【 サルスベリ(空想) 】
◆Ac4gAnQEkA




12 :No.04 サルスベリ(空想) 1/3 ◇Ac4gAnQEkA :07/11/24 13:33:32 ID:RLLbD/Rj
サルスベリ

ジリジリと照りつける太陽に僕の体は少しでも抵抗することができるのだろうか?

道を行く少年は真っ黒になりながら蝉を追い回している。

ガタリと音のした方を見ると喜美枝がちょうど部屋にはいってくるところだった。彼女は少し前から僕の元に通ってくれる数少ない友人だ。

「孝夫さん。今日も暑いわね」
そういってニコリと笑う喜美枝のワンピースは彼女の表情をそのまま映し出しかのようにフワリとたなびいた。
「あぁ。知ってるよ。だから、こうしててエアコンの効いた部屋にいるんだ。文明って関心しちゃうよな」
「……そういうの、世間じゃ引きこもりって言うのよ」
「知ってるさ。でも無理に外に出る必要もないよ。こうして、部屋の中で本を読むことは人生を豊かにするのに役立つ。
もちろん外を眺めているだけだって学ぶ事は多いんだからね」
「そうはいっても、外に出ないと学べない事も多いわ。ここから見える景色なんて限られたものだもの」
「限られたものから多くを想像すればいいのさ。まぁ、そのうち気が向いたら外出ることもあるよ」

僕は、話を無理やり終わらせて持っている本に目をおとした。喜美枝もしばらくふくれっ面をしていたが、
そのうちまた、たわいもない世間話を始めた。

これが僕の日常。変わりばえしないかわりに、壊れることなく続く幸せな日常。

13 :No.04 サルスベリ(空想) 2/3 ◇Ac4gAnQEkA :07/11/24 13:34:00 ID:RLLbD/Rj
「だから!! 早く外に出てって言ってるじゃない!」
喜美枝の怒号に僕の体はビクリと反応した。
「毎日毎日毎日毎日毎日毎日……毎日毎日外に出てって言ってるのに! なんででないのよ!!」

「ど、、どうしたんだよ……喜美枝、そんな大きな声をだして君らしくもない」
僕の言葉に喜美枝は信じられないというように目を丸くしたかと思うと、僕を再び睨みつけた。
「どうして? あなたには、わからないわけ? なんで私が怒ってるのかもわからない? 本当、駄目な人」
吐き捨てるように喜美枝の言葉はつづく。
「きっと私が言うことなんて何も聞いていないんでしょうね。私の話の意味なんて何にもわかってないんでしょう?
 馬鹿みたい。あなたじゃなくてね。毎日何も聞いてない駄目な孝夫さんにダラダラ話しかけてきた私が馬鹿みたいよ」
そういって、飽きる事なく僕を睨みつづける。僕はといえば、落ち着いたものである。
怒鳴られた時の一瞬の驚きはあったものの、聞き流す準備なんてものはすぐに出来るものだ。
少しの間、相槌でも打っていれば何時もの喜美枝に戻るだろうとタカをくくっていたせいもある。
僕は、ぼんやりと喜美枝を見つめた。
そんな態度が気に入らないのか喜美枝は、延々と僕を罵る言葉を吐き出し続けている。
さすがにウンザリした僕は大きくため息をついてから喜美枝の言葉を遮ることにした。

「……いい加減にしてくれよ。喜美枝。いいかい、君の言うことに意味なんてないだろう。そうだ意味なんてないはずだ、だって君は」
「嫌! やめて! 聞きたくない!!」
はっとしたように喜美枝が慌てて叫びだす。ヤレヤレ、と外国人よろしく両手を上げてポーズをとってから、僕は魔法の言葉を口にする。


「──君は、僕の空想なんだから…‥」

僕の部屋に静粛が戻ってくる。僕の愛した静粛。でも時折ちょっと寂しいから僕は喜美枝を作った。可愛い僕好みの、僕だけの喜美枝を。

その喜美枝はもういない。僕が喜美枝の存在を否定したのだから。

14 :No.04 サルスベリ(空想) 3/3 ◇Ac4gAnQEkA :07/11/24 13:34:26 ID:RLLbD/Rj
「……少し外にでてみようかな」
そう思いついたのはあの出来事からしばらく経ってからだった。
久しぶりに歩く外の風は以前とは変わり、幾分かの寒さを携えていた。

あれ以来、喜美枝は僕の前に現れることはない。寂しいなと思うこともあるけれど大した事でもない。
元々あるはずのないものを僕の頭が正しく"ない"と認識しただけの事なのだから。

「こんな所にサルスベリなんてあったっけか。……確かに喜美枝の言った通り部屋から出ないと学べないこともあるな」

そう誰に言うでもなく嘆きながらみるサルスベリの花は、季節を終えたせいかほとんどが地面へと落ちていた。

そのうちの一つを拾い上げると、秋の風に少しだけ揺れた花をみて、

僕はふと、喜美枝が笑った時に美しくたなびいていた白いワンピースの裾を思い出した。

サルスベリ 了



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