【 なめくじ男と探偵たち 】
◆/sLDCv4rTY




62 :No.16 なめくじ男と探偵たち 1/2 ◇/sLDCv4rTY:08/01/06 22:16:53 ID:gp3+6sJH
 なめくじ男をころすため、ぼくらカワハラ探偵団は午前四時の雨上がりでしめった夜道へずらずらとでかけた。
 みんな正義感とかなにか沸き上がってくるものですごく興奮していた。
ぼくもキョウコさんのオッパイをみたときと同じくらい興奮していた。
 この探偵団はお互いをコードネームで呼びあって、
知的で勇気のまんまんの「リーダー(四十二歳。本名カワハラ)」、
色っぽい女性「オンナ(二十七歳。本名キョウコ)」、
パソコンが得意「ワカモノ(三十歳。本名しらない)」、
そしてぼく「コドモ(十四歳。本名マチダ)」の四人で構成されている、とても仲のいいあつまりだ。
そうしてみんな仲よくいっしょに、なにかはち切れんばかりに興奮していた。

「隣町のなめくじ男は殺さなければいけない」最初にそう言ったのはリーダーだった。
続けてそのころす理由をいってぼくにはそれは意味わからなかったけれどリーダーはぼくらのあこがれで、
つよい人だったので間違いはないとぼくはすぐに賛成した。
 オンナもワカモノもすぐ賛成してめでたく満場一致でそこにみんなのきずなみたいなものが
少し見えたような気してぼくはうれしかった。
みんなもそうなんだろう、てれくさそうな、うれしそうな顔を全員がしていた。
 ということでなめくじ男はぼくらにころされることが決まった。

 普通のなめくじは塩や砂糖をかけられると水分を失って死ぬとワカモノがインターネットで調べてきて(役に立つひとだ)、
ぼくらは大量の塩をもってなめくじ男をころしにいった。
  
  

63 :No.16 なめくじ男と探偵たち 2/2 ◇/sLDCv4rTY:08/01/06 22:17:13 ID:gp3+6sJH
 一時間もさがせばなめくじ男は簡単にみつかった。
 うわさ通りそいつは頭はなめくじで胴体手足は人間という可笑しな体で肩に緑のカバンをかけて茶色い服を着て散歩をしていた。
 そこでまずリーダーが後ろから近づきそいつの頭を石で潰した。そのうえにオンナがバサアと塩を掛けた。
 悲鳴をあげて倒れてすがるように僕の方を見上げたそいつの頭を僕は石で潰した。
 二度も頭を潰された拍子にそいつはしょんべんをもらしてそのままもらし続けながら
掛けられた塩をなんとかはらい落とそうとした。
 頭がちいさくなるのに反比例してそいつの足下に黄色いみずたまりが広がって
そのみずたまりの中でチャプチャプとゆれる雑草を見てなぜか僕はアフリカかどこかの密林のことを思った。
密林のなかで吠えるひとつの麒麟。そんな光景が一瞬のうちにぼくの頭にあらわれきえた。
 塩をなんとかするためそいつは小便のみずたまりで
顔をばしゃばしゃとあらっていてそれを僕はきもちわるいと思った。
 リーダーがもう一回頭を潰してもそいつはしぶとく生きていて
しょんべんのばしゃばしゃという音はきこえ続けた。
 そのころにはもう朝日がさしてきてて辺りは黒から赤黄へと色調を変え
はっきり見えるようになったそいつの顔はぐしゃぐしゃに潰れきもちわるかった。
 みずたまりにおちたそいつの緑のカバンの端の、黄ばんだネームプレートに「吉田」と書かれていたのがみえた。
カバンから出てしょんべんに浸かった古臭い理科の教科書もみえた。
 洗いおわり教科書を拾いそいつは逃げようとしていたけれど僕らは石でも塩でもころせなかったのでこわくなって追わなかった。
 どんどんこわくなって僕がリーダーの手をにぎったらリーダーは
やさしく大きい手でにぎり返してくれてやっぱりリーダーはたのもしい。
 それからべっとりと赤く広がる朝焼けの真ん中でひとつ黄色くギラギラと輝く朝日の方へと
なめくじ男は教科書をかかえふらふらとした足取りで逃げて顔からしたたった水滴を地面にのこしてきえた。
 ぼくらはしょんべんのきいろい水溜まりの横でそれをみていた。
 残念な結果だったけれど探偵団の強い友情を感じることのできたこのさわやかな朝の中でみんなきゅうにおなかがすいて、
持ってきたおにぎりをその場でみんなで食べた(塩をたっぷりかけた)。
 そのときいっしょにのんだ水筒のミネラルウォーターはどこか小便のにおいがした。



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