54 :NO.14 アルトリコーダー 1/1 ◇dHfRem3ndk :08/01/14 00:36:06 ID:GNVBbaTt
俺の体は放送室、俺の皮膚は防音壁、音は外から入ってこない、空気の波からの完全なる密室。
だから完全に遅れて音を出す。手遅れからの自己主張。リズムに対する不協和音。会話は例えるならセッションだと言うのに。
俺は気づかなかった。もうずっと、そうしてくれていたのに気づかなかった。
会話の始まりはいつも自然で、君が気を使ってくれている事に気づいたのは3年の夏頃からだった。
「俺が」君を好きなことに気がついた。天気に関係なく世界が楽しいことに気がついた。
今までと同じように話せないことに気がついた。目線で追ってバレないようにしている自分に気がついた。学校生活が残り少ないことに気がついた。
でも勇気がない自分に気づいたのが一番悔しくて、俺はそんな自分が許せなかった。
だけど運命は一度だけ微笑んで、俺は素直に生きるため何かを振り絞った。
「でね? あなたとわたし以外、みんな気づいてたんだって。何でだろうね?」
君はそう言って俺の顔を見る。瞳をのぞきこむ。
あの時の放課後、二人きりになった時からずっと変わらない笑顔で、一番近い場所からのぞきこむ。
勇気を出せて良かった。君が答えてくれて良かった。
とても幸せな何かの音、密室ではなくなった、ただの部屋。
おわり