【 奇必 】
◆nzzYI8KT2w




13 :No.04 奇必1/3 ◇nzzYI8KT2w :07/12/16 22:40:01 ID:w6ZS4p/J
「ね、奇跡って何だろうね?」
 狭く、ゴミがそこらへんに落ちている部屋で目の前で炬燵に入ったバカ(私の彼氏)が意味の解らない質問をしてきた。
「何、質問?」
 この馬鹿とは付き合って結構長い。それでも、急に変な質問をしてくる事になれる事は無い。
「いやね、さっきテレビ見てたんだよ」
「うん、見てたね」
「そうしたらね、見てた番組の名前に奇跡って言葉が入ってたんだよ。だから何かなって思ったんだ」
 よく解らないけど、嬉しそうに答えた。多分、こいつの頭には脳味噌の代わりにプリンが入っているのだと思う。
 時々、なんでこのバカと付き合ってのか、解らなくなる。
「何でそんな疑問が浮かぶのかが解らない」
「そこは解らなくていいからさ、奇跡って何だと思う?」
 また嬉しそうに笑いながら聞いてくる。まったく、何がそんなに楽しいんだが。
「そんなに知りたいなら辞書でも使って調べたらいいじゃない」
「はぁ。まったく、君は解ってないなぁ」
 なぜか、このバカは溜息をついて見下した目で私を見てきやがった。凄くむかつく。
「何よ、その態度は!」
「しょうがないじゃないか。僕は辞書とかそういう所に書いている意味を聞きたいんじゃなくて、君の意見を聞きたいんだよ。
いいかい、つまり僕が言いたいのは、辞書みたいな冷たい物じゃなくてこう、
温かみがあってそれで優しさ溢れる、そう、それはまるで肉まんのような、
あ、肉まんって言えばさ、コンビニの肉まんって1年中販売してもいいよね。
あんな、美味しい食べ物、毎日食べられるよ。あ、でも、僕はピザまんの方が好きだな。でも、チーズをもっと増量して欲しいけど。
あれ、何の話してったっけ?」
「……はぁ。奇跡の話でしょ?」
「あ、そうだったそうだった」
 前言撤回。多分、こいつの頭の中には何にも入って無い。

14 :No.04 奇必2/3 ◇nzzYI8KT2w :07/12/16 22:40:23 ID:w6ZS4p/J
「それで、奇跡ってなんだと思う?」
「う〜ん、だから特別な事じゃないの」
「特別?」
「だから、起きないような事が起こるって事よ。例えば」
 バカのために例を出そうとしたのだが、出てきた例が恥ずかしくて思わず言葉に詰まってしまった。
「例えば?」
 しかし、このバカはそんな事にまったく気付かず、続きを聞こうとしてきやがる。
 気付きなさいよ、このバカ。
「……私達が出会った事とかよ」
 口に出すと余計に恥ずかしい。ああ、何でこんな例しか思いつかないのよ、私の馬鹿!
「……えっと」
 ほら、あのバカだって困ってるじゃない。ああ、穴があったら入りたい。
「ごめん、声が小さ過ぎてよく聞こえなかった。
「へ?」
「だから、もう一回言って」
 私はさっき、結構勇気を出して言った。それなのにこのバカは、聞こえなかったからもう一度言え、だと。
 気付いたら私は横に落ちていた中身の無いペットボトルを掴んでいた。
「私とあんたが出会ったのが、奇跡って言ってるのよ!」
 私は叫ぶと共にペットボトルを投げた。
「ぎゃ!」
 バカの顔にクリーンヒットした。見たか、私の制球力。
「もう、何するんだよ」
「ふん、天誅よ」
「そっか、天誅か」
 納得しやがったよ、このバカ。
「あ、話を戻すけど、それって奇跡じゃないと思うよ」
「え?」
 バカが言った事の意味が解らなかった。

15 :No.04 奇必3/3 ◇nzzYI8KT2w :07/12/16 22:40:37 ID:w6ZS4p/J
「だから、僕達が出会ったのは奇跡じゃないって言ったんだよ」
私は本当にこの出会いを奇跡だと思ってた。そして、相手もそう思ってくれていると思ってた。
でも、そんな事、無かったんだ。
「僕達が出会ったのは奇跡とかそういう不安定な物じゃないと思う」
「……え?」
「うん、例えばさ、君が生まれたのが日本で僕が生まれたのがブラジルだったとする。それでも僕は君に出会ってるよ」
 言葉が出なかった。
「言うなれば、必然だと思う。僕と君は絶対にどんな事が起きようと恋人同士になってるよ」
 臭いセリフだと思う。でも、私には凄く嬉しい言葉だった。
「……そっか」
「うん、そう。あれ、それじゃ結局奇跡って何なんだろ?」
「さあね、私も解らないよ」
「あ〜奇跡っていったい何だ?」
 結局、バカは奇跡が何だったのか解らなかった。
 でも、私はどうして好きになったのかを思い出せた。




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