【 疑心暗鬼もそれほどに 】
◆Je0OLOYuAA




41 :No.11 疑心暗鬼もそれほどに 1/5 ◇/7C0zzoEsE:07/12/03 01:12:00 ID:Mb4WRYJ4
 教室の隅っこで、いつもと変わらず座っている。
ここにいる必要が無いことは、ずっと前から分かっている。
 それでも、開き直ってここにいるのに、意味は無く。
何故一生を生き抜こうとするか意味が無かったとしても、
ただ惰性で生きている事と変わらない。

 難しい事を考えるのは好きでなかったが、
誰からも相手にされず、どうせ嫌われているから、
ただ延々と無駄な事を、そらで浮かべ続けている。

授業の中身は分からなかった。
それでもここで座っていた。


 初めは興味本位で話しかけてきた奴らも、
無愛想な俺に愛想尽きたか、遂には放っておかれるようになった。
 空気や、置物と変わらない扱いをされても、
別にそれはそれで構わなかった。
 教師から疎ましがられて、除け者にされても、
別にそれはそれで構わなかった。


――リーン、ゴーン。
 授業の終りを告げるベルが聞こえてきた。
そして俺が学校で過ごす中で最も憂鬱な昼休みが訪れる。

42 :No.11 疑心暗鬼もそれほどに 2/5 ◇/7C0zzoEsE:07/12/03 01:12:31 ID:Mb4WRYJ4
 皆、それぞれ何人かのグループをつくり、
仲睦まじそうに昼食を食べ始める。
 俺はベルが鳴ってからも、全く動こうとはしない。
一緒に食べる相手がいないだけならまだしも、
食べる物が無いので悲惨である。

 うちには十分な蓄えがが無く。
朝と夕だけで事済ましている。
 別にそれ自体は幼少からの日課になっているので気にならないが、
何よりも苦痛なのは……

「クロ君! これ食べるかな?」

 目の前にタコさんウィンナーが突き出される。
「僕、今朝、一生懸命作ったんだよ」
 可愛らしい女の子が満面の笑みで、俺に話しかけてくるが、
これがもう、どうしようもなく苦痛である。
 俺は、同情されて施しを受けるほど困っていないし、
違う目線から、見下さられるのは、我慢ならない。
 
 彼女を一瞬、キッと睨み付けて、
教室から出て行った。
 何か言いたげだったが、振り返る気にはならなかった。


 あと三十分ほど何していようか……。
いつも通り憂鬱な一時を過ごした。

43 :No.11 疑心暗鬼もそれほどに 3/5 ◇/7C0zzoEsE:07/12/03 01:12:58 ID:Mb4WRYJ4
それにしても気に入らなかった。
同情されることだけでない。
 人と違うことに価値を見出しているのか知らないが
自分の事を『僕』だなんてスカートをひらつかせているくせに言ったり。
 陰気だからか知らないが、
俺に勝手に慣れなれしくあだ名を付けたり。
 全てが気に食わなかった。
それでもどこか、何故か“あいつ”のことが気になっていた。
 “あいつ”の顔がチラついて、どうしても嫌いになれなかった。

 考え事をしながら呆けていると、
気がつくと下校時間になっていた。


 いつも以上につまらない日だったと、帰る準備をしていた途中。
かれこれ数ヶ月か経つのに、初めて気がついた。
(あいつも同じ帰路なのか・・・・・・)

 俺は、彼女の影三つ分離れて、こっそり歩くことにした。
 別に後をつけるつもりではなかったが、何気なしに歩幅を合わせている。
 
 機会があれば、文句の一つでも言ってやろうかと思って。


 すると、いきなりだった。
 俺が、欠伸をして、一瞬目を逸らした間ほどに、
どんくさい事に、あいつは変な男に絡まれて、路地裏に連れ込まれていた。

44 :No.11 疑心暗鬼もそれほどに 4/5 ◇/7C0zzoEsE:07/12/03 01:13:45 ID:Mb4WRYJ4
 慌てて、後を追うが、困ったことに俺は非力だ。
 鬼のような体つきをした悪漢から、俺が救えるのだろうか。
考えるよりも先に走りだす。この行動力は普段の俺に無いものだった。

「だからさ、ちょっとお茶付き合えって」
 男は彼女の細い腕を強く握り締めている。
「やめてください、僕っ、忙しいんでっ」
「うるせぇ!」
 怒号が飛び散る中、俺は気付かれないように背後まで近づいて、

 一気に飛び掛った。

「いっ……っつ、なんだぁ!」
 引っ掻いて、噛み付いて、髪の毛を引っ張って。
とにかく揉みくちゃになりながらも、彼女に逃げる暇を与えようとした。
 しかし、それは叶わない。腹部を蹴り飛ばされると、
嘔気に見舞われ、いくらか骨の折れたような嫌な感触まで感じる。

 男の目は血走って、徐々に俺に近づいてくる。
格好悪いなぁ。霞む目で、意識が途切れる寸前。俺は確かに見た。
 何人かの男子中学生が俺達の方を指差して。
「おい、あれクロじゃねえ?」
「何、南中の奴とうちのクラスの女子もいるわ」
「おい、お前何してるんさ!」
 薄情だったはずの、あいつらが。何だ……お前らもあだ名で呼んでやがったんだ――――

45 :No.11 疑心暗鬼もそれほどに 5/5 ◇/7C0zzoEsE:07/12/03 01:14:08 ID:Mb4WRYJ4
 いくらほど、気を失っていたんだろうか。目が覚めた時に彼女は俺の傍で座っていた。
「良かった。気がついたんだね」
 どこかその目は潤んでいるようだった。
「あの変な奴は皆が追っ払ってくれたよ。クロ君……助けてくれて、本当ありがとう。格好良かった」
 
 俺の、頬に、柔らかく口付ける。
俺は、嬉しいというよりも恥ずかしく、顔を真っ赤にしていた。

 皆に相手にして貰えなくて、嫌われてるだなんてずっと思い続けていた。
 それでも、俺は俺なりの方法であいつらを愛していたし。
本当はあいつらも俺を愛してくれていたのかもしれない。それを感じて、
そして今、傍には違いなくこいつがいる……。俺は満ち足りている。

「思ったんだ……僕やっぱり、男らしくならなきゃだめだよね」

 顔を伏せていた彼女が、急に決したように言い出す。うん?
「先生に無理言って、スカートにしてもらったけど、それじゃ逃げてるんだ。
駄目だよね。逆にクロ君を守れる様になるよ!」
 そう語る彼女……ないし彼の目は一層美しく輝いていた。
一方、俺は意味を理解し難く、硬直していた。

 また学校で。そう言って、スカートを翻し去っていく
彼女の後ろ姿を見ていると、感じるこの虚無感は一体何なのだろう。
いや、別に構わないはずなのだが……。

 俺は自分の体よりもずっと大きい塀の上に飛び乗って、
「なーご」と一鳴き、ため息つくと。
明日学校に行こうかどうか悩みながら、
唐紅に染まる街中を一匹、尻尾を振りつつ駆けていった。       
                                (了)



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