【 「ミレニアム」 】
◆E9DH6CrGjo




12 :No.04 「ミレニアム」 1/4 ◇E9DH6CrGjo:07/12/02 16:29:57 ID:+ywVLGxZ
「これは、偶然というには、あまりにも都合が良すぎる。違いますか?」
 議長はそう言うと、周囲の応答を待った。あまりに突然のことに、周囲には量子のノイ
ズがあふれ、プロトコル通りの応答信号すらも帰って来ない状態だった。
「私も最初は驚きました。しかし、驚いている暇も残されてはいないのです。状況を整理
するために、データを編集しました。今から配信しますので、どうぞご確認ください」

 ――西暦三〇〇〇年。進化をあきらめた人類が、衰退する種族に身を落としていた頃、
人類は初めて地球外知的生命体と接触した。「それ」は一隻の宇宙船であり、円周率、水
素のスペクトルなど、知的生命体であることを示す電波信号を発信し続けていた。しかし
その正体、目的はともに不明であり、あらゆる交信の試みは無視された。
 接触から三〇日が経過した日、「それ」は突如として地球に攻撃を仕掛けた。最初に核。
続いて化学兵器と生物兵器。この攻撃によって地上の生物種は残らず絶滅し、また海中の
生態系も大きな打撃を受けた。
 もちろん人類もただ手をこまねいて見ていたわけではない。監視の目は常に「それ」に
向けられていたし、攻撃の第一波を察知したときには、あらゆる兵器が「それ」を攻撃す
る手はずになっていた。
 しかし、実際にはあらゆる兵器が無力化されていた。その原因は未だに不明であるが、
ジャミングによって遠隔操作も自立機動も不可能になっていたものと推測される。
 結局「それ」を倒したのは、偶然打ち上げられていた有人宇宙船だった。パイロットの
手動操作によって宇宙船が「それ」に体当たりし、一体となって大気圏内に落下した。な
お、「それ」はマリアナ海溝の奥深くに沈み、その残骸は回収されていない――

13 :No.04 「ミレニアム」 2/4 ◇E9DH6CrGjo:07/12/02 16:30:39 ID:+ywVLGxZ
「――その後、生き残った我々シリコン生命体が地上の覇者となったことは、今更言うま
 でもありませんが……あらためて見ると、符号の一致に驚愕せざるを得ない」
 もはやノイズさえも消え失せた静寂の中で、議長は続けた。
「世界の滅亡。核、化学兵器、生物兵器。最後の有人宇宙船は、可変型だったそうです」
「待ってください、議長」
 発言の主は、まだ若いシステムだった。
「そもそも何故、今頃になって、こんな資料が発掘されたのですか?」
「……ミレニアムプロジェクト。聞いたことはありますね?」
 ミレニアムプロジェクト。あの事件から一千年の節目に、あらためて人類の遺したもの
を調査し、まとめるという一大事業である。発掘されたまま資料価値がないものとして収
蔵されていた、個人のノートや手紙に至るまで、あらゆるものを対象として原子レベルの
精査を行っている中で、その資料は見つけられた。
「僅かな炭素の痕跡。その中にひっそりと隠れていたのです。一千年という符号もまた、
 不思議な合致を見せています。そして何より……」
 議長が言いよどむのは珍しいことではなかったが、普段にもまして長い空白の時間は、
事態の重大さを示していた。
「……この資料を作ったその人、ムラノ氏は、生きているのです」
 ふたたび、どよめきが起こった。今度はノイズというレベルではなく、プロトコルさえ
も無視した生の感情データが回線を埋め尽くしていた。
「これはごく一部のシステムのみが知らされていたことですから、皆さんが驚くのも無理
 はありません。人類の大半は滅亡しましたが、生き延びたものもいたのです。地中深く、
 冷凍睡眠という形で」
 特権システムのみが持つ強制介入モードで、議長は続けた。
「なぜ、彼が冷凍睡眠をしていたのか、その理由については明らかになっていません。し
 かし重要なことは、私たちの純朴なる祖先が、か弱い一人の命を、一千年にわたって守
 り続けたという事実なのです」
 ここで議長の声はプツリと切れ、リアルタイムのカメラ映像が回線を走った。

14 :No.04 「ミレニアム」 3/4 ◇E9DH6CrGjo:07/12/02 16:31:21 ID:+ywVLGxZ
 中央に映っているのは白い大きな円筒、冷凍カプセルである。それを取り囲むように、
三体のアンドロイドが作業をしていた。目覚めた時の心理的負担を軽減するため、意図的
に旧式、一千年前のモデルの外観を模している。
「脈拍値上昇。代謝活性正常レベル」
「脳波モニタ、覚醒状態への移行を確認」
 口頭での報告も、一千年前のやり方だ。大丈夫、問題はない。ひと呼吸置いてから、最
後のスイッチが押された。
「村井さん、朝です。起きてください……」
 カプセルの蓋は音もなく開き、村井は一千年ぶりの光に目を細めた。といっても、彼自
身にはどれほどの時間が経過したかの自覚はないのだが。
「おはよう。今は……何年だい?」
「目覚めたばかりの時はもっと意識が混濁するものなのですが……さすがですね。聞いて
 驚かないでくださいよ?」
 村井は頷こうとして、体が動かないことに気づいた。そう言えばカプセルに入る前に、
そんなことを言われたっけ――そう思いながら、ああ、と返事をする。
「西暦、三九九九年です。一千年ぶりのお目覚めはどんな気分ですか?」
「うん、まあ、もう少し経ってるかと思ったけど……腹が減ったな。何かあるかい?」
「えーと、コーンスープでよろしければ」
 うん、それでいいよ、と返事をする前に、ストローが口元まで運ばれる。スープが喉を
降りていく感触に、村井はあらためて、生き返ったことを実感した。
「それでですね、目覚めたばっかりですみませんが、ちょっと見てもらいたいものが……」
 そう言ったアンドロイドの手には、どこか懐かしい、見覚えのあるノートが抱えられて
いた。もちろんこれは復元されたものだが、村井にはそんなことを知る由もない。
「どれどれ、見せてみな。うん、腕も動くようになったし」
 腕をのばしてノートを受け取った瞬間、村井の脳裏に様々な情景が浮かんだ。それは二
度と思い出したくない、闇に葬ったはずの記憶――
「ここ。このページなんですけど」
「やめてくれ、見たくない! どこからこんなものを引っ張り出してきた! やめろ!」
 慌てふためく村井の姿に、アンドロイドたちは顔を見合わせた。

15 :No.04 「ミレニアム」 4/4 ◇E9DH6CrGjo:07/12/02 16:32:05 ID:+ywVLGxZ
 彼らは知らない。そのノートには、一片の真実も含まれていないことを。そして、その
ノートが村井にとってどんな意味を持つのかを。彼らは純粋に、知らないだけなのだ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【魔王ギレムガレム】
1000年前に世界を滅亡させた魔王。
勇者によって封印されたが1000年の時をこえて復活する。
パワーアップしている。
[地獄の灼熱]すさまじい炎であらゆるものを焼きつくす
[屍の下僕]人を生きたまま喰らい、腐らせていく
[禁断のアシッド]どんな武器やヨロイでも溶かしてしまう

【勇者アラムハルド】
1000年前に魔王を封じた勇者。滅亡したパジャニ族の生きのこり。
魔王を封じるときに力を使いはたして自分も死んだ。

【聖剣セイントシルバー】
勇者だけが持つことのできる伝説の剣。
「想い」をこめることでどんな姿にも形を変え、
その力は想いの強さに比例する。

【予言者ムラノ=俺】
予言者。
異世界の住人であり、その世界で眠りにつくと、この世界でのムラノが目ざめる。
どちらも現実であるが、起きている時はもう一方の世界を「夢」だと考えている。
二つの世界の流れは無関係で、未来のことを先に「夢」で見るため、
「未来のことを覚えている」ことがある。これが予言者とよばれる理由。
                                       【了】



BACK−潜む陰の下で◆ecJGKb18io  |  INDEXへ  |  NEXT−平成維新の聖夜◆D8MoDpzBRE