【 Morning received with ペット 】
◆IPIieSiFsA




16 :No.03 Morning received with ペット 1/5 ◇IPIieSiFsA:08/01/06 13:21:27 ID:6CpjZkZf
「お邪魔します」
 ドアを開けて先に入るように促すと、彼女は会釈をして中に入った。俺も続いて家に入る。
 真っ暗な玄関で佇む彼女の後ろに立ち、手を伸ばして照明のスイッチを押した。ぼんやりとした灯りに俺と彼女が照らされる。
 彼女を追い越し、靴を脱いで廊下に上がる。
「なんで電気点けなかったの?」
 振り返って靴を揃える前に彼女に尋ねた。
「来客者が電気を点けるのは変でしょ?」
 確かにその通り。けど。
「ここに来るのが初めてって訳でもないのに」
「初めてだろうとそうでなかろうと、お客さんはお客さんです」
 キッパリと言い放つ彼女。彼女の言葉は正論で、とても彼女らしい。
「てか、未だにお客さんなの? 俺は全然そんな風に思ってないんだけど」
「それは、そうだけど……」
 反論しようとして、しかし言葉尻が小さくなる彼女。言いたい事を解ってくれたようだ。
 そういえば、彼女が初めて家に来たのは――。

 目の前に立つ彼女に俺は「なんでここにいるの?」と至極当たり前の質問をした。
「引越しのお手伝いに。学校は早退して参りました」
 こう答えた彼女の顔は、どこか嬉しそうだった。
 それは俺の引越しの日で、ひとり暮らしを始めるアパートに荷物の運び込みも終わって、荷解きをしようとしていた時だった。初めて鳴らされた呼び鈴にドアを押し開くと、平日の昼前にも関わらず、制服姿の彼女が立っていたのだ。
「そっか。まあ、どうぞ」
 彼女を迎え入れようとしたその時、メールの着信を知らせるメロディが鳴って、彼女に断って携帯を開くと妹からのメールで。タイトルが『この果報者(笑)』だったのは今でもハッキリと覚えている。
 後で見たのだが、本文には『押し倒すならあたしのいるところでお願い』の一文のみ。そうそう妹にそういう現場を見せられるわけがない。
 そして彼女を家に上げて、一緒に荷解きを始めた。

「どうしたの?」
 彼女の声に思い出から呼び戻されると、目の前に彼女の顔があった。心配そうに俺の顔を覗きこんでいる。
「いや、ちょっと昔の事を思い出しててさ」
「昔?」
 話しながら居間へ。という程の距離でもないけれど。

17 :No.04 Morning received with ペット 2/5 ◇IPIieSiFsA:08/01/06 13:21:53 ID:6CpjZkZf
「引っ越して来た日の事。いきなり尋ねてきただろ、学校サボって」
「ああ。だって、貴方の家に初めて来る人になりたかったんだもん」
 少し照れたようにはにかむ彼女。こういうところの可愛さは昔から変わらないなあ。
「それは初耳だな。そんな可愛らしいこと考えてたんだ」
「言ったら絶対笑うでしょ? 恥ずかしいじゃない」
 より一層、顔を赤くする彼女。
「笑わないよ」
 そう告げて彼女の頭を撫でてあげる。
「それが笑ってるっていうのよ」
 彼女は口を尖らせて怒った真似をすると、さっさと座布団を引いて座ってしまった。客がどうのと言っていたのは誰やら、だ。
「それよりも、ケーキ食べましょ。せっかく貴方が買ってきてくれたんだから。私が紅茶淹れるね」
 そそくさと台所へ向かう彼女。本当に、誰が客何だか。
 彼女を待つ間、俺はもう少し続きを思い出すことにした――。

 CDの入っている箱や漫画、ゲームの入っている箱。次々と開けては俺の指示通りに彼女は置いていった。
 時には下着の入っている箱を開けて、トランクスを放り投げたりもしたが。
 順調にダンボール箱を片付けていく彼女の手が止まったのは、記念物を収めた箱を開けた時だった。
「これ、見てもよろしいですか?」
 そういって見せてきたのは小学生の時の卒業文集。その時はすっかり内容を忘れていたそれを、彼女はとても真剣に見ていた。
「ふーん。大きくなったら学校の先生になりたかったんですね」
「あー、そんな事書いてたっけ」
「本当に教師になってたら、生徒への猥褻行為ですぐに捕まってたでしょうけどね」
 まったくこっちを見ることなく呟くように言う彼女。
「いやいや。そんなことしないから」
「中学生の私に、それはそれはとてもマニアックな事をさせたのは誰だったかしら?」
 そう言われて思い出したのは四つん這いになって床に置かれた皿の水を飲んでいた姿。ああ、確かにあれはエロかった。
「どちらかと言えば和奈がさせた事だけどね。まあ、君以外にはそんな事はしないけど」
 そう返した時、相変わらずこっちを見ていなかったけど、頬は赤くしていた。
 そのため何も言えなくなった彼女に対して、今度はこちらから話しかける。
「そっちは、将来の夢は何だったの?」

18 :No.04 Morning received with ペット 3/5 ◇IPIieSiFsA:08/01/06 13:22:11 ID:6CpjZkZf
「えっ? あ、将来の夢? えーっと……」
 こちらを振り向いて答えるが、そこまで言って言葉を止めた彼女。しばらく考え込んだ後、真剣な顔で見つめてくる。
「私の夢は、好きな人と『おはよう』って挨拶する事です」
 真剣な顔で、少しだけ頬を赤らめてそう言った。
「だったらもう叶ってるんじゃないの? 朝から会ったりした時は普通に挨拶するし」
「ふふふ、どうかしらね」
 意味ありげな笑みを浮かべてごまかす彼女。俺ではないということなのだろうか。

「はい、どうぞー」
 湯気の立ち上るティーカップを二つ、テーブルに並べる彼女。その隣にショートケーキの乗ったお皿を置く。
 彼女が再び座り、両手を合わせて「いただきます」と口を開きかけて止まった。
 俺が彼女の事をジッと見詰めているからだろう。不思議そうな顔でこちらを見ている。
「うん。改めて、大学卒業おめでとう」
 言われる事を予想してなかったのか、彼女は少し面食らったような顔をして、でもスッと表情を戻して「ありがとうございます」と深々と頭を下げた。
 彼女が頭を起こしてニコッと微笑み、俺はそのタイミングで再び口を開く。
「俺と、結婚してください」
 自分でも信じられないほど、自然に言えた。
 彼女は、先ほどよりも驚いた顔で、その時間も長い。
「回りくどく言うと、毎朝俺の味噌汁を作ってください」
 この言葉で、彼女の表情が戻ってきた。というか、キッとこちらを睨んでいるような気がする。
「なんでそんな変な言い方するの!」
「いや、驚いて固まってたからさ。解き放ってあげようという優しい心?」
「そんな変な心は入りません! せっかく嬉しくて余韻に浸ってたのに……」
 終わりは愚痴っぽく呟く。
「それで?」
 俺は分かりきっている答えを促す。
 彼女は、正座したままの姿勢でじりじりと後ろに下がり、真っ直ぐにこちらを見詰めてくる。
「不束者ですが、宜しく御願い致します」
 三つ指ついて、丁寧に丁寧に頭を下げた。彼女らしく、きちんと礼儀に則った返事。俺も「此方こそ、宜しく御願い致します」と頭を垂れる。
 そして同じタイミングで顔を上げ、同じタイミングで微笑む。

19 :No.04 Morning received with ペット 4/5 ◇IPIieSiFsA:08/01/06 13:22:30 ID:6CpjZkZf
 と、彼女の瞳から涙が零れた――。

 アパートの隣の部屋の前に立ち、俺は躊躇っていた。
「ホントに二人で挨拶するの?」
 俺の隣には彼女が寄り添っている。
 荷解きも終わり、あらかた片付いたので引越しの挨拶をしてくると彼女に告げたら、一緒に行くと言い出したわけだ。
 さんざん『一緒に住まない上に身内でもない女の子、それも制服を着た女子高生を昼間から連れているというのはどうだろう』というような事を説明したのだが、彼女が折れることはなく。
 逆に『これから頻繁に遊びに来ますし、いずれは一緒に暮らすのですから構わないでしょう?』とまったく引く気を見せなかった。
 その通りだけど多分、一緒に暮らすならもう少し大きい部屋に引っ越すと思うけどね、とは口に出しはしなかった。
 そんなわけで、四月から新社会人となる俺と、春から高校三年生という彼女の二人でという引越しの挨拶となったわけだ。
「もう、私が押します!」
 一向に呼び鈴を鳴らそうとしない俺に痺れを切らした彼女がスイッチを押した。家のと同じ音が響く。
 待つこと三分。誰も出てくる気配は無く、仕方なく反対隣に向かった。残念ながら、そちも同じだったわけだが。
 もっとも、独り者が住むようなアパートに平日の昼間から住人がいる事の方が少ないだろう。
 彼女のガッカリした顔が印象的だった。

「なんかね、凄くドキドキしてる」
 隣で布団に潜り込んでいる彼女の顔が、言葉どおり高潮して興奮しているのがハッキリとわかる。
「なんで? 別に初めてって訳じゃないだろうに」
 何気なく言った言葉だったのだが、彼女には気に入らなかったらしい。むー、と唸って口を尖らせた。
「泊まるのは初めてだもん。ていうか、何だか言い方がやらしい」
 そういうことか。確かに皆で旅行に行ったりはしたけど、二人だけで泊まるのは初めてだ。
「じゃあ、もっとドキドキすることする?」
「……やらしい」
 頬を染めて、布団を頭から被って隠れてしまった。
 俺は声に出さずに笑って、部屋の灯りを消した――。

 唇を、彼女の口元からあご、首筋と滑らせていき、首に巻かれた首輪で止める。
「これ、外さないの?」
「外した方がいいですかにゃ?」

20 :No.04 Morning received with ペット 5/5 ◇IPIieSiFsA:08/01/06 13:22:45 ID:6CpjZkZf
「外さない方がいやらしくていい」
「……いやらしいのはどっちですかにゃ」
 再び唇を彼女の肌に。胸元、鎖骨の下辺りにキスマークをつける。
 そのまま形のよい乳房に舌を這わせて、乳首を口に含んで転がす。
「んっ!」
 それまで押し殺していた彼女が、初めて声を漏らした。
 一旦、彼女から離れて、じっくり彼女の姿を眺める。
 程好い大きさの美乳にくびれた腰、下の毛は少し薄めで、足をぴったりと閉じているのでそれ以上は見えない。
 一子纏わぬ姿。ただ首もとに、黒い首輪だけを巻いている。とても扇情的で卑猥で、エロイ。
「あっ!」
 俺の視線に気づいたのか、慌てて両手で身体を隠す。
「今更っていう気もするけど」
「は、恥ずかしいのは、恥ずかしいにゃ……」
「大丈夫。綺麗だしそれに、大好きだよ」
 反論を封じるために、俺は彼女の唇をふさいだ。

「〜♪」
 微かに鼻唄が聞こえる。意識が覚醒していき、瞼越しに朝の明るさが差し込んでくる。
 ハッキリと目が覚める。しかしまだ目は開けない。
 隣に彼女の気配を感じる。昨日は彼女の大学卒業を祝って、そのままプロポーズして、そして彼女が初めて家に泊まって。
 隣の彼女が動くのがわかる。もしかしたら俺が起きている事に気づいたのかもしれない。
 感じられる光が遮られた。多分、彼女が顔を覗きこんでいるのだろう。
 それなら俺は、目を開けてあげなきゃいけない。
 はたして、ゆっくりと開いた目の前に彼女の顔があった。
 嬉しそうな、くすぐったそうな、ワクワクしているような、総てをひっくるめて、幸せそうな顔をした彼女。
「おはよう、真一さん」
 優しげな彼女の声。
「おはよう、高美ちゃん」
 そして俺は、彼女の夢が『今』叶った事に気づいた。
                         ―完―



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