【 ぼくたちは 】
◆CYR3fna/uw




98 名前:No.24 ぼくたちは 1/5 ◇CYR3fna/uw[] 投稿日:07/11/18(日) 22:28:39 ID:RlCAmG+9
 一人の少年と僕達は一昨日知り合った。
祖父の家に遊びに行った時、仲良くなった少年である。
自然に囲まれた村で生まれたからなのか、水切りやチャンバラが桁違いに強く、運動神経抜群だったイトコも勝てないほどである。
そして今日も、
「かぁー、ほんと強ぇーなお前、戦闘力どんくらいだよ」
「どのくらいわからないけど、まぁ君よりは強いかな」
 挑発に乗り頭に血を上らせたイトコが思い切り棒切れを振るうがそれを少年は巧みにかわす。
「多分また負けるだろうな」
 それを少し離れたところで眺めていた。
「お前も眺めてないで援護しろ、勝ったら後で俺のスイカ半分やる」
「わかったよ」
 僕は腰を上げて少年に立ち向かう。
2対1で僕らの方が有利だと思っていたが結局は変わらずじまい、あっさり負けてしまった。
「お前本当に強いな、鬼ごっこでも缶蹴りでも一番強いし。まぁいつかは俺が勝つけどな」
「多分勝つのはぼくだけど、君が大人になるまで待っていてあげるよ」
 地面に突っ伏している僕らを棒でつつきながら少年が言う。
イトコが立ち上がりながら横に斬りつけるが、それをひょいと後方に飛んでかわす。
「そろそろスイカのでる時間になるよ」
 腕時計の針を見ながら僕は立ち上がる。
くそ、とイトコは悪態をついた後、埃を払い落として棒切れを腰に差す。
今日は3時ごろにスイカを出すと言っていたからここらで切り上げればちょうどいい時間に祖父の家に着く。
 少年も連れて行こうとしたがまた首を横に降る。
少年は何故か祖父の家に行くのを嫌がっていたが今日はイトコがその手を強く掴んで、
「勝った奴になにかおまけがつくのはとうぜんだろ」
 イトコの強引に少年を連れて行こうとした。
 なおも少年は嫌がったが、ああなるとテコでも動かないと教えると渋々ついてきてくれた。
途中雑談をしながら道を歩くが祖父の家が近づくにつれて少年は無口になる。
少し気になったが始めていくほかの人の家は緊張するものだからだろうと僕は思った。
「おばさーん、スイカまだー?」
 イトコが門をくぐるなり縁側にいた僕の母親を見つけスイカの有無を聞く。

99 名前:No.24 ぼくたちは 2/5 ◇CYR3fna/uw[] 投稿日:07/11/18(日) 22:29:03 ID:RlCAmG+9
「はいはい、ちゃんとありますよ」
「いいかい、一人一切れだからね」
 奥の居間からイトコの母親がスイカをお盆に乗せて持ってきた。
それを縁側に置くなりイトコがひょいひょいとすばやく3人分3切れを持つ。
するとその手をぴしゃり、とイトコの母親が打つ。
「この食いしん坊は、一人一切れって言ったのが聞こえなかったのかい」
 1切れ没収されてしまった。
「おばさん、ちゃんと見てよ3人いるじゃん」
「そうだよ! ばばぁ」
「……」
 僕らは一斉に非難の声をあげるがイトコの母親は聞く耳を持たず。
「そんな手にのりませんからね。第一ほら」
 まずイトコを指差して、イトコと僕の間にいる少年を飛ばし、僕を指差した。
少年はうつむくが、それを見ることなくイトコの母親はイトコに顔を向けて、
「ほら、3人じゃない。それと母親に向かってばばぁはないでしょ!」
 ゴツン、とイトコの頭にげんこつを食らわし縁側に3切れスイカを残して祖父たちの方へ持っていく。
僕は抗議の目を母親に向けるが、母親はそれよりも強い目を向ける。
「欲しいからって嘘をついたらいけないわよ、あなた達」
 そう言ったきり取り合ってくれなかった。
イトコは負けじと縁側から家に入って奥の方にいった。
が結局はたんこぶを一つ増やして戻ってきた。
「ったくあのばばぁは頑固だからな、でもお前のかあちゃんまであんなこと言うとはな」
 3人で縁側に座る。
スイカに手をつけずぼけーっと3人で座っていたが少年が縁側からはなれて帰ろうとする。
それをイトコが引き止めて、持っていたスイカを割る。
うまく半分に割れなかったが大きい方を少年にあげた。
「悪いなうちのばばぁのせいでなんか嫌な思いさせてさ。ほら、これはお前の分」
 それを見て僕も持っていたスイカを半分に分けてさしだす。
「これは僕のお母さんが失礼なことを言ったお詫び。普段はあんなこといわないのに」
 気にしなくていいよ、そう言って僕らのスイカを受け取った。

100 名前:No.24 ぼくたちは 3/5 ◇CYR3fna/uw[] 投稿日:07/11/18(日) 22:29:26 ID:RlCAmG+9
「しかしなんでばばぁはお前を無視したんだ? わけわかんねぇな」
 昨日遊んだ川で水切りをしながらもイトコは愚痴っていた。
「大人になったらきっとわかるよ」
 少年はぼそりと独り言のように小さく口に出した。
イトコはそれに気づくことはなく投げてはくそ、またかと文句を言う。
ただ僕には聞こえたので何でと聞いてみたかったが少年の顔を見てやめた。
少年が悲しい顔をしていたからだ。
 それからただ黙々と石を水面に投げる。
少年はいつもより切れが悪かったが、それでも一番多く水面を跳ねた。
「くっそぉ、今日も勝てなかったか。まぁいい明日勝ってやる」
「多分無理だと思うよ、そんな力任せじゃね。それじゃまた明日。それとスイカおいしかったよ」
 少年はいつもの調子に戻って家へと帰っていった。
イトコはその背中が見えなくなるまで大声で負け惜しみをいい続ける。
姿が見えなくなってようやく僕らも家路へとついた。
 その次の日も僕らは3人で遊び続け、小学校の6年生になる時まで毎年続いた。
そして6年生の最後の別れる時だった。
「結局小学生では勝てなかったか。だが次合う時は中学生にパワーアップして帰ってくる」
 3人並んで夕日を背に受けながら、イトコは言いなれた負け惜しみを言う。
それに対して少年は笑顔を見せながら言った。
「たぶん次はないよ。もう会えないと思うから」
 えっ、と僕らは驚いて聞き返した。
もう合えない、そう少年はもう一度言った。
 不満をイトコは言うが言った所で変わりはしない、だから僕は聞く。
「でもいつかは会えるよね」
 少年は振り返って沈む夕日を見ながら答える。
「多分、君たちが覚えてくれていたらね。もう日が沈むな。それじゃここで」
 分かれ道で僕らとは違う方に歩いていく。
少年は何度も振り返って手を振る。
それに負けじと僕らも千切れんばかりに手を振る。

101 名前:No.24 ぼくたちは 4/5 ◇CYR3fna/uw[] 投稿日:07/11/18(日) 22:30:20 ID:RlCAmG+9
 姿が見えなくなって帰り道を歩いている途中、僕は振り返った。
もちろん姿はない、数歩歩いてまた振り返る。
前からイトコがなんか叫んでいるがそれでも僕は振り返ったままだった。
なぜか、少年の言うように本当に会えなくなってしまう気がした。
 翌年祖父の家に行った時、本当に少年には会えず、毎日遊んでいたところで待っていたが結局会えることなかった。
そして大人になって忙しくなるにつれ僕らは少年のことを忘れた。
「ふぅ、エアコンないと結構つらいな。しかしこの俺が子供に振り回されるとは」
 イトコが汗だくになった姿で台所に飲み物を取りにやってきた。
 今、僕とイトコはお互いの親と家族を連れて祖父の五回忌のために祖父の家にいる。
20年以上たってもここの村は昔と差して変わらない。
イトコはそれがいいらしく30過ぎたおっさんが子供達にまぎれてはしゃぎ遊んでいる。
「昔とは違うだろ、いつまでも若くないんだからさ、僕らは」
「なぁに、まだまだいけるさ、第一まだ30代だぜ? 後10年は現役でいたい」
 そう言いながらも椅子に座る時に声を出しながら腰を下ろす、それが親父くさく僕は苦笑する。
その時庭の方から何か騒ぎ声が聞こえてきた。
どちらともなく庭に向かう。
 縁側に出ればなにやら妻と息子が言い争いをしている。
「どうしたんだ?」
 声をかけると息子がイトコの息子の横を指差して
「お母さんがあの子の分のスイカをだしてくれないんだよ」
「なにがあの子の分、よ。さっきから誰もいないじゃない。あなたからもなんとかいってください、よ?」
 僕とイトコはぽかーんとした顔でお互い顔を見合わせる。
二人とも思い出したのだろう、昔大人に同じやり取りをしたことを。
この祖父の家の村で遊んでいた少年のことを。
「で、3人分でいいのかい?」
 子供達に尋ねると2人とも頷く。
「じゃあ、僕の分を上げるから3人で仲良く分けなさい」

102 名前:No.24 ぼくたちは 5/5 ◇CYR3fna/uw[] 投稿日:07/11/18(日) 22:30:42 ID:RlCAmG+9
 妻は子供に甘いんだからとわざと聞こえるように呟いて3人分子供達に渡す。
それを見ていたイトコが自分の分も渡して。
「俺の分はチャンバラで勝った奴にくれてやれ。勝った奴になにかオマケがつくのは当然だろ? で誰が勝ったんだ?」
 庭をイトコは見渡す。
何度見ても子供達の数は2人だ。
そんな中子供達はイトコの息子の隣を指差す。
そこには誰もいない。
でもそこに誰かいるのを僕らは知っている。
 子供達が手を振って庭から出て行く。
妻はいつのまにかにいなくなっており、縁側には僕らが残された。
「あいつ、まだガキのまんまなんだな」
「でも元気そうじゃないか」
 見えないけどなんとなく分かる。
素足のまま庭に出て僕は大きく伸びをする。
きっともう見えはしないけど会う事はできた。
目を閉じればあの頃の記憶が呼び起こされる。
覚えていればきっと会える、少年の言ったとおりだ。
 草を踏む音が聞こえ、目を開けると隣にイトコが立っていた。
「結局あいつには一回も勝てずに終わったんだっけな」
「そうだな」
「まぁ、いいさ。俺達の子供達が仇を取ってくれるよ」
「それでも無理だったら孫達かな?」
 お互い笑いながらただあの頃へと思い馳せていた。



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