【 腐女子?食える食える、美味いらしいよ? 】
◆c3VBi.yFnU




47 :NO.12 腐女子?食える食える、美味いらしいよ?◇c3VBi.yFnU 1/5:08/01/14 00:30:11 ID:GNVBbaTt
「ねえ、私また告白されたんだけどさ……」
 俺の部屋でゲームをやりながら、彩乃がそんなことを俺に言う。今こいつがやっているのは、昨日発
売されたばかりのシューティングゲーム。俺が買ってきたものだが、まだやっていない。勿論開封すら
していないし、こいつが勝手にやっているだけだ。そして俺は見ているだけ。自分で買えよ。
「普通彼氏持ちに告白なんてする? 私だったら絶対にしないんだけど……あ、死んだ」
 悲しげな音楽がスピーカーから聞こえる。この音を俺はさっきから何十回も聞いている。いい加減飽
きないものか。断言しよう、シューティングはお前に向いてない。
「俺は良いと思うぞ。カッコ良かったらそいつと付き合えばいいじゃねえか。むしろ付き合え」
 こういった話は今までに何度も聞いていたので、俺の返事も自ずとワンパターンになってくる。今ま
で何回このやり取りをしたのだろうか。次に綾乃が言う台詞も、一字一句間違いなく俺は予想できる。
「だって、和馬のほうがカッコいいんだもん。あと、彼氏がそんなこと言うもんじゃないわよ?」
 誤解無きように。誓ってこいつと俺は付き合っていない。あいつから告白されたわけでも、勿論俺が
告白したわけでもない。単なる噂だ。勿論、仲が良いことは認める。昔からの付き合いだ、そんな噂一
つで邪険にしたりはしないさ。ただ……
「なぁ、毎回毎回思うんだが、俺はいつからお前の恋人になった?」
 気がつくと俺はこいつの恋人になっていた。ホント、いつからだっけ。中学校くらいか? よく覚え
てはいないが。
「……ちょっ、ああ! もう、話しかけないでよ! せっかく先に進めそうだったのに……」
 また死んだのか。俺を責めるな、お前が死ぬのは時間の問題だったんだ。というか、恋人なら恋人ら
しい会話を心がけたらどうなんだ。これじゃどう大目に見ても、仲の良い友人同士の会話だろう。
「まったく、この戦闘機旋回が遅すぎなのよ。これじゃ避けられるわけ無いじゃない」
「ああそうかよ。俺はお前の腕に問題があると思うけどな」
 ミサイルアラートが鳴り響く中、一直線に敵陣突破しようとしたら、そりゃあ撃墜されるに決まって
る。今日びのCPUは高性能だからな、舐めていると痛い目にあうんだ。見ているとそれが良く解る。
「ねぇ、他のゲームは? 新しいの、これだけ?」
「そんなにポンポン新作を買える程、俺の財布は潤っちゃいない。と言うか、お前自分で買えよ。人が
買ったゲームに文句ばっかり付けやがって、少しは俺にもゲームを提供しろ」


48 :NO.12 腐女子?食える食える、美味いらしいよ?2/5◇c3VBi.yFnU :08/01/14 00:31:22 ID:GNVBbaTt
 俺が買いそうなゲームの発売日を目聡くチェックしては「ねえ、あれ買うの? 買うよね?」と、最
早買えと言っているようにしか聞こえない口調で俺に迫り、いざ購入したとなると真っ先に自分がやる
というこいつの暴挙は、確か小学校の頃から続いている。今まで先にプレイされたゲームはおよそ30本。
その内先にクリアされたのは26本。残りのゲームも話の大筋が解ってしまったので、俺はやる気にはな
れなかった。つまり金の無駄。売ろうかとも考えたが、なんとなく勿体無い気がするのでそれはやめた。
それに、なんだか負けたような気分になるし。
「はいはい、いつかねー。……ふぅ、なんか飽きちゃった」
「そりゃ、三時間死に続ければ飽きるだろうな」
 今までやってたことが驚きだ。よくもまぁ飽きもせずここまでやるもんだ。時間は夜の十時。夕飯を
食ってから休まずやり続けている。その間に交わした会話は、先程のものを含めて僅か三回。内容もあ
れ以外はゲームに関するものだった。
「で、さっきの話なんだけどさ……」
「うん?」
 ゲーム機の電源を落として、綾乃が言う。珍しいな。この手の会話が続くことなんて、最近は無かっ
たんだが。まあいい、暇つぶし程度に付き合ってやるか。
「そいつ、私に向かって『あんな奴のどこが良いんだよ? 見た目格好良くたって、所詮はオタクじゃ
ないかよ! キモイだろ、そんな奴!』とか言ってきたのよ。まったく、何様かしらね」
 へぇ、それはそれは。全く解ってないな、その男。そりゃあ振られるわ、ご愁傷様。出直して来い、
あと百年後くらいに。
 何故かって? オタクがそんな事言われれば、大抵は怒るに決まってるだろ。
 要は、彩乃もオタクなのだ。それも筋金入り。まぁ、パッと見でそれがわかる奴なんて、そうそう居
ないだろうがな。
「やっぱり、オタクはオタクとしか付き合えないと思うのよねー。正直、私の部屋なんて一般人には見
せられる有様じゃないし」
「確かに、女の部屋にエロゲーが転がってたら、大抵の男は引くだろうな。いい加減に掃除したらどう
だ? 最近、お前の部屋から掃除機の音が聞こえないんだが。あと、変な物言いをするな。部屋が綺麗
なオタクなんて沢山いる。お前が少数派なんだよ……たぶん」


49 :NO.12 腐女子?食える食える、美味いらしいよ?3/5◇c3VBi.yFnU:08/01/14 00:31:53 ID:GNVBbaTt
 否定しきれないのは、俺の中にも、いわゆるオタクに対する偏見というものがあるからだろう。その
偏見から逃れるため、身嗜みや身の回りの整理整頓には気をつけているのも事実だ。俺もオタクだから
な、だが、そこまで重度のオタクでもない。せいぜいゲーム好きが高じて、自作ゲームを作る程度だ。
一応言っておくが、別に18禁でもなんでもない。自分でゲームを作るソフトがあるだろう? あれでち
ょこっと作るくらいだ。
 そして重度のオタクである彩乃の家は、塀を一つ挟んで隣にある。そしてこいつの部屋は俺のすぐ向
い。ゲームでは良く見かけるシチュエーションだが、そこに見えるのがオタクの部屋だったら、どうす
る? しかも汚い。
「別にゴミが散らかってるわけじゃないもん。ちょっと片付けるスペースが足りないのよ。この部屋に
置かせてって言っても、和馬は嫌だって言うし……男がエロゲー持ってる方が自然でしょ?」
 確かに自然だが、それでも一般的に見ればそれは異常なんだよ。いい加減に気付いてくれ、この腐女
子が。世間に認知されたとは言え、まだまだ俺達は異端なんだ、マイノリティなんだよ。
「女がエロゲーなんて言葉を口にするな。そもそも俺達は18歳未満だ、最早異常を通り越して違法なん
だよ、ちったあ自重しろ」
 俺達はまだ17歳、青春真っ只中にいる。こんな事するより、他にやる事があるだろうに。
「別に、お父さん名義で買ってるから問題ないじゃない。それに、そこまで買ってるわけじゃ……」
「月に五本のペースで買ってる奴が、何か文句でもあんのか?」
 こいつが買うゲームっていったら、それこそエロゲーオンリーだからな。そういったものに興味が無
い俺としては、はっきり言って金の無駄遣いにしか見えない。詳しくは知らないが、安くは無いんじゃ
ないのか?
「……まぁ、そこは……ねぇ? お察し下さいというか……なんというか」
 えへへーなんて苦笑いしているこいつは、今後もこのペースで買い続けるのだろう。今でこそ親が傍
にいるからマシなものを、一人暮らしでも始めたら、一体どうなることやら。俺も人のことは言えない
が、こいつは間違いなく廃人になる。絶対に、確実に、もうどうしようもないくらい。
「まったく……こんな事言うのも失礼かも知れんが、その内おばさん達が亡くなったらどうすんだ?遺
産食い潰してゲーム三昧か?」
「失礼ね、流石にそこまではしないわよ。いざとなったら働くわ」
 いや、俺が失礼だと思ったのは、いまだ壮健でいるこいつのご両親に対してであり、こいつの未来予
想図に対してでは無いのだが。というか、働く気があったのか、こいつは。「いざとなったら」の部分
に若干の不安は残るのだが。


50 :NO.12 腐女子?食える食える、美味いらしいよ?4/5◇c3VBi.yFnU:08/01/14 00:32:35 ID:GNVBbaTt
「て言うかー、そもそも働く必要ないし」
「……やっぱり、食い潰すんじゃねえか。おじさんも大変だな、こんな娘を持って」
 親の遺産でエロゲーとネトゲ三昧。食いたいときに食って寝たいときに寝る。なるほど、ネオニート
とはこいつのことか。
「別にエロゲーをやるなとは言わないが、せめて自分の将来くらい真面目に考えろ。お前が就職するの
か進学するのかはどうでも良いが、ニートだけにはなるなよ?」
 こいつには、進路希望調査票に「第一希望・フリーター」と書いた過去がある。本人曰く「好きなこ
とが出来るって素晴らしい事じゃない!」だそうだが、大抵のフリーターは好きなことは出来ずに、そ
の自由な生活に終止符を打ち、挙句の果てにはやりたくも無い仕事に就く事になるのだ。本当に夢が叶
うフリーターなんて、全体の何パーセントになるのやら。厳しい世の中だ。
「何言ってんのよ。和馬に養ってもらうんだから、働く必要なんて無いでしょ? 私達、結婚するんだ
から」
「は?」
 ついに恋人から夫婦にまで話が発展したか。こいつの脳味噌には致命的な欠陥があるようだな。人の
話を聞くという、人とのコミュニケーションに於いて最も大切な機能が、こいつには備わっていなかっ
たらしい。冗談のように聞こえるが、こいつは冗談のような事を本気で言うから困る。
「私は和馬が好きで、和馬は私のことが好き。じゃあ、もう結婚しかないじゃない?」
「いや、待て。俺がいつお前に告白した? つーか、お前はいつ俺に告白した?」
 嫁がニートなんて話、聞いたこと無いぞ。そりゃそうだ、ニートってのは労働意欲も学習意欲も無い
人間のことだ。専業主婦とは訳が違う。そして俺は、こいつが家事に徹する様を全く想像できない。
「何? じゃあ和馬は、私のこと嫌い?」
 いや、面と向かってそう問われて「うん、嫌い」なんて言える訳無いだろう! いや、別に嫌いじゃ
ない。嫌いじゃないが……
「彩乃が……俺の、嫁に?」
 想像がつかない。甲斐甲斐しく「あなた」なんて呼ばれるのも微妙だし、勿論「旦那様」と呼ばれ
るのも御免被る。……「御主人様♪」とは呼びそうな気はするが。なんとなく。
「子供は二人がいいなー。男の子と女の子、一人ずつ。それで、たまには皆で遊びに行って……」
「おいおい……」
 彩乃の妄想は加速していく。でた、彩乃お得意の妄想ワールドだ。

51 :NO.12 腐女子?食える食える、美味いらしいよ?5/5◇c3VBi.yFnU:08/01/14 00:33:03 ID:GNVBbaTt
「でも、時々二人っきりでデートして……それで和馬が『三人目、欲しくないか?』って……」
 アホか。俺にどんな台詞を言わせる気だ。子供は二人で充分……って違う!
「あっ、だめよ和馬……あの子達が起きちゃう……もう、しかたないんだから痛ぁ!?」
 そろそろ暴走しかけているので、軽く彩乃の頭を叩く。これ以上は俺のキャラさえ変えられてしまい
そうだ。第一、そういうのはガキの教育によろしくないだろうが。
「もう……ここからが良いとこなのに。こう、背徳感バリバリの……」
「それはもう良いっつーの」
「ちぇー」
 ふて腐れながら、彩乃は他のゲームを漁る。まだクリアしていないやつをやろうとしているのだろう。
俺はその様子を黙って見る。
「でも、子供はやっぱり欲しいな」
 ふと彩乃がそんなことを呟いた。ディスクをセットし、コントローラーを握る。今度はアクションゲ
ームのようだ。明るい雰囲気のオープニングが流れる。
「男の子と女の子。それだけは譲らないから」
 データをロードし、ステージが始まる。あ、早速死んだ。だがそんなことには目もくれず、綾乃は言
葉を続けた。
「頑張ってよね、パパ? 色んな意味で」
 なるほど、パパか。そういう風に呼ばれるのは悪く無いかな。
 再び悪戦苦闘しているその姿を見ながら、俺はそんなことを考えていた。





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