【 ナイナイ 】
◆nzzYI8KT2w




42 名前:No.09 ナイナイ 1/5 ◇nzzYI8KT2w 投稿日:07/12/23 01:16:37 ID:UIKf8STW
 私はぬいぐるみ。
 数年前にクリスマスのプレゼントとしてこの家にやってきた。
 プレゼントされた女の子はとてもとても喜んでくれた。
 それからの日々は本当に楽しかったな。
 いっぱいいっぱい遊んだの。
 私が赤ちゃんの役で女の子がお母さん役のお飯事ごっこ。
 女の子が本当に私にジュースを飲ませようとしたから、私、口の周りが汚れちゃった。
 女の子の友達の家に一緒に行ったりもした。
 友達と喧嘩になって私がいっぱい愚痴を聞いてあげたんだ。
 寝る時はいつも一緒だった。
 女の子は力いっぱいに私を抱き締めて、少し痛かったけど、心地良かった。
 ずっと続くと思ってた。
 ずっと女の子と一緒にいるんだと思ってた。
 ずっと女の子と遊ぶんだと思ってた。
 私が家に来て、初めてのクリスマス。
 家に新しいぬいぐるみがやってきた。
 その頃から、私と女の子が一緒にいる時間が少なくなってきた。
 それでも大丈夫だと思ってた。
 今は私よりも新しいぬいぐるみに興味があるだけで、すぐに前と同じように遊んでもらえるんだと思ってた。
 でも、女の子と一緒にいる時間は短くなったままだったんだ。
 そして、次のクリスマス。
 また新しいぬいぐるみがやってきた。
 また一緒にいる時間が短くなった。
 でもまだ信じてた。いつか戻って来てくれるって。
 またその次のクリスマス。また新しいぬいぐるみがやってきた。
女の子はあんまり喜んでなかった。
もう、私と遊ぶ事も無くなっていた。
そして、また次のクリスマス。プレゼントはぬいぐみじゃなくて、服になってた。 
その年の終わりに、女の子は掃除をしていた。ふと、私に目をやり、近づいて来る。
嬉しかった。また、一緒に遊んでくれるんだって思った。

43 名前:No.09 ナイナイ 2/5 ◇nzzYI8KT2w 投稿日:07/12/23 01:17:00 ID:UIKf8STW
「邪魔だな、このぬいぐるみ。よし、全部押し入れに入れちゃおう」
 私は暗い所に閉じ込められた。
 恐くて心細くて涙を流して悲鳴を上げたかった。
 でも、ぬいぐるみなんだからそんな事はできない。
 しばらくは悲しんでいたけど、慣れとは恐ろしい物であまり恐く無くなった。
 いいじゃないか、住めば都だ。そう思って何年の押入れで暮らし始めた。
 時々、用事で押入れを開ける女の子を見る事だけが楽しみだった。
 何年押入れに入ってたのかを忘れてしまったある日、押入れが開けられた。
 もう随分成長していたけど、そこには女の子がいた。
女の子は私を押入れから出してくれた。
また、遊んでくれる。
そんな希望を持ってしまった。
「ねえ、お母さん。これ、もう押入れの邪魔だから捨てといて」
 私は他の要らない言われた物と一緒に箱の中に入れられた。
一生懸命助けてと叫ぼうとするけど、声なんか出るわけなくて。
 一生懸命、少女を見つめるけど気付いてもらえなくて。
 何で?
私、何か悪い事したの?
 遊んでもらえなくても我慢したんだよ?
 あんな暗い所に閉じ込められても我慢したんだよ?
 ねえ、何で私、捨てられちゃうの?
 次の日、私の入った箱を持って女の子のお母さんが家を出た。
 お願いします、泣かせて下さい。
 お願いします、悪あがきをさせて下さい。
 お願いします、誰か教えて下さい。
 何で私はこんな目に会うんですか?
 私はぬいぐるみですか、ゴミですか?

44 名前:No.09 ナイナイ 3/5 ◇nzzYI8KT2w 投稿日:07/12/23 01:17:20 ID:UIKf8STW
「もう、あの子もこんな汚いぬいぐるみ渡されても売れる訳無いじゃない。嫌よ、また持って帰るなんて」
「あの、すみません?」
「あ、いらっしゃい」
「そのぬいぐるみが欲しいんですけど」
「え、これですか?」
「はい、そうですけど。あ、もしかして売り物じゃ無いんですか?」
「いえいえ、そんな事無いですよ!えっと、百円になります」
「あ、それじゃこれで」
「はい、ありがとうございます。袋に入れますか?」
「あ、お願いします」

45 名前:No.09 ナイナイ 4/5 ◇nzzYI8KT2w 投稿日:07/12/23 01:17:40 ID:UIKf8STW
「う〜ん、どこがいいのかまったく解らない」
「うるさい、このバカ!」
 私を抱っこしている女性が空いてる手で男性を叩きました。
 男性は恨めしそうに女性を見ています。
「はいはい、バカですみませんね」
 そう言った後、男性は少し真剣な顔をしました。
「でもさ、本当に良かったの?」
「何が?」
「だってさ、せっかくのクリスマスプレゼントだよ。
中古じゃなくて新品とか、もっと高い物でもよかったのに」
 私はてっきり捨てられると思っていた。
 でも、連れてこられたのはバザー会場とか言う所で、私は商品として並べられた。
 そして、私を今抱いている女性が買ってくれた。
 夢なんじゃないかと思った。
 女の子からしたら、ゴミだった私がこの女性にとってはクリスマスプレゼントだと言うのだ。
 だから、男性の質問する事も理解できる。
 私なんかが本当にクリスマスプレゼントでいいのだろうか。
「何言ってるのよ。高ければいいってもんじゃないでしょ」
 女性はさも当たり前だとばかりに言ってくれた。
「どんなに高くて綺麗な物でも必要無い物じゃ意味無いじゃない。
でも、この子は絶対に必要だと思ったんだ」
女性は私が必要だと言ってくれました。
 私が居てもいい場所があると言ってくれました。
嬉しかった。本当に嬉しかった。
「どうして必要な物って解るの?」
「直感」
「直感か、それじゃしょうがない」
 男性はやれやれと言った感じで小さく笑って私の頭を撫でました。

46 名前:No.09 ナイナイ 5/5 ◇nzzYI8KT2w 投稿日:07/12/23 01:17:58 ID:UIKf8STW
「それじゃ、よろしくな、田吾作」
「何よ、田吾作って!」
「このぬいぐるみの名前」
「変な名前を付けるな!」
 そう言って女性はまた男性を叩きます。
喧嘩しているように見えましたが、そうでは無いと思いました。
だって、喧嘩していたら、こんな幸せな雰囲気は出てこないと思います。
ここ何年も感じた事の無い幸せな気持ちです。
私はクリスマスが嫌いでした。
クリスマスが来たら女の子との溝が深くなっていきます。
だから嫌いでした。
でも、今日から違います。
クリスマスというイベントは私と女性を巡り合わせてくれました。
女性は私をクリスマスプレゼントだと言います。
でも、私からしたら、あなたと出会えた事がクリスマスプレゼントです。
感謝の言葉を送りたい。
でも、私はぬいぐるみです。
悲鳴をあげる事も、涙を流す事もできません。できるわけありません。
それでも、今だったらできるかもしれない。
そう信じて私は無理を承知で言います。

「ありがとう」
 




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