供できなかった彼女への償いという意味なのだろう。


書いているうちに、どうやら俺は、泣いていたらしい。
だから、俺は今、きちんと君にお別れを言うよ。

ありがとう、ひとみ、それから、唯。お幸せに。

ありがとう、さようならって。



−了−



BACK−秘密の◆/sLDCv4rTY  |  INDEXへ  |  NEXT−蜜月の旅◆Jc4n4r55vw