【 某日、昼休み 】
◆hOG3FfUkhE




74 :No.18 某日、昼休み 1/4 ◇hOG3FfUkhE:07/12/03 01:34:26 ID:Mb4WRYJ4
某日、昼休み

 夏の暑さも薄らぎつつある某日昼休み、山本高校三年七組の生徒たちの話題のメインストリームを
占めていたのは、近日新聞各紙が大いに紙面を割いていた小麦価格の高騰についてであった。
 高校生の昼休みの話題にしては堅苦しすぎないか?もっと若者ならば、ファッション、前夜のTVドラマ、
ゲーム、映画等が話題に上ってしかるべきではあるまいか?と疑問を持たれる諸兄もおられるであろうと
思うが、山本高校は公立ではあるが、県内No.1進学校。その中でも七組、八組はそれぞれ文理の特進クラス。
各小中学校でクラストップだった者たちの中でさらに選抜を受け、将来は旧帝へ、そして国家地域経済を
担う人材となる事を期待されているエリートの卵たちなのである。
 
 当人たちももちろんエリート足る事を十二分に自覚し、バラエティ、ワイドショウの話題なぞ持ち出そう
ものなら周囲のクラスメイトより「このスノッブめ! 」といった視線を浴びるであろう事、是必至、
自然日々の話題は勉学、受験、そうでなければ時事問題になる事、また是自然な成り行きなのであった。

 クラス委員を務める人気者山田が、足を組み替えつつ言った。
「結局、石油価格の高騰と、USAのバイオマスエタノール推進政策が原因なのは明白なんだよな。
原因がわかってるけどどうしようもない。人間が多すぎるんだよ」
 アメリカといえばいい所、わざわざUSAと言い換えるあたりが鼻につくといえない事もない。

75 :No.18 某日、昼休み 2/4 ◇hOG3FfUkhE:07/12/03 01:34:44 ID:Mb4WRYJ4
 文系科目クラストップの西山は横目で山田をちらっと見て、ため息を付きつつ言った。
「山田はバイオマスエタノールをどう考えてるの?何か肯定的に聞こえたけど? 」
 あまり暖かい言い方ではない。西山は実は、成績面が及ばないのでクラス委員で内申を上げようと
立候補した山田を軽蔑している所があるのである。

 山田はまた足を組み替えて言った。
「悪い事では無いだろ? 炭素は理論上ローテショーンしてるわけで、地球温暖化への影響だって
プラスマイナスゼロになるわけだし」

 西山は、失望を隠さず言った。
「浅はかだね。肥料、運搬、耕地開拓、すべて石油エネルギーを消費する。つまり二酸化炭素を放出する訳だ。
しかも、バイオマスエタノールは決して石油の代替にはならないよ。例えば、もし石油消費をバイオマス
エタノールで補おうとすれば、地球の耕地全てでとうもろこしを作っても、まだ足りないんだぜ?
自分の勉強不足、自覚した方がいいんじゃないの? ここでだからいいけど、他所で言うのは我が校の
程度が知れちゃうから、止めてくれよな」

 ほとんど喧嘩を売っている。さすがに山田も不機嫌を隠さずに言った。
「じゃあ、西山、お前はどうすればいいと思うんだよ。石油は足りない。エタノールは焼け石に水、
その上耕地を使うから小麦も上がると。じゃあ、どうすれば問題を解決出来るのさ?」

 弁当を食べたあと、机につっぷしていた中居が口を挟んだ。
「減らすしかないんじゃないの?皆がすこしずつさ」
 普段クラスメイトと距離を置き、授業中も寝てばかり、なのに学校トップを譲らない変わり者
中居が口をはさんだことに皆少し驚く。中居は言うだけいうと、また顔を机に伏せてしまった。

76 :No.18 某日、昼休み 3/4 ◇hOG3FfUkhE:07/12/03 01:35:13 ID:Mb4WRYJ4
 西山は動揺を隠しつつ言った。
「そうだな。世界中の人間が今のアメリカ、日本並みの生活をしたら、資源なんて一瞬で無くなってしまう。
結局、皆が少しずつ消費を我慢して、持続可能な生活をするしかないんじゃないの? 」

 山田は無邪気に同意した。
「そうだよな。わかってるんだから、皆が少しずつ減らせばいいんだ。俺、明日から自転車通学するよ。
バイクを止めて」

 西山は参考書を広げながら、言った。
「山田、お前はいいやつだな。世界中の人がお前と同じくらい善人なら、エネルギー問題もすぐ解決するよ」

 山田は明るい顔で答えた。
「そうそう。大体、金持ちが贅沢をしすぎるんだよ。豊かな人が皆少しずつ生活のランクを落とせばいいんだ」

 近くの席のメガネでちょっとニキビの目立つ西村と、いつもひっつめ、すっぴんで可愛い顔を台無しにしている
中山の女二人組も会話に参加する。

「大体、今の消費万歳、能力がある人はいくらでも金を稼いでってライフスタイルが間違ってるんだよ」
「皆が少しずつ人に優しくなれば」
「勝ち組、負け組を煽って、エリート以外は人でない。能力ない奴は死ね。みたいなさ」
「それで貧乏人に寄付して、わたしってなんて優しいの? みたいな」
「学力が全て。金が全てとかね」
「大体にして、偽善者」
「育ちが悪けりゃ、頭悪けりゃ生きてる価値無いみたいな」
「機会平等でさえあればそれでいいのか? 資産の再分配を」
 もう、今にも共産党宣言を片手にシュプレヒコールしそうな勢いである

77 :No.18 某日、昼休み 4/4 ◇hOG3FfUkhE:07/12/03 01:35:36 ID:Mb4WRYJ4
 ずっと寝ていた中居が、口元に皮肉をふくませて言った。
「なるほど、皆がいう事は実にもっともだ。ところで話は変わるんだけど、今朝の新聞で読んだんだが、
今の大学生はなんと四割もの人間が積分を説明出来ないらしいぜ? 知ってる?」

「これだから、馬鹿大学は」
「馬鹿でも大学行けるようにするから」
「どうせ馬鹿な奴は頭脳労働なんて出来ないんだから、営業か肉体労働しかしないんだから大学なんて
行かせなきゃいいのに」
「どうせ、ファッションと、いかに男にモテるかしか頭に無いくせに」
「あとはスイーツ(笑) 」
「どうせあの○○高校の奴らとかも、二流大学に入ってそういう奴らの仲間入りするんだぜ? 」

「「これだからDQNは! 」」


中居はまた机に顔を伏せた。

<了>



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