【 過密非密密会 】
◆pxtUOeh2oI




21 :No.6 過密非密密会1/2 ◇pxtUOeh2oI:08/01/20 15:33:33 ID:YlS5K4gx
「そろったな」
 檀上の横、黒一色に身を包んだ男は低い声で、そう言った。会場にいたいくつかのグループがその男に注視し、
集会の始まりの合図を待っているようだった。
 その男は、始まりまでもうしばらく掛かることを告げると、ビー玉のように冷たい目を動かし、僕を捉え歩み寄る。
「見ない顔だな。新入りか?」
「は、はい。太郎の友達で……」
 声がうまく出ない緊張しているようだ。おどおどと怯える僕をなだめるように、その男は言った。
「そうか、がんばってくれよ。太郎はどうした? 最近、見ないが?」
「どうも怪我で、来るのは難しいみたいです。よろしく伝えておいてくれと」
「怪我か、俺達は病院に行くのもままならないからな……」
 彼は、僕の返事を待たずに、檀上の方へ向って行った。どうやらはじまるらしい。
 僕とあの男が話している間に檀上に上がったらしい派手な男の開会の挨拶が終わり、
代表と思しき、少し老けた印象の男が話を始める。空気が変わった。
 このような集まりが初めての僕は、会場の隅で辺りを伺う、皆が代表の話に聞き入っているようだった。
「さて、挨拶はこの辺で切り上げ、今日の本題に入ろうと思います。後は、お願いしますよ」
 そう言うと、代表と思しき男は壇の隅へ下がった。かわりの男が壇の中心へと上がる。
 出て来たのは、先ほど僕に話しかけたあの男。どうやらかなり上の地位にいるらしい。
 あの男は、黒く迫力のある格好とは不釣り合いな笑顔、むしろ相手に恐怖を与えかねないような笑顔で話し始めた。
丁寧な言葉使いが余計な怖さを引き出している。
「突然ですが、みなさん。この場所をどう思いますか?」
「暗い!」「せまい!」「日陰!」
 数々の不満の声があがる。確かに日当たりも悪く、数に比べて場所も狭い。
僕はこうした集まりが初めてだったので、これが普通なのかと思っていたけど、少し違うらしい。
「みなさんの不満は重々、理解しております。さて、そんな不満の全ての原因は……」
 来た。この集まりの目的。家の中で大事にされてきた僕の体験したことの無い争い。それは……

22 :No.6 過密非密密会 2/2 ◇pxtUOeh2oI:08/01/20 15:34:12 ID:YlS5K4gx
「前回の抗争での、我が組の敗北にあります」
 彼の放った一言に、会場からは怒りとも悲しみとも取れない緊張した空気が流れた。
 太郎から聞いた話では、前回の抗争で持っていたシマの多くを取られたらしい。
 この世界でのナワバリは力の象徴、引いては女の子を誘う力にもなる。
 それを失うことは男として死にも等しい。
「ビルの立ち並ぶ大都市東京、敗者には、情けは無い! 今、この現状に満足している者はいるか?」
 皆がその問いに答える。満足している者は一人もいない。いるわけがない!
「ならば、自分たちの力で勝ち取れ!」
「オー!!」
 怒号の飛び交う熱気の中で、僕は戦う決意を持った。僕はもう、部屋の中で閉じこもっているあのことの僕とは違う!
 あの男は、会場の熱気が冷める前に、次回の方針を話しはじめた。
「次回はこちらから仕掛ける。敵に休む暇を与えるな!」
 僕の心臓は暴れるねずみの如く、拍動していた。はじめての集会、
そしてこれから起こる他の組との抗争。僕は経験したことのない新しい体験に身を震わせていた。

「あ〜、ねこちゃんがいっぱいいる〜」
 僕たちの集会が行われていた、ビルに囲まれた駐車場の横を人間の親子が通りかかった。
「何してるのかな〜?」
「みんなでお話し会をしてるのかもね」
「ゆっちゃんも、ねこちゃんとおはなししてくる〜」
 と人間の少女が何か言葉を発し、突撃してきた。突然の乱入者に僕らは慌てて四方に散った。
「あ〜ねこちゃんたち、行っちゃったあ……」
 おかしな声を出す少女を尻目に、僕は集会場を後にした。
 疲れた。緊張から解き放たれ、眠たくなってきた。
 僕は、今日あったいろいろなことを思い返しつつ、お気に入りの室外機の上で昼寝をする。かつおぶしの夢がみたいな……

おしまい



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