【 トリガーハッピーエンド 】
◆JISdAARPb.
65 名前:No.15 トリガーハッピーエンド 1/5 ◇JISdAARPb. 投稿日:07/12/23 16:44:11 ID:GVoliDZ5
少年は夜明け前に病院を抜け出していた。
昨日の外出許可でネットカフェへ行き、自殺オフの募集を見つけたのだ。
今日がその日だったという訳だ。
少年は自分の命が長くないことを知っていた。
医者や両親はうまく隠してるつもりになっているだろうが、
寝たふりをしているところで両親と医者が話しているのを聞いていたのだ。
目を盗んでは用意を整え、この日のために備えていた。
オフの参加も前から決めていた。
どうせ長くない命だ。生きていくことを諦めた人たちのために
自分が居てやることで、少しでも死への抵抗を和らげてやれるのではないか。
少年はそれを自分ができる最初で最後の贈り物だと考えていた。
66 名前:No.15 トリガーハッピーエンド 2/5 ◇JISdAARPb. 投稿日:07/12/23 16:44:33 ID:GVoliDZ5
老人は早朝、家族が起きる前に家を出た。
家族で使っているパソコンのブックマークにあった自殺サイトからリンクして
この自殺オフの掲示を見つけた。
老人の懐には拳銃が潜んでいた。
ずいぶん昔に手に入れたものだったが、使う機会がなく、
老いた自分を狙ってくる人間もいない。どうせほっといたって死ぬのだ。
そこで、偶然孫のパソコンを眺めていてひらめいた。
どうせ死にたがっている奴らだ。殺したってかまわないだろう。
体も目も限界だったが、何としてもたどり着こうと決めた。
老人はそれを自分への最後のご褒美だと考えていた。
67 名前:No.15 トリガーハッピーエンド 3/5 ◇JISdAARPb. 投稿日:07/12/23 16:45:28 ID:GVoliDZ5
男性はホームセンターの中にいた。七輪と練炭を買いに来たのだ。
男性は先週、仕事を首になったばかりだった。
器量が悪く、顔も良くない。運動神経もない。そんな人生に疲れていた。
死にたい訳ではなかったが、生きている方がずっと苦しかった。
そもそも、募集を始めたのも自分だった。
仲間が欲しかった。その場限りの時間を、最後を一緒に迎えてくれる仲間が。
男性は自殺オフを他人へのプレゼントだと考えていた。
68 名前:No.15 トリガーハッピーエンド 4/5 ◇JISdAARPb. 投稿日:07/12/23 16:45:49 ID:GVoliDZ5
女性は電車の中にいた。
女性は婚約していた。来月には結婚式が開かれる、そのはずだった。
女性の恋人は、数日前に事故で死んだ。
女性は神様も輪廻転生も信じていなかった。もし、神様がいるのだとしたら、
何と残酷な嗜好の持ち主なのだろう。
しかし、もしも彼と同じところへ行けたら、と女性は考えていた。
少なくとも、彼はもうここにはいないのだから。
ひとりで死ぬのは怖い。でも、誰かが一緒ならあるいは。
女性は自殺オフを、彼からの贈り物だと信じた。
69 名前:No.15 トリガーハッピーエンド 5/5 ◇JISdAARPb. 投稿日:07/12/23 16:46:11 ID:GVoliDZ5
山奥の集合場所、参加者が全員集まったことを確認すると、老人は拳銃を抜き、少年の頭を撃ち抜いた。
女性は金切り声をあげ、逃げ出そうとする。老人はそれを見逃さない。
銃口を女性へ向けたとき、男性が間に割って入る。老人の眼はかすれ、ほとんど見えていない。でたらめに撃った鉛玉は男性の脚を貫いた。
男性はひるむことなく老人に飛びかかった。あの女性は助けなければいけないと思った。
男性は女性を見て、その儚げな雰囲気に一目惚れをしていたのだ。
取り押さえたときには、老人はすでにこと切れていた。何んとも満足げな表情だった。少年ももう手遅れだろう。
女性は目の前の惨劇をみて、恋人はもうどこにもいないことを悟った。
携帯を取り出したが圏外で、女性は男性の脚を止血した後、山を降りようと男性に肩を貸した。男性は顔を真っ赤にして女性につかまった。
山を降りる間、男性は一緒に生きてくれませんかと言った。
女性は一度だけうなずく。眼には涙が浮かんでいた。