【 砂糖味のキス 】
◆OlsmS4EvlM




42 名前:No.12 砂糖味のキス 1/4 ◇OlsmS4EvlM[] 投稿日:07/12/09(日) 17:29:06 ID:LWn13oCH
僕が小学二年の頃、彼女に出会った。
彼女は最近流行していた食用人間だった。

檻の中に入れられた彼女はずっと店前に裸で陳列されていた。
彼女はとても高価だった。僕は毎日母親の買い物に付き合って
そこの側を通るのだ。彼女が檻から手を出していた。

「握手?」僕は彼女の手をそっと握った。
柔らかい。食肉として品種改良されているのだろう、彼女はとても柔らかかった。
「ちょっと、汚いから触っちゃいけません」
母親にすぐに引き離された。

43 名前:No.12 砂糖味のキス 2/4 ◇OlsmS4EvlM[] 投稿日:07/12/09(日) 17:29:30 ID:LWn13oCH
彼女は売れ残っていた。ずっと、ずっと。

僕が高校生くらいになっても、彼女は売れ残っていた。近所のおばちゃん連中から
「子供の教育に悪い」等とクレームがついたのだろう。
高校生くらいの彼女はサイズのあっていない男物の学生服を羽織っていた。

「ああー。うぶー」
彼女が笑う。言葉を教えられていないため彼女は言葉を喋る事ができない。
僕は彼女に「おはよう」と毎日声をかけた。

ある日、彼女の片手が無かった。包帯が巻かれ、痛々しかった。
「売れたんだね、おめでとう」
僕は彼女に声をかける。
「あぶー」
彼女は痛そうに顔をしかめながらも、こちらへ笑顔を返す。

44 名前:No.12 砂糖味のキス 3/4 ◇OlsmS4EvlM[] 投稿日:07/12/09(日) 17:29:53 ID:LWn13oCH
腕が好評だったのか、口コミからか。
少しずつ彼女は売れていった。段々と彼女が無くなっていく。
僕の二十歳の誕生日、彼女は頭だけになっていた。
黄色い液体に付けられ、頬の柔らかい部分は売れていたのか、ごっそりかけていた。
「あぶー」

あと一度売れてしまえば、彼女はなくなってしまう。
店長に、「彼女はいくらですか?」と尋ねた。
「そうだね、このくらいかな」
電卓を叩いた。僕のお小遣いで買えるくらいの金額。
「誰にも売らないで下さい。僕が買います」
「あぶー」
彼女に微笑みかけると、彼女も笑顔を返してきた。

45 名前:No.12 砂糖味のキス 4/4 ◇OlsmS4EvlM[] 投稿日:07/12/09(日) 17:30:20 ID:LWn13oCH
「ごめんね、売れちゃったんだ」
お金を取りに戻った僕に、肉屋の主人は悲しそうに告げた。
「お得意様だったからねぇ」
家に戻ると、母と姉が出迎えてくれていた。
「お誕生日おめでとう。今日はごちそうよ」

笑顔のまま蒸された『彼女』が食卓に置かれていた。
「いただきます」
僕はそっと彼女の唇をむしり、口をつけた。

甘い砂糖の味がした。

それが僕の初恋のキス




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