【 曝け出してこそ友情 】
◆4FsjozWCuk




21 :No.06 曝け出してこそ友情 1/3 ◇4FsjozWCuk:07/12/02 16:37:44 ID:+ywVLGxZ
 井上は暇を持て余していた。
 実際は暇などではなく、学校から出された課題を消化しなければならないのだが、
どうも気が進まなく、当然課題も進まない。
 適当に傍に落ちてたCDを拾い上げる。
「なー藤尾、音楽でも──」
 井上は隣で一緒に課題をしていた友人の藤尾に声を掛けた。
 ……が、彼はいつの間にか隣から姿を消していた。
 代わりにベッドの上にはすっかりくつろぐ藤尾の姿があり、
更に無表情で本を読む彼の耳にはイヤホンが装着されている。
「……聞いてるんだ」
 直情径行な藤尾にはよくあることだ。
 聞こえていないのを良いことに、井上は小声で「野郎……」と呟く。
 あの余裕の態度からして、もう課題は終わったのだろう。
 同じ環境に育ちながら、ここまで頭の差が出てしまったのが不思議だ。
 藤尾のを写してやろうかと思ったが、ヤツは既に課題を自分の足元の鞄に避難させたようだ。
 セコいヤツめ、と井上は小声でまた呟いた。
 その藤尾の鞄から少し覗いているCDを見つけて、井上はため息を吐く。
 クールで頭も良く外見もそこそこ、一見完璧に見えるヤツだが、実際女子に殆どモテない。
(そりゃ、あんな曲堂々と聞いてたら……)
 CDには『もってけ!セーラーふく』の文字、そして可愛らしい女の子の絵が。
 藤尾はあの手のCDを何枚も持っている、所謂『アニオタ』だ。
 学校で何の躊躇いもなくあのCDを取り出し、
普通に『アニソン』を聞くのだから友人の井上は何とも気まずい。
 ちなみに藤尾が今読んでいる本も、ただの小説ではなく可愛らしい絵が表紙の『ラノベ』だ。
 この年代になると洋楽を聞いたり気取った趣味に走るのが通説だと聞いたが、
藤尾はどうもその路線からすっかり外れてしまったようだ。
 一方の井上はそれに漏れず、最近は洋楽のCDを買って意味も知らずに歌ったりしている。
 手にした洋楽CDを元の位置に置いて、井上は再びため息を吐いた。
「暇だなぁ……」
 ベッドにもたれかかって腕を大きく伸ばしながら、横目で藤尾のi-Podを確認する。

22 :No.06 曝け出してこそ友情 2/3 ◇4FsjozWCuk:07/12/02 16:38:18 ID:+ywVLGxZ
 まだ旧型で、買い換えないのか聞いたら、そんな金あったらCD買う、と無表情で返された。
 藤尾はラノベとアニソンに没頭していて傍らのi-Podを気にしていない。
 暇人な井上は、藤尾の邪魔をしてやろう──というより構ってもらおうとした。
 横目でヤツを気にしつつ、死角からゆっくりとi-Podに手を伸ばす。
 ベッドに振動を与えないようにi-Podを手に持って、そーっと、そーっと……。
 井上は音量ボタンを強く押した。
「ぅのわっ!!」
 案の定、藤尾は跳ね起きて耳のイヤホンとラノベを放り投げた。
 そのままベッドから落ちそうになる。
「ははっ!格好悪──」
 藤尾を指差して笑い飛ばそうとした井上だが、次の瞬間、自分の耳を疑った。
 i-Podに繋がるイヤホンから、聞き覚えのある曲が聞こえてきたのだ。
『……ar far wherever you are I believe that the heart does go on〜♪』
 これはつい先日、井上がTSUTAYAで何か見覚えある題だったから借りてみた、あの……。
「ま、『My Heart Will Go On』、だと……!?」
 藤尾は床に落ちたラノベを拾い上げて、頭を掻く。
「はっ……、バレたら仕方ないな」
 驚愕する井上の目の前で、藤尾は鞄から取り出したあのCDを開いた。
「な、これは……!!」
 井上は更に驚愕する。
 そのCDにはケースと同じ題は書かれておらず、こう記されていたのだ。
──『Let It Be』。
「ど、どういうことだ? 藤尾」
「……実は、な」
 遠い目をして、藤尾は答えた。
「俺も、お前と同じなんだよ」
「じゃあ、つまり……」
「あぁそうだ、洋楽、聞いてるんだ。……意味も分からず」
 なんということだ。
 今までアニオタだと思っていた藤尾も、実は通説から逸れていなかったと言うのだ。

23 :No.06 曝け出してこそ友情 3/3 ◇4FsjozWCuk:07/12/02 16:38:59 ID:+ywVLGxZ
「本当なのか?」
「当然だろ? ほら、これを見ろ」
 藤尾はラノベを差し出してそのカバーをめくってみせる。
「えっ!!」
 井上は慄いた。
「馬鹿な……! 『死者の学園祭』にラノベのカバーを、かけて……!?」
「そうだ、わざわざ同じ厚さのラノベを探してきてな」
 なんと巧妙な罠。
 ラノベのカバーの下が赤川次郎の『死者の学園祭』だなんて、誰が思うだろうか。
 藤尾は周囲を、友人である井上さえも欺いていたというのだ。
「知らなかった、藤尾が……」
「悪かったな、井上」
 その場に崩れ落ちた井上の肩に手を置いて、藤尾は俯く。
「ちなみに俺は母親のことは『ババア』って呼ぶし、『ジャンプ』じゃなくて『ヤンジャン』読むし、
 弾けないのにギター買ったし、コーヒーに砂糖は入れない」
「……お前、それ典型じゃんかよ……」
 うなだれる井上に、藤尾は右手を差し出した。
 見上げると、藤尾の目は優しく微笑んでいる。
「でも、こんなに自分を曝け出したのはお前が初めてだよ」
「……藤尾」
「俺たち、もう『親友』だよな」
 井上はしばらく目を見開いていたが、やがて笑みを零した。
 全てを理解し合える『親友』──藤尾とならなれるかもしれない、そんな気がする。
 差し出された藤尾の手を、井上は強く握り締めた。

「……ところで藤尾、何でそこまでしてその事隠そうとしたんだ?」
「だって……、なんか恥ずかしくない?」
──アニオタも十分恥ずかしいと思うぞ?
 そのツッコミは心の中に留めておこう、……せっかくの『親友』だし。
 しかし、井上がそのツッコミを胸中から解放する日は、そう遠くない。   終



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