【 僕が泥棒で、泥棒が彼女で 】
◆uu9bAAnQmw




55 :No.14 僕が泥棒で、泥棒が彼女で 1/3 ◇uu9bAAnQmw:08/01/06 22:13:00 ID:gp3+6sJH
 光が顔に当たり、眩しい。僕はもう朝かと思った。だが違ったんだ。
 目が光に慣れると、周りの靄の様なものが解け始め次第に見えてくる。
 どうもここは家の中らしい。ああ、カーテンをいきなり開けられたから眩しかったのか。
それにしても、何故か頭が痛い。
「図々しくいつまで寝てんのよ。まったく」
 突然の出来事に驚き急いで声の主を探す。部屋の玄関側に女が立っていた。
「もう、早く起きてよ」
 僕はそんなに長く眠っていたのか。いや、寝た時刻が分からないから長いのか短いのかすら不明だ。
「私に何か言うことがあるでしょ」
 いきなり女が言いよってきたが、皆目見当がつかない。
 そう言えば、起きた直後で頭が混乱しているのか、さっきからこの人を女、女としか言
っていない。一体この女性は誰なのか。
「そのまま無視するんなら、警察呼ぶから」
「ちょっと、無視したぐらいで警察沙汰にしなくても」
「とにかく出てって」 
「はい?」
「あなたが寝たふりしてて、もし私があなたに近づいたり、電話した瞬間襲ってくると思って。
だから起きるのを待ってたの」
 この女何を言っているのか理解できない。それとも、人間の言葉を理解出来ないほど、
自分の頭がおかしくなったのか。
「あなた、私に突き飛ばされてのびてたの」
 僕はこの女の言っている事を信用していいのか。いや、いまいち信用ならない。
 とにかくこの女の空気にのまれては駄目だ。
「あの、ごめん。一つ訊いていいかな。君誰?」
 彼女は名前をサエコと言った。どれだけ考えても頭の隅っこさえ該当する記憶がない。

56 :No.14 僕が泥棒で、泥棒が彼女で 2/3 ◇uu9bAAnQmw:08/01/06 22:13:15 ID:gp3+6sJH
 通称「サエコ」によるとこの僕が、早朝に窓から侵入してきたところを朝帰りの彼女が
ばったり鉢合わせしてしまい、取っ組み合いになった。それで、運悪く僕は彼女に突き飛
ばされ、タンスの角に頭を当て、気絶してしまったらしい。だから頭痛が酷かったのか。
 その後、警察に通報しようとしたが、僕が気絶している演技をしているのではないかと思い、
動こうにも動けなかったらしい。
 もし彼女の言っていることが真実ならば泥棒ということになのか、僕は。
 待てよ、実は彼女が泥棒で、僕が記憶喪失なのをいいことに、騙しているのではないか。
「サエコさん。あなたが本当は泥棒じゃないのか?」
「き、急に何言い出すの。そっ、それ以上近づくと、警察呼ぶわよ」
「いいのか。そんなことしたらお前が捕まるぞ」
 形勢が逆転したような気がする。あきらかにサエコは動揺している。
 ここは、人として彼女を説得し、普通の人生に戻してあげなければ。
「君みたいな女の子がなんで泥棒なんかしたんだ。何か嫌な事でもあったのか」
「だから……私、何もしてないし……」
 とうとう泣きだしてしまったので、子供をあやす様に、僕はサエコに近付き頭を撫でてあげる。
「やめて! 触らないで」 
 サエコはどうやら男不信のようで、かなりのトラウマがあるらしい。これはますますどう
にかしてやらないと。
「君に出ていけって言われた時は、本当に騙されるとこだったよ」
 なんだろう。彼女を見ていると、なんだか許してしまいそうな……駄目だ、これが彼女
の作戦だろう。
「そうだサエコさん、何か飲む? 飲み物取ってきてあげるから。でもいいね、逃げちゃ駄目だよ」
 彼女は下を向いたまま泣いているばかりだ。
 冷蔵庫の近くに、全身が写る鏡が置いてあった。ふと鏡越しに自分の姿を見ると、腰の
辺りにピッキング用の道具とサバイバルナイフが携えてあるのが見えてしまった。

57 :No.14 僕が泥棒で、泥棒が彼女で 3/3 ◇uu9bAAnQmw:08/01/06 22:13:29 ID:gp3+6sJH
 彼女は罪の意識からオドオドしていたのではなく、僕の格好をみて震えていたのだ。
「ハハハハ、サエコさん。どうも、お邪魔しました」
「早く出てって!!」 
 そう言うと彼女の前を横切り窓から帰った。

 僕はそれ以来、朝と女の涙が大の苦手になったのであった。


【完】



BACK−Space Wonder Morning◆D8MoDpzBRE  |  INDEXへ  |  NEXT−僕らの夜◆p/4uMzQz/M