【 サンタからのプレゼント
】
◆uu9bAAnQmw
69 名前:No.18 サンタからのプレゼント 1/4 ◇uu9bAAnQmw[] 投稿日:07/12/09(日) 21:39:05 ID:LWn13oCH
サンタのコスプレは、赤が目立つので恥ずかしい。
肩から下げてある白い袋の中には、実際には何も入っていないが、夢は入っていた。
まさか女の私がサンタの格好とは……しかも、つけ髭まで付けて。なんだか宝塚の男優
役になった気分。
サンタは人気者だ。子供がよく話掛けてくる。イテテ。コラ、足を蹴るな。こいつら、
サンタをなんだと思っているんだ。キャラ的にはおじいさんなんだぞ。
よく見ると、この小学生カップルじゃないか。なんだガキのくせに。こっちは寒い中サ
ンタで頑張ってるって言うのに。世の中不公平過ぎる。
ああ、恋人が欲しい。堪らなく欲しいよ。寂しさに負けた。いいえ、世間に負けたあ。
遠くから自分を呼ぶ声が聞こえる。とっさに目を細めた。
「あっ、ミキちゃんゴメンね。無理言っちゃって。今日はクリスマスだし彼氏なんかと予
定でも会ったんじゃないの?」
提げていた白の袋を地面に置いて、私は一礼しながら言葉を続けた。
「いえいえ、無いからここに来たんです! お気になさらずに!」
それにしても、全く空気の読めない男だ。こりゃ、二十二にもなって恋人もいないはずだわ。
よく見ると顔もパッとしないし。もしこれが超美形だったら飛びついてたのに。
「ミキちゃん何怒ってんの? まぁ、いいや。はいこれ今日のバイト代――じゃなくてお
こづかいね。本当はこんなことしちゃいけないから、他人には内緒にしてって、店長が言ってたよ」
「はいはい、分かってますって」
貰った封筒をその場で開けてみると、なんと五千円札が入っていた。
「えっ、あのこんなに」
「いいって、いいって。もし返したとしてもあの頑固な店長のことだから受けとらないと思うぞ」
確かにカズキ叔父さんなら返しにいったらもう五千円足して突き返してきそう。
「それでこのあとにでも彼氏といっしょになんか良いものでも食べたらいいじゃない」
だから、ああもういい。
70 名前:No.18 サンタからのプレゼント 2/4 ◇uu9bAAnQmw[] 投稿日:07/12/09(日) 21:39:34 ID:LWn13oCH
「す、すみません。ありがとうごさいます」
「どうしたの、さっきから眉間に皺を寄せて。具合でも悪いの?」
こ、こいつわざとやってんじゃないのか。ならこっちだって。
「カオルさんもこのあと彼女とデートですか?」
「えっ、ああ、あっ、あっそうだよ。分刻みのスケジュールでね、困ったもんさ。アハハハハ」
挙動不審になってるのがまた分かりやすい。ここで追い討ちをかけてやるか。
「あっそうだ、これ」
足元に置いてあった空の袋に手を突っ込むんで、何かを取るそぶりを見せたのち、カオル
さんの眼前へと持っていく。
「はい、サンタからクリスマスプレゼント」
「えっ、何も見えないけど」
「彼女がいない人には見えないプレゼントです」
カオルさんは頭を掻きむしりながら苦笑している。
「そりゃどうも。有難く貰っておくよ。ああ、サンタさんにこんなプレゼントを貰って僕は
なんて幸せ者なんだ」
まるでオペラの様な、大袈裟な動きをしながら彼は街に溶けこんでいった。
カオルさんが去った後、突然体に冬の風が当たる。なんだろう、心になんかぽっかり穴が
空いたみたいな気持ち。
今日はテレビで午後から寒くなるって言ってたから、体が冷えただけかな。早く帰って
家族とケーキでも食うか。
71 名前:No.18 サンタからのプレゼント 3/4 ◇uu9bAAnQmw[] 投稿日:07/12/09(日) 21:39:55 ID:LWn13oCH
テーブルの丸い皿の上で座っている、三角に切られたケーキを眺めつつ、この五千円
何に使おうとか、カオルさんの事とか色々考えていた。
正直、私の頭の中はカオルさんでいっぱいだ。ああ、もしかすると、もしかするかもしれない。
「おい、ミキ何だよぼーっとして。ケーキいらないのか」
お父さんの唐突な問掛けに、椅子ごと飛んだ。
「えっ、ごめん。ほしい、ほしいよ!」
慌てて口の中に一口入れてみたが、よく味が分からない。
「お姉ちゃんは、今日はクリスマスなのに家族といっしょだからヘコんでるんだよ」
私の神経を逆撫でする、この馬鹿声は十歳の弟か。弟よ笑っていられるのも今のうちだぞ。
「痛い、痛い。ごめんって姉ちゃん」
弟が自分の部屋に入るのを見計らって後ろから羽交い締めし、こちらの体格が有利なのを
生かしてそのまま体重を掛け、押し潰したのち馬乗りする。
「もうあんなこと言わないって誓う?」
グイッグイッと腕を弟の首に食い込ませていく。
「誓う、誓う! げほっ、だから」
「分かった。許すけど、その変わりに一つ質問に答えなさい」
「えっ? なんだよ急に」
「男が貰って喜びそうな物ってなに?」
最初弟は一頻り笑ったのち、私が一発溝落ちを殴ると、今度は大粒の涙を流した。全く、
笑ったり泣いたり忙しい男だ。
散々殴ったのち、弟から情報を聞き出すことに成功した。
これで五千円を何に使うかも決まったし、あとは彼に渡すだけ。
急用があると言ってハルキ叔父さんに、カオルさんを呼び出してもらう。
72 名前:No.18 サンタからのプレゼント 4/4 ◇uu9bAAnQmw[] 投稿日:07/12/09(日) 21:40:17 ID:LWn13oCH
「突然呼び出してすみません。実は渡したいものがあって」
後ろに隠していた右手を前に出す。
「ん、何も見えないけど」
「恋人がいない人には見えないプレゼントです。私といるとこれから見えるようになりますよ。
だから先に渡しておきます」
弟が言うには「物で釣ろうとするな。男が欲しいのは姉ちゃんの本当の気持ちのみ」だそうだ。
子供の割りには良いことを言う。
ちなみに、あの五千円は弟のゲームソフト代に消えたのであった。
【完】