【 「朝」 】
◆ZetubougQo




65 :No.17 「朝」 1/2 ◇ZetubougQo:08/01/06 22:49:05 ID:gp3+6sJH
遠くの山々が燃えるように輝きだす。
薄暗かった風景が、あかるみを帯びていく。
一日の始まり。
そして、私の時間の始まり。
人気を感じさせなかった静かな町並みが橙色に染まり、ようやく動き出す。
遠距離通勤のサラリーマンが家を出、一仕事終えた豆腐屋が店先で一息つく。
早起きなご老人が散歩を始め、飲んだくれた学生が朝帰りをする。
そんな喧騒の中に、彼を見つけた。
赤い自転車に乗り、家々の玄関先に新聞を突っ込んでまわる彼。
朝早くから汗水たらして新聞配達をする、彼。
近所の人に丁寧に挨拶をし、いつもはつらつとしている彼。
いつしか私は彼を目で追うようになり、ずっと彼のことを考えているようになった。
そう、私は、彼に恋していた。

彼は受け持ちの区画を全て配り終えると、そのまま家へ取って返す。
玄関先においていたかばんをつかみ、今度は徒歩で登校する。
学校に着くと彼はすぐ校庭に出、他のメンバーと合流する。
彼はサッカー部で、キャプテンもやっているのだ。
一生懸命部活動に打ち込む彼の姿に見とれていると。
 キーンコーンカーンコーン……
忌まわしいチャイムが鳴り響く。
彼らは教師に追われるように校内に入っていく。
その背中が校舎に消えるのを未練がましく見ていたが、そうしていても彼が出てくるでも無し。
ため息ひとつついて、私は視線をはずした。

66 :No.17 「朝」 2/2 ◇ZetubougQo:08/01/06 22:49:22 ID:gp3+6sJH
今日は運がいい。
彼のクラスは二時限目は体育だったようで、外で持久走を始めた。
また彼を見ていられる、そう喜んでいると、彼を見つめるもうひとつの視線に気がついた。
彼と同じクラスの女子。
色白で、見るからに影の薄そうな彼女は、走りながらもちらちらと彼の方を見ている。
まったくもって面白くない。
私は、ぎろりと彼女をにらみつけた。

私の怒気に当てられたのか、彼女はそのあとすぐにペースダウンしていき、とうとう倒れ込んでしまった。
いい気味だ、とそう一人でほくそえんでいると。
あ……!
ちょうど走り終えた彼が駆け寄ってきて彼女を抱き起こすと、そのまま呆然とする私をおいて二人は医務室へ入ってしまった。
くそっ!
そうして私が医務室のまどから中の様子を見ようと目を凝らしていると……
「おい、何やってんだ。交代の時間だぞ」
後ろから同僚に声をかけられた。
「ちょ、ちょっとまってよ!今あの中の様子を……」
「そうは言っても時間だぞ。ほら交代交代、早くしろよ、『朝』」
私はぶすっとしたまま昼と交代をした。



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