【 心変わり 】
◆0CH8r0HG.A




34 :No.9 心変わり1/4 ◇0CH8r0HG.A:08/01/13 00:54:02 ID:Cwm0GLbh
 どこの学校にもある不思議な話。

 曰く、その木の下で告白すれば、必ず結ばれる。
 曰く、その木の下で両想いになったカップルは、永遠の愛を手に入れる。
 
 人間はそういったおとぎ話を信じてるのか、そういう木の下で告白する奴らってのは結構多い。
 俺はそういう奴らに言ってやりたいね。無駄だ、そんな物に頼る暇があったら自分を磨けってさ。
 何でそんな話をするのかって?
 俺の目の前に、その伝説の木とやらが生えてるからだよ!
「先輩、好きなんです! 付き合って下さい!」
「ごめんね。俺、もう付き合ってる人がいるんだ」
 ほらね?
「俺、お前が好きなんだ。付き合ってくれないか?」
「ごめん。私、貴方をそういうふうには思えない。」
 やっぱり。
「にゃーにゃーにゃー」
「にゃ、にゃーなーにゃー」
 猫まで玉砕かよ。
 俺はこれまで、この木の前で告白する奴らを何度も見てきた。そりゃあ、中には上手くいった奴ら
もいたさ。数は少ないかもしれないが、そいつらの中には結婚まで漕ぎ付けたのもいるかもしれない。
 でも、それ以上に失敗する奴らを多く見てきたもんさ。そんな時、その伝説の木はどうすると思う? 
何もしてやりゃしないのさ。まぁ当然っちゃ当然だ。木にしてみれば、そんな伝説をくっ付けられたっ
て迷惑なだけで、責任なんて取れるわけが無い。
 その木が桜なら、我関せずと花を咲かせ続けるだろうし、イチョウなら銀杏の実をばら撒くだろう。
期待する方がお門違いかもしれん。
 でも振られた方にはそんな事情は関係ない。一縷の望みをかけて縋ってきた相手を袖にするってのは、
少々仁義に欠けてるとは思わねぇか?
 最近じゃあ、ケータイでメールするってのが最もポピュラーな告白の方法になっちまったらしいが、
それでもそういう馬鹿はいる。中には、この木の下でメールする奴までいるんだぜ?

35 :No.9 心変わり2/4 ◇0CH8r0HG.A:08/01/13 00:56:59 ID:Cwm0GLbh
 ん? 見てみろよ。噂をすれば、また考えなしの馬鹿がまたやってきたようだぜ? 季節は春先、桜
もまだ咲かないってのに、ご苦労なこった。

「ここにしよう」
 おいおい、随分と湿っぽいツラしてるじゃねぇかそんなツラしてちゃあ上手くいくもんもいかなくなっ
ちまうぜ? ちっ、聞こえてやしねぇ。
「やっぱりちょっと怖いな……」
 そりゃそうだ。だが、告白なんざしてみなきゃ始まらないんだぜ? ビビッてねぇでさっさとやっち
まえよ。失敗したら、俺がこの木に文句を言っておいてやるからさ。
「…………」
 にしても、妙な話だな。こいつ、黙って木を見上げるばっかりで誰かが来る気配もねぇ。かと言って
メールする気配もねぇ。というか、今は春休みだ。学校に人がいる方が珍しいんだが…。
 待てよ? おいおい、俺はちょっと嫌な予感がしてきたぜ。ああ、やっぱりだ! おい馬鹿、やめろ! 
そんなもんを見せるんじゃねぇ!
 なぁ! 誰か、あの馬鹿を止めてくれ! あいつあそこで首を括る気だ!
 俺も一度だけ見たことがある。って言っても、かなり昔だがな。人間には分からないかもしれないが、
植物にだって感情はあるんだ。褒めてやれば丈夫に育って美しい花を咲かせるし、悪口や愚痴ばっか聞か
されればしまいには枯れちまう。ましてや、自分の枝にぶら下がって人が死ぬなんて、考えただけでゾッ
とするね。
 ああ、こんなことを言ってる間に、あのガキ、ロープを結び終わりやがった! おいガキやめろ! 
生きてりゃその内良いことあるだろうが!

36 :No.9 心変わり3/4 ◇0CH8r0HG.A:08/01/13 00:58:39 ID:Cwm0GLbh
 ギシッ

 
 ああ、ダメだ。ぶら下がっちまった。おい、テメェ! こんな時くらい何とかしてやれよ! テメェだって、
人殺しになんてなりたくねぇだろう! やばい、ツラの色が変わってきてる。本当に死んじまう! 畜生、俺
が動けりゃあのロープをちょん切って、あのガキぶん殴ってやるのに。
 なぁ、頼むよ。あんな光景を俺らに見せないでくれ。一度起こっちまったら次が必ずくるんだ。定期的にガキ
の死に様見せられるなんて、俺は御免だ!


 ミシッ
 ベキベキッ
 ドサッ


 !
 お、おおおおおおおおおおおお! やったぜ! あのガキ生きてるぞ! ん? まさか、テメェが自分で折った
のか? いや、まぁ何でもいい。とにかく良かった……。
「うぇっ、ゲホッゲホッ」
 みろ。苦しいだろうが。死ぬってのはすげぇ苦しいことなんだぜ? こんなガキの頃から考えて良いもんじゃ
ねぇんだよ。大体、お前さんが首を括ろうとしたのは、自殺の名所なんかじゃなく、告白のメッカだぜ? 認め
たくねぇが、人が色恋を語る場所で死のうなんざ、無粋もいいところだ。
「ゲホッゲホッ、う、うわあああああああああああああ」
 あーあー泣いちまいやがった。無理もねぇ。だがよ、ガキ。考えても見ろよ。お前ロープを渡されて、『これで
私を殺してください』なんて言われたら殺せるか? 勘弁してやってくれ。俺たちだって生きてるんだ。
「あああああああああああ! うわああああああああああ!」
 ダメだ、泣き止みゃしねぇ。おっと、騒ぎを聞きつけて先公どもが来たようだな。これで一先ずは安心か。

37 :No.9 心変わり4/4 ◇0CH8r0HG.A:08/01/13 00:59:32 ID:Cwm0GLbh
 に、してもよ。俺は今回のことで、ちょっとテメェを見直したぜ。人が振られるのを平然と眺めてやがるから、
もっと冷たい奴かと思ってたんだがな。自分の枝を折って助けたやるとは見上げた根性だ。
 ん? 何だって? 偶然? はははっ照れるな照れるな。
 正直言うとな……、俺は今までお前に嫉妬してたのかもしれん。グダグダ文句は言ったが、人の色恋を見つめ続
けたお前さんは、常にこの辺りで一番綺麗な花を咲かせてたもんな。その綺麗な花を毎年見せつけられて悔しかっ
たんだよ。
 実際、俺の所で首括ってたらあのガキは助からなかったかもしれん。変なものを見なくてすんで感謝してるよ。
 あん?枝が折れちまったから、花が減って物足りなくなる?
 馬〜鹿。そん時は、俺がテメェの分も沢山花を咲かせてやるよ。お互いド派手に咲いて、恋に悩む少年少女に希望を
与えてやろうじゃねぇか!

 というわけだ。伝説なんて存在しねぇかもしれねぇが、俺たちはお前らの愛の告白を暖か〜く見守ってやるぜ? 
 上手くいったら精一杯桜吹雪で祝福してやらぁ。
 ん? さっきまでと言ってることが違うって? ほっとけ!


 おわり



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