【 とある少年の一日 】
◆h1izAZqUXM




29 :No.08 とある少年の一日 1/4  ◇h1izAZqUXM:07/12/02 17:57:20 ID:H6z91+uk
この物語、時代は今より数年後のお話。
とある町の中のとある場所にある一軒家に、一人の少年が住んでいました。
少年は母親が用意してくれた朝ごはんを食べ終わると、時計を見て言いました。
「もうこんな時間か、学校に行かなきゃ」
少年は黒い生服を着ると、昨日家に帰宅してから一度も開いていない鞄を持って家を出ようとしました。
すると、台所から母親が言います。
「ちょっとあんた! 今日は……」
「わかったよ!!」
少年は母親がすべてを言い終わる前に返事をして、家を出て行きました。
少年は自転車に乗ると、ポケットに入っていたウォークマンを取り出し
最近入れた、何を言っているか理解出来ない洋楽を聴きながら
家から少し離れたところにある学校へと向かいました。
学校に着くと、少年の友達らしき人物が声をかけます。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
毎日行う決まりきった挨拶を交わすと、友達は少年に言いました。
「昨日の数学の宿題やってきた? ほら、あの因数分解を使うやつ」
少年は不思議そうな顔をして、友達に尋ねます。
「そんなのやってないよ。将来、因数分解が何の役に立つんだよ」
友達は少し苦笑いをし、こう言いました。
「確かに、必要ないかもね」

朝のホームルームも終わり、授業開始のベルが学校中に響き渡り
各教室で一時間目の授業が始まります。
一時間目の社会が終わると、少年は誰に言うわけでもなく、唐突に言いました。
「やっぱ、アメリカは最低だな」
その言葉を聞いた友達は、少年の方を見て少しため息をつくと
聞かなかったことにして、次の授業の支度をはじめました。

30 :No.08 とある少年の一日 2/4 ◇h1izAZqUXM:07/12/02 17:58:22 ID:H6z91+uk
二時間目、国語の教師が授業の終わりに、笑顔でこう言いました。
「あなた方の将来の夢は決まっていますか? それとも、まだ考え中ですか?
私は、まだどちらでもいいと思います。
貴方達はまだ若い、まだまだ時間があります。
ゆっくり考えて、自分の進みたい道を考えてくださいね」
授業が終わると、教室のあちらこちらから将来の夢の話が聞こえてきました。
少年の友達の間でも警察、サラリーマン、教師など、さまざまな単語が行き交っています。
少年はその会話を遠くから聞くと、心の中でこう呟きました。
「権力の犬に社会の歯車、それに駄目人間の鏡か……どいつもこいつも、駄目な野郎達だ」
そして、少年は続いて自分の夢について考え出しました。
少子高齢化、ゆとり教育……色々なことが少年の頭の中を回ります。
その中で環境問題に強く惹かれた少年は、生涯環境問題に取り組むことを決意しました。
しかし、約二十秒将来設計を考えると、少年は自分には無理だと判断し妥協。
ゆっくりと次の授業の支度をはじめました。

三時間目、英語。
少年は考えます。
もちろん授業の最初に分けられた英語のプリントの文法問題についてでは無く、真の友達についてです。
「社会の歯車や、権力の犬なんかが夢の奴が俺の友達なわけない、それはあってはならない。
俺の真の友達は何所にいるんだ。やはりこちらから出向かなければならないのか?
くそ、俺にも不思議な能力があれば……。もしかして、俺の力はまだ目覚めていないだけなのか?
なら、その力はいつ目覚めるのだろうか。その力さえ目覚めれば俺の元に真の友達が……」
少年はしばらくぶつぶつと独り言を続けます。
授業が終わった後も、少年の独り言は続きましたが、結局結論にたどり着くことはできず
深いため息をつき、また次の機会に考えることにしました。

四時間目、物理の授業。教室に少年の姿は見えません。
教師は不思議に思って、生徒の一人に尋ねました。
「おい、そこの奴は何所に行った? 体の調子でも崩して保健室にでも行ったのか?」
尋ねられた生徒はすぐに、こう答えました。

31 :No.08 とある少年の一日 3/4 ◇h1izAZqUXM:07/12/02 17:58:50 ID:H6z91+uk
「なんか、さっき『俺は自由なんだ、鳥になるんだ!』とか言って、教室を出て行きました」
教師はあきれた顔を作り、生徒にお礼を言うと教科書に目を落とします。
「教科書の四十九ページ開いて……」
生徒達に背を向けると、何も問題がないかのように授業をはじめました。
少年の友達はため息をつき、この学校が本当に大丈夫かまじめに考えたくなりました。

昼休みをはさんで五時間目。
数学の教師は、宿題をやってこなかった少年一人を立たせ、尋ねました。
「どうしてお前は宿題をやってこなかったんだ?」
「因数分解なんて、将来役立たないからです」
その質問に、少年は表情一つ変えずにそう答えました。
その態度が気にいらなかったのか、教師は怒りだし廊下を突き刺しながら言いました。
「お前は授業を受ける資格が無い、出て行け!」
少年は机に両手を思いっきり叩きつけると、教師に面と向かって言います。
「こんな教師の授業、こっちから願い下げだ!!」
少年はワーワーと怒鳴る教師を無視し、どたどたと教室を出て行きました。

その日の放課後、当然の如く少年の両親が学校に呼ばれました。
少年も両親と一緒に、職員室でふんぞり返っていた教師に色々と謝ります。
少年は心にも無い謝罪をすると、両親と一緒に職員室を出ました。
その時、少年は両親に聞こえないように一言。
「大人は汚い」
と呟きました。

家に帰ると今度は家族会議が開かれます。
父親が少年に言いました。
「お前、先生に逆らうなんて何様のつもりなんだ。
家のご近所のほら、えーと、ほら、彼だよ、彼」
どうやら父親はその友達の名前が思い出せない様子。
母親も助け船を出してくれないので、仕方なく、そのまま続けます。

32 :No.08 とある少年の一日 4/4 ◇h1izAZqUXM:07/12/02 17:59:11 ID:H6z91+uk
「彼を少しは見習ったらどうなんだ? 彼は毎日家で勉強を八時間もするそうだぞ」
父親の言葉に、少年は強く反発します。
「僕は僕であって、他の誰でもないんだよ!」
それだけ言うと、少年は自分の部屋に駆け込み鍵を閉めました。
すると突然、少年は自分の鞄を開き、がさがさと荒らすと、次に机の中を探します。
しかし、探し物が見つからなかったのか、ベッドに倒れこみました。
「あぁ、一人旅にでも出るかな……」
と囁くも、資金不足を理由にまたもや妥協。
そのまま深い眠りへと落ちていきました。
こうして、今日も少年の一日は過ぎていきます。

大人になったとき、少年は若かりし日の自分を思い出し、苦笑いしながらこう呟くでことしょう。
「あの時の俺は病んでいたな」
と。

【完】



BACK−大人の階段見つける◆eUgG4Zi0dI  |  INDEXへ  |  NEXT−ムーンリバー◆AyeEO8H47E