118 名前:No.30 空気 1/2 ◇GcuhLL7vhs 投稿日:07/12/24 00:05:18 ID:jcC3BfA4
雲ひとつなく晴れているのに冬の空はどうも色がうすい。
冷え切った手で耳たぶに触れると千早は首から頬までぶわっと鳥肌をたてた。
「ゆう、いち」
「何ですか」
「寒い」
寒さのためか感じてるんだか上擦った声で彼女は訴える。
「まあ十二月に屋上は無茶だよなあ、俺も寒ィわ」
「じゃあやめようよ」
やめていいのかと聞くとAVじゃないんだから全然やめていいわよと半分嬌声みたいな声をあげてそのまま達して
しまった。ほとんど吐息でつぶやく。
「あんたみたいのがいるから性犯罪が消えない」
「はいはい」
彼女は完全に脱力してしなだれかかってきており、もうその体温よりも空気の冷たさのほうが際立ちはじめている。
ああもうだめだな、とマスカラが混ざった涙を見ながら思う。このあとの処理を考えると憂鬱である。彼女から離れる
と一気に寒くなり、あわててジッパーをあげた。千早はゆっくりゆっくりブラウスのボタンをはめている。細い大腿があ
んまり痛々しいのでコートをかけてやると、彼女はふっと目線をあわせた。
119 名前:No.30 空気 2/2 ◇GcuhLL7vhs 投稿日:07/12/24 00:05:32 ID:jcC3BfA4
「ねえ、彼女、いるの」
「いないよ」
「私も」
「そりゃいねえだろ彼女は。レズだったなんて聞いたことないぞ」
「あのねえ、」
君は少し空気を読むことを学びなさい。呟いて、視線を落とし、また上げた。
「そんな妙な目したってプロポーズなんかしてやんねえぞ」
「じゃあ、する、あたしが、する!ねえ、友一」
「うるさい」
千早のスカートのポケットからmp3プレイヤーを奪い取り、イヤミったらしいピンク色の密閉型イヤホンを耳につっこむ。
やたらめったらにボタンを押すとロキノン系のバンドの曲が聞こえだした。千早の声がずいぶん遠くから叫んでいるように
聞こえる。
「ねえってば!」
「うるさい」
声を背に歩き出すと彼女はあわてて立ち上がったようで、コートが落ちる音がする。変に大きな音で。振り返ると千早は
何か壊れたのではないかと心配をしたらしく青い顔をしてコートのポケットを探っていた。
その心配は的中し、画面のヒビ割れた携帯と一緒に小さな包みがでてくる。自分の名前の入ったそれを無作法に破り
開け、
「な、お前が空気読めっていうの」
イヤホンをはずして、笑った。
「……ありがとう」
お互い真っ赤になった顔をふせる。指をいじくりまわして、千早はくすくす笑った。
空気がふっと暖かくなった。