【 布団の手記 】
◆wb/kX83B4.




12 :No.4 布団の手記 1/4 ◇wb/kX83B4. :08/01/12 10:49:20 ID:Vme+Ills
僕は人付き合いの下手な人間だ。僕が考えるに、自己中心的な人間だからだろう。
もっとも、僕を自己診断してそう思った訳じゃない。周りからそう言われるから
そのように思うだけだ。自分で気付くなら自己中心的とは言えないに違いない。
もうずっと前から自己中心的な生き方だ。というのも、保育園生の時から、
先生からたくさん叱られたり、習い事で隔離されたりしていたから、15年の間
ほとんどそんな生き方だったに違いない。

そんな僕の生き甲斐と言えば、自分の醜悪さを指摘されたときに開き直って、
だからなんだと強情を張ることだ。何かを盗んだり、脅し取ったりすることが
無いのだからこれくらい当然だとでも思っているようにしてね。
「君の言うとおり、僕は自分勝手だよ、だから何だってんだよ。きっと将来は道ばたで凍死しているのさ」
なんて言葉は何度も言ったからもう覚えてしまった。そんな阿呆な事を言っていても、
お茶の一つでも出されれば機嫌を直すような手合いだから救われない。この点、
通りすがりに僕のおしりをバットで殴っていくような不良の方がきっと立派に違いない。
少なくとも彼は僕みたいに簡単に機嫌は直さないだろう。そして、そんな彼を
分別があるつもりの人は「不良」なんて呼ぶんだろう。僕はそんな栄えある呼び名を付けてもらうことは無い。

そういうことを思っているというのに、生きながらえているのは、実は自分が誰よりも聡明で、
有能で高潔だなんて思っているに違いない。

さて、そんなつまらなくて傲慢な人間である僕だから、自分にしか話せない事と言えば
自分のことしかない。
ロケットの飛ばし方の概要なんかを話すのも好きだけどね。聞いてくれるかな?

僕は誰と聞かれたら、個性に乏しい中学生だと答えるだろう。先生の言うことを
キチンと聞いて、高校受験に邁進していたね。それだけ聞くと誰のことかわからない中学生、
それが僕だ。さて、今日、志望校の合格発表があって、誰のおかげさまか合格していたんだ。
その後、両親が鯛の活け作りを出前で取ってくれて、その後少しして布団の中にいる。眠いからではないよ。

眠くも無いのにどうして布団にいるのかって?特に理由はないよ。疲れただけなんだ。

13 :No.4 布団の手記 2/4 ◇wb/kX83B4.:08/01/12 10:50:01 ID:Vme+Ills
そのころ、去年の11月だったかな。教室の中を歩くだけでも、みっともない自分の顔と
歩き方を他人が見たらどう思うだろうと想像して、焼かれるような感触が背中に広がってた。
自分なんて、教室にいる将来の希望にあふれた人士に比べれば、何に例えようもない
ものすごく矮小な存在だとしか思えなかったからだ。なるほど、僕は同級生や下級生の誰か
よりは聡明で有能にして高潔かもしれないけれど、何かをすれば笑いものにされる
人間以下の何かでしかなかった。人付き合いがひどく苦手な僕はそんな存在だった。

さて、何の集まりだったかは忘れたけれど、教室で集会が開かれたんだ。
その時司会をしていた女子生徒、天野さんと言う人が、集会の始まりを告げた。
席から立ち上がると、彼女の顔が数メートル先にあった。別に目が合ったわけではないし、
まして彼女が僕の方を見ていた訳ではないのだけれど、目の前が真っ白になりかけて
膝ががくがくした。うん、きっと彼女の事を美しいと思ったからだろう。
ウソを言うのは好きではないから白状する。
彼女の全人格を知っていたわけではないけれど、「好き」だったのは間違いない。

それから3日くらいしてから、だったかな。自分とも彼女とも仲がそれなりにいい男
と彼女とでおしゃべりする機会が出来た。自習の時間で、どういう流れかそんな風に
なったんだ。彼女とほとんど話すことは無かったけれど、「**君だっけ?」と言う風な、
神経をえぐられるような質問はされなかった。変人の特権で名前だけは知られてたからね。
初めのうち、いろいろたわいないことを話した。テレビの事とかね。普段テレビは
見ないのに、その前の夜だけ人気バラエティを見ていたおかげで盛り上がったよ。
そのうち、まあ、胸の大きな女の子はエッチだ、とかそう言ううわさについて話が向かってね。
女の子って、結構リアルな話をするもんだなって思った。
それが一段落すると、各人についての話になってきた。「好きな人いるの?」とかそんな感じ。
彼女は好きな人がいるって言った。もう一人の男は、その時席を外してた。僕は、
好きな人がいるけれど、つきあってくれるかどうか不安だ、というような事を言った。
その時彼女が言った台詞は良く覚えている。
「**君、かっこいいから大丈夫だと思うよ」


14 :No.4 布団の手記 3/4 ◇wb/kX83B4.:08/01/12 10:50:38 ID:Vme+Ills
うん、言われなくてもわかってる。社交辞令だって。だから、ありがとうって言ったんだ。
自信が付いたって。でも、その時に言いたかった言葉はほかにありそうな気がするんだ。
それが何なのか今でもわからないけれど。
その後、とりとめのない話をしているうちに自習が終わって、会話も終わった。

さて、僕の数少ない友人の中で一番かっこいいやつで山村というやつがいるんだ。
山村は言ったね。好きな人に好きって言うんだって言って。見た目優男風だけれど、
純粋なやつなんだ。そいつがね、みんなの前で、天野さんに告白したんだ。

結果は撃沈。仲間内でパーッと騒ぐことにしてソーダやらポテトチップスやら買い出しに
行こうって事になった。そんなことを校舎の外れのほうで話し合っていたら、ぽつりと山村が言ったんだ。
「生まれて一番、凹んだ……」
みんなしんみりして黙り込んでいると、吉岡君が歩いてきた。彼は成績はほぼトップだし、
体育はそれなりで、かなり容姿がいいというやつだ。普段、颯爽としている彼が、少し
憔悴していたので、みんな隠れて様子を見ていた。吉岡君にはうわさがあった。女子の
ほとんどが彼に恋をしているって。そのほとんどには天野さんも含まれている。

その後の展開は予想が付くだろうね。
そう、彼女、天野さんがやってきた。

吉岡君は山村が告白したのを見て、不安でたまらなくなったらしい。
そして、告白
起こったのはハッピーエンド……

15 :No.4 布団の手記 4/4 ◇wb/kX83B4. :08/01/12 10:51:14 ID:Vme+Ills
その時はね、うれしかったんだ。あんなにうれしそうな表情の天野さんを見たことが無かったから。
それに、本当は受験勉強に専念しているべき時期だったんだ。だから、天野さんの事を忘れて
勉強できたんだ。毎日7時間は時間を割いたと思う。その間、自分をコントロール出来ているって
ずっと有頂天だった。

何とかは忙しさに紛れるって言うよね。結局それだけだったみたいだ。合格がわかって
ほっとして、鯛の活け作りなんて食べてたら、天野さんの最高の表情が頭から離れなく
なったんだ。それで、情けなく、布団に籠もってるってわけさ。

ああ、今、わかったよ。天野さんに「**君、かっこいいから大丈夫だと思うよ」って
言われたときに言いたいと思った言葉を。
「だったら、俺と付き合ってくれ。」
そう言いたかったんだ。もし、言っていたらどうなっていただろうか。きっと、
天野さんがイヤな思いをしただけだろうね。きっと、それがわかるから、その言葉を
引っ込めたんだろう。

これは、誇れること、成長なんじゃないだろうか。だって、僕は自分勝手な人間だ。
その人間が天野さんの事を考えて行動したんだよ。
やった、やった。僕は成長したんだ。
ついに、人の事を考えて行動できるようになったんだ。

あれ?ほんとにそうなのかな。
いや、違う。僕は自分が振られて傷つくのがイヤだっただけだ。彼女の事を考えていたなら、
山村みたいに告白すれば良かったんだ。あのとき、僕が彼女の思い人の可能性は低かった
けれど、もし、そうだったなら、彼女を幸せにすることが出来たんだ。

失敗しても深く傷つくのは僕だけ。成功すれば、僕も彼女も幸せになる。本当に天野さん
のことを考えていれば、告白すべきだった。彼女に大きな迷惑がかかるのでなければ。

結局、僕は自分のことしか考えていない自分勝手な人間だ。なんの成長もしていない。



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