117 名前:No.29 無題 1/1 ◇277U0aEonY 投稿日:07/12/24 00:04:55 ID:jcC3BfA4
(やってられねぇぜ……こんな極東のド田舎まで来てよぉ)
ホーガンはバリバリと頭を掻いた。ハードジェルなど必要ない短い金髪が、指にチクチク刺激を残す。
今日は朝からついてなかった。髭剃りで頬を切り、靴紐がほどけて転び、自販機は硬貨がつまり、ようやく出てきたコーヒーは指にこぼして火傷した。
大量のデスクワークを根性でこなし、酒でも飲もうと思ったらジムに断られ、不貞寝しているとフロリダの実家から電話がきて、妹が夕べから帰ってこないと母の愚痴を聞かされた。
彼は母が嫌いだった。年甲斐もなく厚化粧をし、香水の匂いを振りまく母が。小学生にもならなかった頃の自分を置いて、浮気相手の家を泊まり歩いていた彼女が。
妹が生まれてからというもの、母は嘘のように大人しくなった。女友達だけと付き合うようになり、ガーデニングに精を出し、良妻賢母の鑑ですよ、とでも言いたげに振舞った。
だが日課となった厚化粧だけは、決して治らなかった。
ホーガンは迷わず軍に入った。弱気でグズな父親も、何も知らずに成長して、母と仲良くなっていく妹も、大嫌いだった。
入隊直後の地獄のような訓練も、自宅に居た頃のストレスに比べれば我慢できた。
配属されたニッポンは狭かったが、町の住民は豚みたいに大人しくて、フロリダのマダム連中みたいなのはどこにも居なかった。
そして……何より恋人ができた。安らぎをくれる恋人が。だというのに、なぜ今日に限って、母の電話を受けねばならなかったのか。
こんな不運な日に、なぜ母と話さねばならなかったのか。心の中で神に不平を述べる。
外の空気を吸おうと廊下へ出たときだった。そこにはジムが――酒の誘いを断った恋人が――見知らぬ男と親しげに会話していた。
ホーガンに気づいたジムが、髭面をゆがめる。彼が何かを言うより先に、ホーガンは自室へと走った。
「イヤッホー! 良い子の皆、元気かなァ? 今日はサンタさんから、鉛弾のプレゼントだよォ!」
完