【 その感謝が涙が出そうなくらい 】
◆p/4uMzQz/M




22 名前:No.7 その感謝が涙が出そうなくらい 1/2 ◇p/4uMzQz/M 投稿日:07/12/30 11:19:37 ID:n/tY8v/n
 放課後の人気も少ない校舎の昇降口。帰宅の途へと着こうとしていた俺に後ろから声が掛った。
「……やっと見つけた! なぁオイ、瑞也」
 そこに居たのは川崎だった。今日もまた何か用なのだろうか。
「ひでーなー、お前。その言い方だとこっちが毎日たかってるみたいじゃないか」
 ここ数年に渡る所業は違うとでも言うのか。
「そうじゃなくて、……ほら、これ返そうと思って」
 そう言って、川崎の奴はカバンから取り出した「それ」を投げて寄こした。
「この間、雨の日に借りただろ?」
 ……そういえば一昨日、この馬鹿に、学校に置き傘していたものを貸したのだった。
 その時は、補習で遅くなった上、雨に降られて困っていたこいつを見かねて俺が声をかけたのだが。
「いやー、お陰で助かった助かった。お前があの時居なきゃどうなっていたか、今思うとぞっとするわ」
 それでもただ単にお前が濡れ鼠になっただけだろう、大袈裟な。
「うんにゃ、実はな。あの後ちょっとした出来事が有って……」
 そう言うと川崎は僕の耳元に顔を寄せて来た。いつになく真面目なその表情に、思わず身を引いてしまう。
「逃げんなよぅ……実はな、あの後街通った時に、雨宿りしてる水城センセ見つけてさ」
 水城先生は僕らの副担任の教師で、去年大学を卒業したばかりで歳が近いこともあり、生徒からの人気も高い教師だ。
 ──でも、それはそれだけの意味じゃないのであって。

23 名前:No.7 その感謝が涙が出そうなくらい 2/2 ◇p/4uMzQz/M 投稿日:07/12/30 11:20:07 ID:n/tY8v/n
その感謝が涙が出そうなくらい 2/2 ◆p/4uMzQz/M 投稿日: 2007/12/30(日) 11:08:25.12 ID:ppT4xfO/0
「んでさぁ、ピンと来たね。ひょっとして先生と相合傘出来るんじゃないか、って」
 ……俺に借りた傘でか。なめんな。
「そこですかさず『先生、傘入りませんか?』って言ったの。そしたらさー」
 聞いているのが物凄い苦痛だ。今なら俺はエロ本の隠し場所でも何でも吐くぞ。
「──って何だよ、露骨に嫌そーな顔してさー。まぁ端的に言うと、
 その後駅まで先生と一緒に歩けて、でもって次の日曜デートの約束取り付けてやったぜ」
 実際、これは拷問だ。今確信した。
「絶対、このチャンスに落してみせるよ……。もう二年も追いかけてるんだから」
 俺が喋らさせられそうになっているのは、この五年来の気持ちだ。
「映画行ってぇ、その後軽くお茶した後に……」
 お前は俺があの後雨に打たれながら走って帰ったのを知っているのか。
 お前は俺があの時本当はお前に何を話しかけたかったのか知っているのか。
「まぁ、とりあえずさー、感謝してっから。お前のお陰で私、先生とうまくいきそうだし」
 昔からの癖で、その長い髪を指で弄りながら話をする彼女。
「応援しててくれよー? ……本当にさ、」
 こんなのって、ないだろう?
 彼女が口にする感謝が、今の俺には、本当に。
「ありがとう、な。瑞也」



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