【 後(のち)の神である 】
◆uu9bAAnQmw




51 :No.13 後(のち)の神である 1/4 ◇uu9bAAnQmw:07/12/03 01:17:46 ID:Mb4WRYJ4
 些細な出来事で全てが作用しあい、複雑に入り組むものだ。
 蝶が羽ばたけば雲の流れが変わり気候が変わる。
 人間が開拓すれば地形すら変わり生態系が変わる。。
 人類が月に初めて一歩足を踏み入れようかとする頃、見た目は同じでも地球人より遥か
に文明が進んでいる人々がいた。
 その中で二人の若い男が自家用車ならぬ自家宇宙船で出掛けようとする姿がある。
 彼等はなぜ自分は生きているのかと考え、見栄えばかりの良い宇宙船を買い、自分探し
の為に母星を後にし、地球へと期待を胸に出発したのだった。
 地球は彼達にとっての観光スポットで、文明保護の為接触してはならない。もし破った
のならば、星外退去になる。だが、付近を飛ぶことは許されている。
 ところがその途中、外見を重視し過ぎた機体は燃費が悪く、燃料がなくなってついには
止まってしまった。
 しかし、この船の燃料は電気で、緊急用に最新鋭の機材で熱を利用した発電をするのが
積んである。
 男で発電・発熱と言えば真っ先にアレが思いつくだろう。もちろんそれが正しい。地球
人からすれば頭がおかしい人達にしか見えないが、彼等宇宙人からすればれっきとした正
しい行為なのである。
 二人は一所懸命に発電した。機材のメーターがぐんぐん上昇していくのが分かる。
 ふと、一人が外でするとどうなるかと思って、ちょうどドアの隙間から外の宇宙にモノ
だけを出したところ、自分の体より数十倍近く膨れあがり、そのままの状態で帰ってきた。
 もう一人はそれを見るなり、慌ててドアの方に走っていく。
 狭い船内は、それはそれは異様な光景である。
 モノが大きくなったお陰で、発電はすぐに済んだ。
「帰ったら神扱いだべ」
 一人が満足気に言う。

52 :No.13 後(のち)の神である 2/4 ◇uu9bAAnQmw:07/12/03 01:18:09 ID:Mb4WRYJ4
 だが少し経って、二人は我にかえる。大きいのにも限度があるものだ。巨大過ぎて邪魔
でしかたがない。
 少々思案した後、突然一人が大声を出した。
「こんな大きくなったのを使わない手はない!」


「おっ、きたきた、地球人の船だ」
「よし、やるか」
 月のクレーターに隠れていた彼等は船から身を乗り出し、スペースシャトルの窓に大き
くなったモノを何度もぶつけると、その度にシャトルは左右に揺れた。
「アハハハ。あいつらのあの顔!」
「一人目の地球人にしては上場のリアクションだな」
 あろうことか、自暴自棄になった二人は禁忌を冒し、地球人との接触をしたのである。
 一人があの人間の顔を何度も思い出し、笑いながら言った。
「アヒャヒャヒャ。てか、時にあれだべ。人類てマジ弱くね? 俺らが本気出せばイチコ
ロじゃね?」
「だな」
「暇だから、ちょっくら地球を混乱の渦にしてみんべ」
「んだんだ」
 まずは小さいところからだと、日本列島付近に降下した。
「地球で案外綺麗だな」
「俺らの母星より綺麗なんじゃね?」
 空から物色したのち、人の多いところを選ぶ。
「よし、やるか」
 徐に外へ出ると、二人はモノを振り回し始めた。

53 :No.13 後(のち)の神である 3/4 ◇uu9bAAnQmw:07/12/03 01:18:56 ID:Mb4WRYJ4
「おい、あいつら見てみろよ、こっち見てビビってんべ」
「あの顔マジウケるんですけど」
「写メ撮ってブログにでも載せるか」
「それマジヤバくね? お前のブログのせいでサー
バーダウンだな」
「いいねー。最高じゃねえか――やっぱ、やめた」
 突如一人が船内に戻り、慌ててもう一人が後を追う。
「はぁ? どうした」
「何か急に醒めたし。それに飽きた」
「地球はどうするんの?」
「もうどうでもいい」
「……帰るか」
「だな」
「アディオス、人類」
「バイバイ、地球」
 宇宙船の窓からは手ではなく、彼等はモノを大きく左右に振った。
 二人が帰った後の日本ではある異変が起こっていた。
 人類が初めて有人宇宙船で月に着陸したニュースを抑え、UFOから宇宙人が大きなモ
ノ振っている写真が、週刊誌が火種となり話題になっていた。
 そして、いつしか奇特な神主が安産の神として石像を彫り、そして奉った。それも話題
となり、調子に乗ってストラップも作ったらそれも売れ、一瞬ながら大ブームとなった。
 真偽は不明だが、ある時ガガーリンは日本の記者にインタビューを受けた。
 その時、記者が彼に手土産にと「安産のキーホルダーですが、奥さんにでも。それ日本
で流行っているんですよ」と差し出すと、急に冷や汗を掻き震えた声で『神は存在しない』
と言ったという。
 彼の言葉を本当に理解出来る人は地球上には存在しないだろう。

54 :No.13 後(のち)の神である 4/4 ◇uu9bAAnQmw:07/12/03 01:19:21 ID:Mb4WRYJ4
 ある二人を除いては。
「地球ってマジいいよな」
「んだんだ」
「あのさ、なんか家族が恋しくなくね?」
「それは言わない約束だろ」
「……すまん」


【完】



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