【 弱いねずみと強いネコ 】
◆RkTVkaaWwA




108 名前:No.26 弱いねずみと強いネコ 1/3 ◇RkTVkaaWwA[] 投稿日:07/11/18(日) 23:07:04 ID:5ZFrgs85
「被告人小さなねずみは、まったくもって馬鹿なことに我々ネコに追い詰められております。
この状況はネコがねずみに対するルール'第十九条'に該当します」
 たった今作られたであろう起訴状を高らかに読み上げたのは白いネコであった。
 被告人と呼ばれた小さなねずみは、背後にいる灰色の若いネコに踏み付けられて身動きがとれない
ようだ。現状を理解しようと唯一動く首を回している。ただ、白いネコの言語が理解出来ないのか、
彼の言ったことには無関心のようだ。
 小さなねずみの前には二匹のネコが偉そうにふんぞり返っていた。片方は先ほどの白いネコ、
こちらはどうやら検察官。そしてもう片方の毛並みの黒いネコは裁判官らしい。

 お互いに言語の壁があることを理解しつつも、黒い裁判官ネコは言った。
「さて、まず被告人の君には黙秘権があることだけでも伝えておこう。理解は出来ているかね?」
 言葉の理解など含めなくとも、拘束をされ二匹のネコに睨まれることは抵抗の意思を削ぐには
充分であった。事実、ねずみの動きが止まった。
 黒い裁判官ネコはその態度を理解したと判断し、笑みと共に軽く甘いため息をついた。
 裁判官ネコの視線を合図に裁判進行を促すと、隣りにいた検察官ネコは口元をニヤニヤ緩ませながら
冒頭陳述にはいった。

「被告人小さなねずみは本日午前未明、我らの縄張りを荒した上で愚かなことにも逃走を謀るが、
結果それを阻止され今に至ります。本人に反省の色は無く、厳重なる処罰が必要だと思われます」
 検察官ネコは嘘を誠と言い張る立派な仕事を終え満足気な顔をした。
 ネコの言語がわからないねずみは、身を出来るだけ縮こまらせて彼らを刺激しないようにじっと
しているだけだった。
 そんな白ネコとねずみを確認した裁判官ネコは口をひらいた。
「よろしい。それでは、それらに異を唱える弁護人の発言を許す」

109 名前:No.26 弱いねずみと強いネコ 2/3 ◇RkTVkaaWwA[] 投稿日:07/11/18(日) 23:07:35 ID:5ZFrgs85
 呼ばれて顔を上げたのは灰色毛並みの若い弁護人ネコ。体はやせ細っており、黒や白のネコとは
どこか雰囲気が違って見える。
 先ほどからねずみを拘束していたこの灰ネコであった。踏み続けている片足から伝わってくる
ねずみの悲鳴が彼を寂しい思いにさせていることに彼本人も気付いていなかった。
 被告人の弁護を許された灰ネコだったが、本来身分の低いこのネコに大した発言権などはなく、
たどたどしく小さな声で異論や弁護は無いとだけ言うだけであった。


 裁判官ネコは瞬きを合図に裁判の進行を促すと、今度は黒ネコも検察官ネコと一緒にニヤニヤと
口元を歪ませながら論告求刑に移ろうとした。
 ……が、その時、二匹のネコのイヤらしい笑みに命の危険を感じたのか、ねずみはいきなり暴れ出し、
灰ネコの手から逃げ出そうと抵抗を始めた。
 ねずみを拘束していた灰ネコ自身も、ピクリとも動いていなかったねずみに油断をしていてねずみを
逃がしてしまいそうになっていた。もしここでねずみを逃がしてしまえば酷い扱いを受けることは
想像が出来た。彼らの邪魔をしてはならない。灰ネコは両の前足を器用に使い、必死にねずみをおさえこんだ。

110 名前:No.26 弱いねずみと強いネコ 3/3 ◇RkTVkaaWwA[] 投稿日:07/11/18(日) 23:08:00 ID:5ZFrgs85




「えー。ワタクシ検察官が思いますに、被告人小さなねずみは先ほどからの行動から、醜いことに命が
惜しいことが見てとれます。さらに本裁判中においても誠意や謝罪の姿勢を最後まで見せませんでした。
厳罰なる刑を要求します」

 検察官ネコは一仕事を終え疲れているのか肩を上下に揺らしていた。

「うむ。何か言うことはないかね被告人?」

裁判官ネコは爪先でつまんだねずみを高々と上げ、聞いた。当然返ってくるこたえはただ暴れるという
完全黙秘だけである。

「さて弁護人、何か言うことは?」
 黒ネコはその場に居ないネコに声をかけた。
「裁判官、弁護人は不在です」
「そうだった、不在か。では判決を言い渡す」


 小さなねずみは自分の未来を否定しようと懲りずに暴れていた。
 ねずみを踏みおさえていた弁護人、細い灰色ネコは、ただ横たわり被告人の抵抗の様を眺めていた。

「判決は――――――」



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