【 崖っぷちの私。 】
◆4lTwCuEYQQ





233 :崖っぷちの私。 ◆4lTwCuEYQQ :2006/05/21(日) 03:39:36.15 ID:+suF9xbc0
あの頃が、今のところ人生で、一番勉強した時だと思う。
そして、この場所を、あの日に見つけてよかったと思う。

やばい、やばい、やばい。
なぜなら今、私には受験がすぐそこまで迫っているからだ。
公立なため、五教科受けなくてはならない所で、試験日が後十日に迫っているのだ。
時間が無い。
内申のランクも、Gでギリギリなので遊んでる暇が無い。

別に学校に行かなかった訳でもないし、頭が悪いわけでもない。
中学二年生の頃まで病弱で行けなかっただけなのだ。
二年生の終盤にやっと対策法が見つかって、手術をして健康な体を手に入れることが出来た。
三年生になってからは皆勤賞で、オール五って訳でもないが近いものを取った、けれど社会は厳しかった。

ランクが低すぎる為、三百点中二百五十点は取らないといけない、つまり崖っぷちに私は立たされている。
お父さんは、カンニングペーパーを作って捨てて、を繰り返して覚えろと言ったけれど、二回や三回繰り返したところで飽きた。
私には、やっぱり地道に問題集を解いていく、方が合っているらしい。
毎日、新しい問題集を出してくる、解き始める、全部埋める、答えの確認、間違った所をメモ、解きなおす、満点を取る、のサイクルを五教科二回づつ回した。
合計計4時間ぐらい。
七日間それを頑張った、かなり詰め込めたと思う。
最後の三日は、軽く一時間ぐらい、確認の為の勉強、他は休憩。

234 :崖っぷちの私。 ◆4lTwCuEYQQ :2006/05/21(日) 03:40:03.15 ID:+suF9xbc0
最後の日、夜十時頃、眠れなくて地図を見てある程度広い公園を探した。
三十数キロと、そんなに遠くなくて良い感じの広さの公園を発見した。
リュックサックにレジャーシートと地図とアンパンを入れて、お母さんにちょっと出かけてくると言って、家を出た。
三十分ぐらい自転車で、ゆったりと進んでいくと、街灯が少しづつ減ってきたように感じた。
五分ぐらいして、少し道がわからなくなってきたので、地図を確認する。
この道で良いみたいだ、安心した私はスピードを上げた。
三十分ぐらいして、目的の場所に着いた。
この公園の名前は。
風吹く丘公園。
なんとも安易な名前に、今更ながら笑った。
この公園の広さを目算すると。
入り口から入って、横に七十五メートルづつ、つまり百五十メートル。縦には四百メートルぐらいありそうだ。
地面は芝生で、周りは広葉樹で囲まれていて、真ん中には丘があった。遊具等は何も無く、端っこの方に長い長いベンチがある、公園というよりは広場という感じがする。
明かりは無く、今ここにある明かりは、私の自転車のライトだけ。
私は自転車で真ん中に向かおうと思った、次の瞬間、いきなりガクンと前輪が埋まったように感じた。
いつの間にか私は自転車から放り出され、地面に仰向けに倒れていた。
坂道だったらしい、今度から気を付ける事にした、次があるかどうかわからないけれど。

自転車を押して真ん中に向かって、レジャーシートを敷いて、その上に座る。
お腹が減ったので、持ってきたアンパンを食べる。
「君はそのまま食べる派? それとも潰す派?」
と一人ごちる。
寝転がって空を見上げてみると、暗いせいか十一時半なのに、かなりの数の星が見える。
綺麗だなーと見ていたら、心のもやもやが晴れていく感じがした。

ぼーっと星を見ていたら、いつの間にか一時になっていた。
帰ろうと思い立ち上がると、風吹く丘の名は伊達じゃないのか、静かでもなく、うるさくもない、良い風が吹いてきた。
良い風に当たれた事で気分がさらに晴れていった。
この状態だったら明日、いや今日のテスト楽勝かもと思った。

235 :崖っぷちの私。 ◆4lTwCuEYQQ :2006/05/21(日) 03:40:38.69 ID:+suF9xbc0
合格発表の日。
親友の新井 愛美(あらいまなみ)と
一緒に番号を見に来た。
愛美の番号は20176、私こと、今井 千里(いまいちさと)の番号は20177。
「「20160……20170……20171.20172.20175」」
私たちは声を合わせてゆっくりと読む。
「「20176! 20177!」」
嬉しさから声が大きくなっていた。
「ちーちゃん! 私らやったよ!」
「うん、よかったよかった。」
私たちは抱き合って喜んだ。

それから数日後。
毎日のように公園に行っていたら、黒猫さんと会う。
一ヶ月後
それから黒猫さんと何回も会っていたが、この日、藍という名前を付けた。

そして今。
思い返すと、あの日の風は私を応援していてくれて。
そして崖から落ちそうだった私を向かい風で押し返してくれたんだと思う。
さすが風吹く丘。君のおかげで崖から落ちなかったよ。ありがとう。   fin



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