【 ティッシュをありがとう 】
◆qEmNrTyHIo




85 名前:時間外No.01 ティッシュをありがとう 1/2 ◇qEmNrTyHIo 投稿日:07/12/31 01:52:32 ID:rHZOWD0d
 カズヒロはティッシュで鼻をかみ、それを思いきり投げた。
 ティッシュは部屋の壁に当たり、床の上に落ちた。
 コウタは走ってそれを拾い、カズヒロの方へ力一杯投げ返す。
 今度はイスの背に引っ掛かり、机の下へ入ってしまった。
 カズヒロはあぐらをかいた体勢から四つんばいで移動し、机の下に頭を潜らせた。
 腰の部分から緑色の柄がプリントされたトランクスと、大腰筋で盛り上がった背中へと続く肌がちらりと覗いた。
 体育座りで待っているコウタは、腕を伸ばし上半身だけを少し後方へ倒しながらそれを見つめる。
 カズヒロの肩に押されたイスが机とぶつかり、乾いた音が何度か鳴った。
 木製家具同士が当たり合うのを見ると、なんだかこちらの心まで削られている気分になるな、などと思いながらコウタはカズヒロの腰への視線を更に強めた。
 カズヒロが振り返った時には、コウタはあぐらで片手を膝の上に載せ、囲炉裏の前で説教をする父親のような格好をしていた。
 コウタが構えるとカズヒロはまたティッシュを投げた。
 落ちるカーブを投げるときのようなフォームであったが、丸まったティッシュはすっぽ抜けてほぼ真上に飛んだ。
 カズヒロは恥ずかしそうな笑みを浮かべ、照れを隠すようにカーペットに落ちたティッシュをそのまま指で弾いた。
 コウタは大分手前のほうで止まったティッシュを眺め、面倒臭そうに体を伸ばした。
 先程のカズヒロが見せたトランクスを思い出し、それを意識して尻を突き出すようにしてみたが、前を向いているのであまり意味はなかった。
 ティッシュを掴み体を戻しかけたときになってから、背中の上越しにトランクスの隙間から尻の上部分を見せる手があったなと思いつき、やや不自然な
動きをしてしまったが、カズヒロはそれに気付かなかったようであった。
 コウタは手に取ったティッシュの玉がやや広がり始めたのに気付いた。
 中に包まれた鼻水が乾いたのだろうと思ったが、何となくカズヒロに判断させようと思い、指先で丸めると構わずそのまま投げ返した。
 カズヒロもティッシュが軽くなったことに気付き、それをゴミ箱へ丁寧に投げ捨てた。
 そしてまたティッシュ箱から一枚取り出し、鼻をかんだ。
 しかしすうっという音と共に鼻から出てきたのは、空気に混じったわずかな水滴だけであった。
 ティッシュを広げて見ると、粘ついた鼻糞もくっついていた。
 カズヒロが首を振ると、コウタが「いいよ」と言って自分もティッシュを一枚取った。
 コウタも今日既に何回か鼻をかんでいたので、鼻水は出なかった。
 時計を見るとあと十五分でカズヒロの家を出ないといけない時間になっていた。
 コウタは喉元に何回か力を入れた後、もう一度鼻をかむ仕草をし、同時に口から痰を吐き出した。
 ティッシュの下のほうにへばり付いたそれをすばやく丸め込み、慎重に重心を中央へと押し込む。

86 名前:時間外No.01 ティッシュをありがとう 2/2 ◇qEmNrTyHIo 投稿日:07/12/31 01:52:54 ID:rHZOWD0d
コウタはほっとしながら、できたよ、とカズヒロの方を見た。
「ありがとう」とカズヒロは微笑んだ。
「こちらこそ」とコウタも口の中のねばねばを横にどかしながら言い、重量感のある玉を思い切り投げた。
 ティッシュの玉は嫌な音をたてて壁にくっつき、カズヒロはティッシュを何枚か手に取り、立ち上がった。





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