【 小説 】
◆6u2UGDNNbA




66 名前:No.16 小説 1/4 ◇6u2UGDNNbA[] 投稿日:07/11/18(日) 16:37:59 ID:RlCAmG+9
「俺の文章のいったいどこが稚拙なんだよっ」
印刷した紙を握りしめて俺は言う。
「全部ね。もうだるだるで見る気にもならないわ」
杏はそう宣った。
そもそも杏に俺の小説を見せたのが間違いだった、俺は深く反省する。
そうだ。コイツのような文学の「b」の字も知らないようなケータイ小説世代の女子高生に見せたのが……
「あがががが」
「今、すごく失礼なこと考えたでしょ」
俺の頬をつねりながら、いてて、杏が言う。
「じゃあ具体的に指摘するわ。まずね……」
長い黒髪を手で払う杏。ふんぞり返ってやがる。
「書き出しから終わってるわ。なによ、雪国をパクろうとでもしたの?
『彼女のスカートを捲るとそこはお花畑だった』って」
彼女の細い手でつまんでいるのは一冊の、本?
「そんなの一言も書いて、って俺の本返せっ」
どさくさに紛れてベッド下にあった、俺の“パラダイムコレクション”に触ってやがる。
「まったく、なんでこんなにエッチなのかしら。あんたは」
ベッド上にそれを放り投げて杏が言う。
「じゃあ真剣にいくわよ。まず書き出しの『ある男が新エネルギーの開発に成功した…』から全然駄目。
こう書き換えなさい。『ある高校に白河杏という超美少女、体型はパリコレクラスで、
一見しただけで人の心を掴んで放さず才色兼備で裁縫料理にも優れ、勉強では常に学年一位……」

67 名前:No.16 小説 2/4 ◇6u2UGDNNbA[] 投稿日:07/11/18(日) 16:38:19 ID:RlCAmG+9
「くかーくかー」
「って寝るなっ!!」
スパーン。
いたああああ。
スリッパを持ったまま杏は言う。
「とにかく、要は白河杏は世界一の美貌持った…」
「わかった。わかった。なになに、白河杏は世界中で起こっている公害の総称で…」
スパーン。
「ちがーう!!」
「いってええええ……。じゃあ白河杏は騒音の単位のことで……」
すぱーん。
あたあああああ。
「ばかああああああ」
畜生。スリッパは痛いな。
なんて考えていると
ピンポーン、チャイムが鳴った。
「あれ?誰だろう」
俺のアパートに来る奴っていったら、隣人のコイツとまあ新聞勧誘宗教勧誘……もいるけど一体誰だ。
考えていても答えが出ないので俺は玄関に向かった。
「はーい」
扉を開くとそこには……………

68 名前:No.16 小説 3/4 ◇6u2UGDNNbA[] 投稿日:07/11/18(日) 16:38:37 ID:RlCAmG+9
「……誰?」
思わず聞いてしまう。
分かっていた。何故か。すぐにわかった。
けれどおかしい。こんなのおかしい。
目の前に立っていたのは……主人公、俺の小説の主人公だった。
「お前は……」
間髪入れずそいつは答えた。
「そうです。私はあなたの小説の主人公です」
訳が分からない。俺の小説の主人公だと?
「どうして……」
「私はあなたに告げにきました。あの小説を、どうか、どこでもいいです、新人賞に送って下さい。
そうすれば日本は、いえ、世界が変わります」
「は?」
そいつの言葉は俺の理解を超えて上空3000メートルを優雅に飛行していた。
「ですから、あなたが送れば必ず受賞します。そしてその本が出版され……」
「わかったわ」
いつの間にか隣に杏が立っていた。
「送ればいいのね。じゃあ今日から私がたくさん推敲して、新人賞に…」
「それはちょっと」
男は困った顔をする。
「できれば、いえ、必ずあのまま送って欲しいんです」
「でも一体何故です?」

69 名前:No.16 小説 4/4 ◇6u2UGDNNbA[] 投稿日:07/11/18(日) 16:38:54 ID:RlCAmG+9
俺はたまらなくなって聞く。
「何故送らなければならないんです?」
それは、男が切り出す。
「結果から言えば、あなたの小説が大勢の命を救います。
なぜなら……、あなたは小説の中である発明を描きましたね」
「ああ、新エネルギーについて触れたが」
「それが、ある研究者の目にとまるのです。そして新たな発見が生まれ、世界は持続し、
いえ、もっと言えば、それによって二次的な発明がいくつも生まれ、人類が生き残ります」
嘘だろ…。俺のあんな稚拙な文がそんな訳、
「あるんですよ」
男ははっきりと言った。




ってことは起こらず、扉を開くと俺の小説の主人公がいた。
俺はすかさず扉をしめ、杏との喧嘩に戻った。


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