【 初恋に恋して 】
◆twqcz/VGCg




26 名前:No.07 初恋に恋して 1/4 ◇twqcz/VGCg[] 投稿日:07/12/09(日) 00:55:01 ID:LWn13oCH
 ある晴れた日の朝のこと、村の少年ロビンは、とても素敵な噂を聴いた。
「村のはずれの森の奥には、とても不思議な泉があって、そこで祈れば
 恋の女神が現れて、素敵な恋のチャンスを与えてくれるらしい。」
その噂はロビンを大いに喜ばせた。それというのも、ロビンは生まれてから
一度として誰かを好きになったことがなくて、ずっと恋をすることに憧れていたのだ。
「ついに自分も、素敵な恋ができるかもしれない。」
 ロビンは友人達に嬉々としてそのことを話したが、彼らの反応はいたって冷ややかだった。
「そんなもの、迷信に決まっているじゃないか。行くだけ無駄さ。」
誰もがそう言って呆れたが、それでもロビンは諦めなかった。
 それから急いで家に戻ってお弁当と水筒、そして小さなナイフとコンパスを
リュックに詰めると、再び家を出た。
 そして村の入り口の門をくぐろうとした、その時だった。
「おはよう、ロビン。」
誰かが後ろから名前を呼んだ。
 その声に振り返ると、そこには幼なじみの少女が立っていた。

27 名前:No.07 初恋に恋して 2/4 ◇twqcz/VGCg[] 投稿日:07/12/09(日) 00:55:31 ID:LWn13oCH
「やぁ、おはよう。ルルゥ。」
ロビンは快く返事をする。
 それを聞いたルルゥは嬉しそうに微笑んだ。笑顔はルルゥの癖のような物らしく、
ことあるごとに微笑んでいた。
「リュックサックなんて背負っちゃって、今日はどこかへお出かけ?」
ロビンは自分が今から森へ行くことと、その素敵な理由を話した。
 するとルルゥは他の友人のように呆れることもなく、それどころか
少し感心したような顔を見せて言った。
「へぇ。それはちょっとした冒険だね。うん、かっこいいと思う。」
その口調にはまったく嫌味が感じられなかった。
「それじゃあ、気をつけて行って来てね。健闘を祈ってるよ。」
 ルルゥは微笑みながらそう言うと、背中まで伸びた栗色の髪をふわふわと揺らしながら、
村の方へと去っていった。
 少しの間その後ろ姿を見送ってから、ロビンは再び森の方へと足を進めた。
 やがて森の入口に着くと、そこには人が通るためのちゃんとした道があった。
しかし、その道をただ普通に行っても、隣の村に着くだけであることをロビンは知っていた。
 そこで道の左右にある草むらを、注意深く見ながら歩いていく。
するとしばらく進んだ所で、草に覆われた「けもの道」を発見した。
うっすらと見えるその道筋は、ずっと奥まで続いている。
 「泉はきっと、この先にあるに違いない。」
ロビンはそう確信すると、生い茂る雑草を掻き分けて森の中へと進んでいった。

28 名前:No.07 初恋に恋して 3/4 ◇twqcz/VGCg[] 投稿日:07/12/09(日) 00:55:55 ID:LWn13oCH
 木々に囲まれた森の木漏れ日の中を歩いている途中で、倒れて道をふさぐ
大木を乗り越えたり、面白い形のキノコを見つけたり、野ウサギの親子に出会ったりと、
ロビンはルルゥの言っていた「ちょっとした冒険」を楽しんだ。
 そして岩場でお弁当のサンドイッチを食べながら、女神様の美しさや
、どんな素敵な恋ができるのかを想像して、期待に胸を躍らせた。
 それから少し休憩してからまた歩き出した時だった。ロビンは木々の間に
ついに念願の泉を発見した。
小さくて丸い形の、水の綺麗な泉だった。
 思わず駆け寄ってそのほとりにひざまずくと、手をしっかりと合わせて祈った。
「恋の女神様、どうか姿をお見せください。」
ロビンはその姿勢のまま、水の中から女神様が現れるのをひたすら待った。
 しかし、いつまで経っても一向に女神様が現れる気配はない。
小石を投げ込んでてみても何も起こらないし、水面を覗きこんでも、
自分の顔が揺らいで映るだけだった。
 それでもロビンは信じて待ち続けたが、日が暮れ始めた頃になって、ようやく諦める決心をした。
がっくりと肩を落とし、何度も後ろを振り返りながら、トボトボ歩いて泉を後にする。
 そして家に帰るとすぐにベッドに横になり、晩御飯も食べずにそのまま眠ってしまったのだった。

29 名前:No.07 初恋に恋して 4/4 ◇twqcz/VGCg[] 投稿日:07/12/09(日) 00:56:17 ID:LWn13oCH
 次の日、ロビンが村を歩いていると友人達が駆け寄ってきて、こぞって昨日の結果を聞いた。
「普通の小さな泉しかなかったよ。」
ロビンがそう答えると、みんなが口を揃えて「それ見たことか」と言い、笑った。
 しかし、ロビンそれでもただ黙っていた。言い返す言葉がなかったのだ。
それから惨めな気持ちで歩いていると、またもやルルゥに出会った。
「あっ、ロビン。ねぇ、泉はどうだった?女神様は、いた?」
ロビンは先程散々笑われた、自分の骨折り損のマヌケ話をもう一度説明してやった。
「ふぅん。それは残念だったね。でもさ、昨日はたまたま女神様がお休みだったのかもしれないよ。
 ロビンはきっと運が悪かったのさ。うん。とりあえず、おつかれさま。」
ルルゥはそう言ってニコリと笑った。
 その瞬間だった。
ロビンは胸に、今まで感じたことのないきゅうんとした切ないような感覚を覚えた。
 そして、とっくに見慣れているはずのルルゥの笑顔を見るのが、照れくさくてたまらなく
なってしまったのだ。
突然耳まで赤くなったロビンの顔を、ルルゥが不思議そうに覗き込む。
 「急に真っ赤になっちゃって。おかしなロビンね。」
そういうとルルゥはまた、いつものように優しく微笑んだ。
                  
                fin



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