【 カンブリア紀からの別れ 】
◆aDTWOZfD3M




124 名前:No.30 カンブリア紀からの別れ 1/3 ◇aDTWOZfD3M[] 投稿日:07/11/18(日) 23:53:47 ID:RlCAmG+9
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10 100 1000 10000
2 3 5 7 11 13 17 19 23 29 31 37 41 43 47 53 59 61 67 71 73 79 83 89 97(訳者注1 解読の結果、100までの素数が記載されていることが判明。下記の円周率と合わせ、全文解読への大きな足掛かりとなった)
3.14159265358979323846264338327950288…(注2 原文では円周率が一万桁まで記されていたが、ここでは省略する)

ABCDEFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZ(注3 「アルファベット」と呼ばれる文字。文書本文はこの文字によって表記されていた)
abcdefghijklmnopqrstuvwxyz

ΑΒΓΔΕΖΗΘΙΚΛΜΝΞΟΠΡΣΤΥΦΧΨΩ
αβγδεζηθικλμνξοπρστυφχψω

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(注4 原文では以下、数十種類の文字が記載されていたが、ここでは省略する)

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(注5 ここからがこの文章の本文である)

『この手紙は、地球が誕生してから約四十億年が経過した時代より、存在しているかわからない後世の人々と、生まれているかわからない私の家族へ送る遺書です。
まずは、かいつまんで、私たちの現在の状況を説明します。
私達は、航時機に乗って、地球が誕生してから約四十六億年が経過した時代、西暦(注6 この文書を書き残した人物が使っていた記年法)2601年から、この時代の地球について調査に来た学術調査団で、団長以下50名より構成されていました。
私達のもといた時代では、航時機を利用して過去の時代へさかのぼる技術が確立されており、数度にわたって、私達と同じような調査団が過去へと派遣されています。
しかし、今回私達は、その時間旅行の途上で事故にあい、元に時代への帰還が不可能となったのです。
その事故はまさに悲劇でした。
時間移動においては、一度宇宙空間など真空状態の地点に転移し、それから目的地へ移動します。何らかの物質が存在する座標に転移した場合に生ずる、物質存在の重複を回避するためです。今回も、私達は一度地球近傍の宇宙空間へ転移しました。
しかし今回の事故では、この時代の宇宙空間へと転移した途端、乗っていた航時機の一部で爆発が生じたのです。おそらく、微小な星間物質が存在する座標に転移してしまったのが原因でしょう。
その結果、制御を失った機体は重力に引かれて地表へと激突。この時、仲間の過半数が帰らぬ人となりました。

125 名前:No.30 カンブリア紀からの別れ 2/3 ◇aDTWOZfD3M[] 投稿日:07/11/18(日) 23:54:12 ID:RlCAmG+9
残った我々も、元の時代への自力での帰還は不可能でした。航時機の損傷は、自前の機材と資材で補修が可能なレベルを超えており、特に素粒子制御系の回復は絶望的だったのです。
そして事故から一か月が経った今日、ついに団長が帰還の断念を決定。私達は、私達がこの時代に存在することにより生ずるタイム・パラドックスを未然に防ぐため、すべての痕跡の抹消が指示されました。
航時機をはじめとする、持ち込まれたオーパーツの分解処分。墜落時に生じた影響の修復。
そして、その総仕上げとしての、調査団残存人員全員の自決です。

そのことは事前に充分説明されていましたし、納得してもいました。万が一の時には、歴史に与える影響を最小限にするため、過去において僅かばかりの痕跡も残すことは許されません。
もし痕跡が残れば、バタフライ・エフェクトにより、その僅かばかりの影響は時間とともに加速度的に拡大し、いずれは大規模な歴史の改編につながりかねないのですから。
それゆえ調査団には当初から、仮に事故によって過去に取り残されたとして、一定期間内に救援が来なければ、痕跡を消去した上で全員が自決することが団則として定められていました。全ては規定の決定ですし、我らはそのリスクを承知で調査団への参加を志願したのです。
科学者としての、知識への欲求から志願した私です。同様に科学者として、時間遡航のリスクくらい当然承知しています。その点については、他の仲間たちも同様でしょう。
全員が団長の決断を受け入れ、現在作業はほぼ完了し、唯一残すことが許された遺書の作成と自決が、団員に課せられた最後の任務です。

けれど、正直に言うと、やはり怖くてたまりません。同じ未知の領域でも、過去の世界へ行くのと死後の世界へ逝くのとで、こんなにも必要とされる覚悟の量が違うなんて、今まで考えもしなかった。
あの事故が起きてからでさえ、それはどこか遠くの世界のことのようで、こうして残された時間があとわずかとなるまで、現実味のある事実として感じることはありませんでした。いや、もしかしたら、私の心が現実を認めることを、無意識に拒否していたのかもしれません。
しかし、今ここで私が生きながらえれば、歴史の流れに大きな影響を及ぼしかねず、その結果私の家族も含めた人類の存在が消えかねないこと。
さらに言えば、最悪の場合、タイム・パラドックスによって全宇宙が危機にさらされかねない(タイム・パラドックスについて、その影響を予測することは不可能です)ことを考えれば、それは私にとっては義務なのでしょう。

いよいよ、残り時間が少なくなってきました。この遺書も早く書きあげねばなりません。

まず、人類の皆様には、「ごめんなさい」と言っておきます。私達のせいで、だいぶ迷惑をかけることになってしまうでしょう。そして私の大切な家族には、「ごめんなさい」と一緒に「愛しています」と。
本当はもっといろいろ伝えたいことがあるのですが、残り少ない時間と私のつたない文章では、上手く伝えられそうにありません。
あと、私の持っていた僅かばかりの財産は、半分を家族に、残りは慈善団体にでも寄付しておいてください。
それから、これを読んだ後世の皆さんには、是非とも時間転移は控えて頂きたいと思います。このような悲劇を繰り返してほしくないのです。やるとすれば、私達よりももっと技術が進歩した時代にやって欲しい。
できれば私自身にも控えてもらいたいところですが、私がこの時間でこうして文章を書いているということは、それは叶わぬ願いということでしょう。

大体これで終わりでしょうか。あとは、この遺書に封をして、みんなと一緒に保管用容器に入れて、地下深くに埋め込むだけです。
本来なら、こういったものを残すのも良くはないのですが、人間として、遺書ぐらいは自分の存在したあかしを残しておきたいとも思います。たぶん、神様も、この程度ならお目こぼし下さるでしょう。埋設に際しては、細心の注意を払うつもりです。
それから、もしこれを掘り出した人が、私達の知る人類ではないとか、あるいは文字が私達の知っているものとは違ってしまったという時のために、冒頭に数字と、私達の知る限りの文字を並べておきました。
同封する辞書データと照らし合わせれば、知的生命体が掘り出してくれさえすれば、この文章の意味を知ることができるでしょう。(この文章を読んでいるということは、読める人が掘り出したか、あるいは解読が成功したのでしょうか?)。
いいわけはこれくらいにして、そろそろ終わりにしようかと思います。

126 名前:No.30 カンブリア紀からの別れ 3/3 ◇aDTWOZfD3M[] 投稿日:07/11/18(日) 23:54:52 ID:RlCAmG+9
最後に、科学者としてこれを書いておかずにはいられないのですが、やはり歴史の改編が起こってしまったのは間違いないと思います。
もしそれが起こっていないとすれば、事故が起こってすぐに救援が来ていなければおかしいからです。航時機さえあれば、任意の時間に救援に行くことが可能なのですから。
やはり、六億年という時間とバタフライ・エフェクトは、私達が消しそこなったごくわずかの影響を、見逃してはくれなかったのでしょう。
しかしそうすると、私達がここにいること自体が不自然になります。そこまで大規模な改編が起こっている場合、私達が過去へ転移するという事象は起こり得ないでしょう。
もしかしたらパラレルワールド等で説明がつくのかもしれませんが、そのあたりについてはいまのところ、不可知の部分と言わざるを得ません。
この文章が、その謎を解明する一助となれば幸いです。

それではいよいよ、この辺で本当に終わりにしておきます。
皆さんお幸せに。

存在しているかわからない人類と、生まれているかわからない家族へ愛をこめて。
   不詳の息子          より。(注6 この部分は不自然に空白。おそらく文書を書いた人物の個人名が書かれていたと思われるが、なぜ消えてしまったかは今もって謎である) 』



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