【 ひそひそ話は小さな声で 】
◆VXDElOORQI




100 名前:No.25 ひそひそ話は小さな声で(1/2) ◇VXDElOORQI[] 投稿日:07/12/10(月) 00:28:25 ID:XZ+WCuFe
「えー、ミーちゃんまたー?」
「いいじゃんかよぉ。教科書見せてくれよぉ。忘れたんだよぉ」
「はじめから私の見るつもりだったくせに」
 俺は教室の一角で、小声で囁きあう二人の女の子を見つめる。
 いや、正確には二人のうちの一人。友達に宿題を見せてくれと頼まれている、うなじまで短いポニ
ーテールがよく似合う女の子を見つめていた。
 今日も可愛いなぁ。
 この年になって初めて異性を可愛いと感じた。最近の子供なら初恋なんて小学生のときにでも、当
たり前に体験することだろう。正直、もうすることはないと思っていた。
 だけど、彼女の姿を見つめ、声を聞くだけで、俺の体は今まで体験していなかった分を取り戻すよ
うに、心臓は高鳴り、カッと体が熱くなる。
 今まで体験したことないのに、これは恋だと確信出来るのが、自分でも不思議だった。
 でも彼女と出会ったあの日から、彼女の笑顔を見たあの瞬間から、俺はその確信を確認する日々を
過ごしている。

 彼女との出会いは入学式の次の日だった。
 入学式当日、彼女は風邪で欠席しており、次の日になって他の人とは一日遅れで、学校にやってき
た。
 今より少し短いポニーテールはその日、力なく揺れていた。
 風邪がまだ治っていないのかな。と俺は考え、特に気にもしなかった。
 彼女を教室に案内する役に任命された俺は、同じクラスの一員として彼女と仲良くなろうと話しか
けた。このときはまだ彼女には、可愛い子だな。程度の感想しか持っていなかった。
「はじめまして、これから一年よろしく」
「はい」
 彼女はか細い声で答えた。
「まだ体調悪いの?」
 今度は声を出さず、フルフルと頭を横に振るだけだった。
 それからはなにを言っても、小さく首を横に振るだけだった。
 そんな調子のまま、教室に到着した。
「ここが君の教室」

101 名前:No.25 ひそひそ話は小さな声で(2/2) ◇VXDElOORQI[] 投稿日:07/12/10(月) 00:28:37 ID:XZ+WCuFe
「はい」
 俺が教室の扉を開け、彼女が教室に入るとすぐに中から、「カナちゃんやっほー」という声が聞こ
えてきた。
 彼女は声を聞くなり驚いた様子で、声の持ち主のところに駆け寄っていく。
 そこから彼女は、俺と教室の皆を無視して、二人で話をし始めた。
「ばかっ」
 そう言って彼女は、目の前の女の子を叩いた。
 彼女は泣いていた。でも嬉しそうに笑っていた。
 彼女達の間になにがあったのか、俺は知らない。ただ、その日、俺は彼女に恋をした。それだけは
確かだった。

「ありがとー。カナちゃん愛してる」
「もう次はちゃんと持ってきてよね」
 俺が彼女との出会いの日を思い出しているあいだに、彼女達のひそひそ話は終ったらしい。
 本人はきっとひそひそ話しているつもりなんだろう。けど、全部聞こえてるところがまた愛らしい。
 告白なんて、大それたことは出来そうにもない。そんなことをしたら心臓は爆発し、体は蒸発して
しまうだろう。だから今はただ彼女のことを見つめよう。ストーカーと呼ばれない範囲で。
 そんなことを密かに決意し、再び彼女に視線を戻すと、彼女も俺のことを見つめていた。
 じっと、少し不思議そうな目で。そして彼女は口を開き、可愛らしい声で、俺に一言、こう言った。
「先生。授業の続き。してください」

おしまい


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