【 影鬼! 】
◆K0pP32gnP6




63 名前:No.15  影鬼! 1/3 ◇K0pP32gnP6[] 投稿日:07/11/18(日) 13:45:42 ID:WMMiHbvc
 街頭もまばらな、住宅街。空は珍しく満天の星空。
 十字路を右に曲がり、二十メートルほど先に自宅が見えた瞬間。俺は不意に足を止めた。
 自宅が火事だったとか、差し押さえられていた、と言うことではない。
 我が家の手前、五メートルほどのところに、不審者がいた。
 不審者、というか幽霊? 黒い影のような人型シルエット(角付き)
 しかも、視覚的には立体感――遠近感みたいなものが無い。
 三次元の中にいるそいつだけ二次元、みたいな。
 あ、目があった。というか、奴の目らしき部分と目があった。
 向こうは目をそらさない。
 ゆっくりとこっちに近づいて来る。いや、思ったより早い。
 あれ? いつの間にか、いない。
 見失った瞬間、背後から、
「か、カげ」
 地面から響いてくるような声。さらに、
「これをかぶって! 手を袖に入れて!」
 女の声。
 それに遅れて、頭上から赤いものが振ってくる。
 わけも分からず、言われるがまま俺はそれをかぶる
 銀行強盗がかぶっているような、顔全体をカバーするマスク。
 右手を左の袖、左手を右の袖にそれぞれ入れて、ふた昔前のマンガの中国人スタイルで振り向く。
 俺の足元でさっきの黒い人型が、俺の影を殴りつけていた。
「動かないでね」
 さっきのと同じ女の声。
 頭上から、くぎが振ってきた。
 黒い人型に刺さる。人型が破裂。
 俺はとっさに上を見上げた。
街灯の上に、うちの学校の制服を着た、女の子。
「タカヒロ! ひ、久しぶり!」
 貴洋、とは俺の名前ではあったが、俺はこの女を知らない。
「誰だ?」

64 名前:No.15  影鬼! 2/3 ◇K0pP32gnP6[] 投稿日:07/11/18(日) 13:46:04 ID:WMMiHbvc
 立ち話もなんなので――街灯の上と下の会話も立ち話と言うのだろうか?――俺の家に移動。
 居間で説明された話によると、俺はこの女(中野ユキと名乗っていた)と幼馴染だったという。
 しかし、だ。
 俺は生まれてこの方、この家以外の場所に住んだことはなく、親戚の家に行ったときに仲良く
なった女の子、とかもいない。
「だから、何回言わせるのよ? この世界から私の存在が消えてしまったのっ!」
「なんで?」
「さっきの奴、見たでしょ?」
 黒い人影。
「あいつは人の影を食べる『鬼』なの。まあ、あの程度なら生身の影を作らなきゃ大丈夫だけど」
 なるほど、それでマスクというわけだ。
「あいつの仲間に私の影は奪われた。それと一緒にみんな私の事を忘れてしまった、と」
 まさか。でもさっきの奴を見てしまったしなぁ。
 しかも、本当にユキには影が無い。
 そんなフィクショナルな展開アリか?
 まあ、信じよう。
 俺が持ってきた麦茶を一気に飲み干して言う。
「で、お願いなんだけど、住居を提供してくれない?」
「な、何を突然」
「言ったでしょ? みんな私の事を忘れてるって」
 節目がちにユキ言った。
 忘れられて、居場所がすべて消えてしまった、と言うことか。
 俺は三十秒ほど悩んで、
「まあ、いいだろう。少なくとも今週中は。親が旅行中だから」
 ユキは伏していた顔をすばやく俺に向け、
「ありがとう!」
 満面の笑み。
「でも、帰ってきた後は保障できないけど?」
「うん」
 ユキは短く答えた。

65 名前:No.15  影鬼! 3/3 ◇K0pP32gnP6[] 投稿日:07/11/18(日) 13:46:32 ID:WMMiHbvc

               ◇

 えー、私は今、貴洋君の隣の部屋にいます。
「ありがとうね」
 自分の影に話しかけてる女ってのはどうなんだろう?
「例にはオヨビマセンヨ」
「でも、これほど上手くいくなんてねー」
 真相を明かせば、さっき貴洋君を襲った『鬼』は私自身の影で、さっきのは全部嘘。
 私が勝手に貴洋君に一目ぼれしただけ。
 だから私の事を貴洋君が知るはずはない。
「ホント、怖いデスネ。ユキさんは」

 さあ! 妖怪退治系ラブコメが始まる予感!
 ヒロインも黒幕も全部私!

つづ……かない



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