【 十年越しのlove novel 】
◆CoNgr1T30M




88 名前:No.20 十年越しのlove novel 1/3 ◇CoNgr1T30M 投稿日:07/12/23 18:59:50 ID:GVoliDZ5
 聖夜から一日経った十二月二十六日。高校時代の部活のメンバーで集まる様、召集がかかった。クリスマスは何かと忙しい。だから一日遅らせたのだろう。
 あれから十年、もうそんなに経つのか。そう考えると感慨深い。どうせ面子は見知って居る者なのでと思い、適当な格好で夜に繰り出した。
 それは当時の文芸部部長の思い付きだった。“クリスマス”というお題で小説を書き、タイムカプセルの様に埋め、そして十年後にまた読もうという、黒歴史になるであろう企画であった。
 胸がチクリとする。俺はそれを読みたくない。読んだらきっと情けない気分になるだろう。それは黒歴史だからという理由ではない。そんなことならただ恥ずかしいだけで済む。
 集合場所の学校の校庭。そこにはすでに人の気配があり、暗がりの中で昔と変わらなぬ姿であの人は立っていた。
「あー……久し振りですね。部長」
 我が文芸部の部員は二人。俺と、部長だけだ。
「うわー、変わらないね……。それより覚えててくれてよかった」
「いや、十年前からの約束ですからね。忘れるわけないですよ」
 正確には十年と一日。そんな俺は電話を待って、クリスマスまで予定を開けていた。
「寒いですし、早く掘り

89 名前:No.20 十年越しのlove novel 2/3 ◇CoNgr1T30M 投稿日:07/12/23 19:00:12 ID:GVoliDZ5
 五分程の作業の後にタイムカプセルは十年ぶりに外の空気に触れる。俺の文の入った箱に部長の入った箱。
「はい、部長」
 部長は早速、分厚い包装を破り、それを読み始める。対して俺はそのまま鞄に突っ込む。
「あれ、読まないの?」
 部長はにやにやしてそう言う。
「いや黒歴史は家で堪能しようかと……」
「だーめ、部長命令です。この場で読みなさい」
 仕方なく、箱から小説を取り出して読み始める。自分の文章を読むのはやはり気恥ずかしい。部長も表情からその心情が伺える。
 そして俺の小説の最後のページ、最後の行。意図的に目を背ける。
「……どうだった?」
 先に読み終わっていた部長が言う。
「いや〜、酷かったですね」
 笑いながら言うと、返す様にくすりと笑う先輩。
 しばらく学生時代を想起しながら談笑し、この黒歴史の会は御開きになった。
「じゃあまたね、今度は一緒に呑みましょう」
「はい機会があれば喜んで」
 送って行こうかと申し出たが、道も明るいし大丈夫と断られてしまった。

90 名前:No.20 十年越しのlove novel 3/3 ◇CoNgr1T30M 投稿日:07/12/23 19:00:39 ID:GVoliDZ5
 帰り道、小説の最後のページ、最後の行を見直す。そこには句読点の代わりに安物の指輪がセロハンテープで貼ってあった。
 十年前、俺は部長が好きだった。でも告白する勇気なんてなかった。だからこの小説にこんなことをして問題を十年後に先送りしたのだ。
 全く自分の臆病さに反吐が出る。
 そして先輩はいつの間にか結婚。年賀状に子供の写真が載っていたのには少し目眩がした。
 まぁ当然と言えば当然か。あんな人、周りの男は放って置かない。全く本当に俺は馬鹿だ。あの時告白していたら……なんて妄想もよくした。
 そして十年振りに会うも、やはり駄目だった。相手は既婚者、茨の道を歩く度胸も覚悟もない。
 そう、期待していた“時間”は俺と部長の仲を取り持つどころかそれを壊した。
 皮肉にもそのショックを癒したのも“時間”だったのだ。
「あーあ何してんだよ俺は」
 満天の星空目掛けてその指輪を投げ捨てた。



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