【 友好 】
◆h1izAZqUXM




75 名前:No.17 友好 1/3 ◇h1izAZqUXM 投稿日:07/12/23 16:50:52 ID:GVoliDZ5
十二月三十日、何の前触れもなくそれはやってきた。
それは空から、轟々と音を鳴らしながら、普段から人通りの多い街に落ちてきた。
その時も街に人が少なかったわけではない、最後の買い入れのせいかむしろ日ごろよりも多いぐらいだった。
一人の男性が偶然空を見て、危ないと叫んだため、奇跡的にけが人はでなかった。
もしそうでばなければ、間違いなく何人かの死者は出ていただろう。
それの直径は十数メートル、色は黒色で表面には傷一つ見当たらない。
人々は驚き、ある程度の距離を置いてその物体を見ていた。
誰かが近づこうとすると、爆発するぞ、とか、毒が出るかも知れないという声を出す者もいた。
そのせいか、誰もその物体に近づこうとしない。
この事態だ。誰かが連絡したのだろう。
しばらくするとサイレンの音と共に赤いランプを勢いよく回したパトカーが到着した。
その車から出てきた二人の警察官も、一目見てこの物体は自分達の手には負えないということが理解できたのか
警察官のうち一人がすぐさま携帯電話を取り出して、どこかへ連絡をし始めた。
その口調から、おそらくは上司のところであろう。しばらく話した後、警察官はその場にいる人達にそのときの状況を聞き始めた。
またしばらくすると、パトカーがもう一台到着した。
その中から出てきたのは先程の二人とは明らかに違う雰囲気を身にまとった二人の上司らしき男と、
シミ一つない白衣を見事に着こなした、その方面の専門家。
その二人が来たのに気がつくと、先程の二人はあわてて敬礼をした。
「あれかね?」
専門家は空から降ってきた謎の物体を指差しながら、二人の警察官に聞いた。
二人が短く返事を返すと専門家はその物体の方へ体を向け慎重に近づいていく。
ざわざわと騒ぎ出す人々。

76 名前:No.17 友好 2/3 ◇h1izAZqUXM 投稿日:07/12/23 16:51:17 ID:GVoliDZ5
それを無視して専門家は一歩、一歩と謎の物体へと近づく。
専門家と謎の物体の距離はもう目と鼻の先。辺りは緊張で静まり返る。
専門家は最後の一歩を踏み切ると手を伸ばし、物体の表面を軽くなでた。
続いてゆっくりと、それの回りをぐるりと一周し、あごの下に手をあて
しばらくうなり声を上げた。
「どうですか!?」
痺れを切らした、上司は大声を出して専門家に聞いた。
専門家はそれに答えるように首を横に振ると、またゆっくりと歩いてこちらまで戻ってきた。
人々の視線は自然と専門家に集まる。
「詳しく調べてみないとなんともいえませんが……あれはおそらく地球で作られたものじゃないでしょうね」
「何ですって?」
「あれは一見鉄の塊に見えますが、そんなにやわなものじゃありません。
おそらく、現在の地球の技術じゃ傷一つ付けられないでしょうね。
それほど、硬く、密度の濃いものなのです」
専門家が重々しい口調で説明すると、二人の警察官が聞く。
「じゃあ、あれは何なんですか?」
「それも調べなければ詳しいことはわかりません」
そして専門家は小声で、新たなる兵器かもしれないと付け加えた。
その言葉を聴いた三人は驚きを隠せない様子。
「では、あれは宇宙人の作ったものなんですか?」
「おそらくは……とりあえず、明日から徹底的に調べてみます」
ほんの数時間後、各国の優秀な研究家たちがこの土地に集まり、すぐさま会議を始めた。

77 名前:No.17 友好 3/3 ◇h1izAZqUXM 投稿日:07/12/23 16:51:36 ID:GVoliDZ5
一人の研究家がとりあえずこの物体をこの土地から動かし、研究施設に運ぼうと言った。
すると別の研究家は、動かした途端に爆発するかもしれない、とその意見に反論した。
しばらく議論の後に、謎の物体は動かさないことが決まった。
何度かあの物体は何のために地球にやってきたのかを議論したが、結局結論は出ずに終わる。
議論をしては結論を出し、また議論する。
この行為は連日連夜行われた。
そして、少しずつ、少しずつ時間をかけて研究家達は議論を進めていった。
議論の様子はテレビなどのメディアを通して世界中に伝えられた。
すべてのテレビ局は特番を製作しその様子を伝え、
議論がまとまるたびに新聞など、雑誌は号外を出して情報を世間に伝えた。
謎の物体は世界の注目の的となっていった。
謎の物体が落ちてきてから三日目、新年の始まりの朝。
それまで静かだった物体が急に、奇妙な音を発しはじめた。
それは聞き心地の良い音ではなく、むしろ聞く者に不快感を与える騒音そのもの。
研究家達は驚きその様子をただただ見ていることしか出来ない。
テレビでその様子を見ていた人たちの中には祈り出すものもあった。
愛する人と最後に話したいと思い、電話をかける者も出てきた。
誰もが、この世界にも遂に終わりが来たと確信した。
しばらくして騒音がやむと、続けて変な文字らしきものが表面に浮かび、すぐに消えた。
そして、今度はこの星の言葉が次々と浮き上がってきた。
「こんにちは。
私達は地球から離れたところにあるアルアという星の住人です。
自動変換で、この星の言葉になっているのでこの文字も読めると思います。
我々は、あなた方の文化に大変興味を持ちました。
そして、あなた方の星と友好的な関係を作りたいと思い、我々の祝福の唄と共に
この時期の、あなた方の習慣である『おとしだま』というものを送くりました。
私達からの友好の証、気に入っていただけたでしょうか?」

【完】



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