【 頑張った自分へのプレゼント 】
◆uu9bAAnQmw




103 名前:No.25 頑張った自分へのプレゼント1/2 ◇uu9bAAnQmw 投稿日:07/12/23 21:51:12 ID:c+C5rfnh
 信号が青に変わる。人々が水の流れの様に一斉に動き出すが、ただ一人だけ流れに逆らい
止まっている男がいた。
 肩がぶつかり舌打ちされるが、彼は一歩も動こうとしない。
 いつしか、他の人達にとって彼は岩になっていた。
 岩を境に流れは変わり三角州となる。
 その流れの中に出社途中の京子の姿もあった。
 危ない人だと思い視線に入れるのを本能的に避ける。
 この風変わりな男を尻目に京子の耳では、ある音楽が流れていた。それは信号機から聞
こえてくる音と繁華街から聞こえるクリスマスソングが混ざり雑音に近い。
 男の耳にもきっと届いてはいるだろうが、聴いてはおらず、右手に持っている缶珈琲を
すする音が、骨伝導で頭に響くのみであった。
 しかし、鋭利な刃物のような眼光だけは京子を貫き続けている。
 彼女が角を曲がり見えなくなると、男は珈琲を一気に飲み干し一言呟いた。
「メリークリスマス」
 白い息が空へと昇った。

 会社では、少しではあるがOL達があの男の噂がたっていた。フードを深々と被ってい
る変なのがいたと。
 テロリストだの、通り魔が下見中だの、全ては噂の域を出ない。
 京子も同じ話の輪の中にいたが、噂話や陰口が苦手であったため、適度な相槌を打ち聞
き流すと、この時は気にも留めず仕事に戻った。

 帰り道、車道を境にあの男はまたいた。京子は気にしないようにしていたが、先程の話
が頭の奥に残っていたのか、嫌でも気になりつつある。

104 名前:No.25 頑張った自分へのプレゼント 2/2 ◇uu9bAAnQmw 投稿日:07/12/23 21:51:40 ID:c+C5rfnh
 ふと男の右手を見ると缶珈琲、左手には赤のリボンが目立つ、クリスマスケーキを入れる
箱らしき物を持っている。
 朝と変わらぬ音楽と共に信号が青になる。男は動かない。
 京子は人の波に押され動くしかなかった。
 男が顔を上げた。珈琲を一気に流し込み、体勢はそのままに缶を後ろへ放り投げた。
 地面に当たり、缶は鉄類独特の甲高い音色を響かせる。
 京子の目に写っている男は段々と大きくなり、徐に持っていた箱のリボンをほどく。
手元には上蓋だけ残り、底が抜けた。
 この時彼女の頭の中は、それはマトリョーシカのように、同じ比重の恐怖がいくつも産
みだされていく。
 中は一体……
 中は京子にはケーキに見えた。
 中身に気をとられているうちに、彼女は背中をおもいっきり押され、ケーキに顔がめりむ。
 何が起こったか訳が分からず暴れるが、男の力が強く逃れることが出来ない。
 彼女がやっと顔を上げたと思った時には、リボンを丁寧に結び直して去っていく最中であった。
 男は満足し、京子は愕然としているのみである。
 
 京子がケーキだと思っていたのは、よく歯などの型をとる特殊な液の塊だったのだ。
 はんだごての様な器具から樹脂を流し込み型を取る。
 樹脂が固まるとお面が出来た。
 完成したマスクを男は自分の顔につけて、鏡の前に立った。
「メリークリスマス。プレゼントはわ・た・し」
 恍惚な笑みを浮かべ、近くにあった缶珈琲を手に取る。飲もうとしたが面を付けていた
のを忘れていて、こぼしたのであった。


【完】



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