【 DN事件 】
◆IPIieSiFsA




23 名前:No.06 DN事件 1/5 ◇IPIieSiFsA[] 投稿日:07/11/17(土) 23:33:27 ID:hRh3dYCh
 今は夏休み。『プールを開放してあげるから遊んで構わない』という終業式の日の担任の言葉は、俺たちの心を充分にくすぐった。その後に、宿題を中心とした勉強会があるのだとしても。
 俺たちはプールで遊んだ後、更衣室で着替えた。校舎へと入る際、トイレに行ったせいで置いていかれたが。
 昇降口で靴を履き替えていると、階段に藤沢と橘、一緒にプールで遊んでいた女子二人の姿を見つけた。
 藤沢はスカートを後ろ手に押さえながら階段を昇っている。わざわざそんな事をするなら、もっと長いスカートを穿けばいいだろうに。中学生が色気づくからそういう事になるんだ。
 というか、藤沢はそんな事を気にするような奴だったか? どちらかと言えば、パンツが見えるのも構わずにハイキックや跳び膝蹴り、ドロップキックを敢行する奴なんだが。並んで歩く橘は心配そうな顔で、二人の様子は病人とその付添いのように見える。
「どうかしたのか?」
 ゆっくりと階段を昇っている二人に、俺は踊り場で追いつき声をかけた。
 と、藤沢がぐいっと顔をこちらに向けた。その反応の速さに俺は思わず仰け反る。
「見た!?」
 切羽詰った表情で怒鳴るように聞いてくる藤沢。頬っぺたが赤い。
「何を?」
「何をって……あの……」
 俺の当然の質問に藤沢は言葉を詰まらせた。いつもと違って言葉に元気がない。頬っぺたがより赤くなった。
「見てないならそれでいいの」
 橘が俺たちの間に割り込んできた。藤沢を隠すようにして立っている。
「ほら、さっさと教室に行きなさい」
 しっしっと、まるで犬か猫を追い払うみたいに手を振る橘。うん。コイツはこういう奴だ。
 こうまでされてここに立ち止まる理由はない。俺は二人を置いて再び階段を上り始める。
 ふと途中で振り返ると、二人は顔をつき合わせて話をしていた。俺の視線に気づくと、橘はさっきと同じように手を振り、藤沢は何故か胸を両手で隠した。
 変な奴ら。俺は今度は後ろを振り返ることなく、三階まで階段を上り切った。

 プールで冷えすぎたのか、再び催してきたのでトイレに行ったのだが、その間に追い抜かれたようだ。また前方に藤沢と橘がいた。階段じゃないからだろうか、藤沢はもうスカートを押さえていない。
「おい、穂刈。よく見てろよ」
 そんな声が聞こえたかと思うと、俺の脇を坂城が駆け抜け、藤沢と橘に近づいて行った。
 ああ、またアレか。もう中学生なんだからいつまでも小学生みたいなことを。などと考えつつも、期待を持って凝視してしまうのもまた、正しい中学生の姿だろう。
 坂城が左側へと進路をとる。どうやらターゲットを藤沢に絞り込んだようだ。
 肉体的にMなところでもあるのか、坂城。逆に橘を選んでいたなら、それは精神的なMということになる。
 坂城がトップスピードに乗って藤沢の左後方へ。彼女に気づかれることなく、坂城の右腕が低空から孤を描いて振り上げられる。
 藤沢のスカートが捲くれ上がり、白くて少し大きめの、形の良い綺麗なお尻が見えた。

24 名前:No.06 DN事件 2/5 ◇IPIieSiFsA[] 投稿日:07/11/17(土) 23:33:47 ID:hRh3dYCh
 藤沢が神速でスカートを押さえた為に見れたのは一瞬だったが、ハッキリと網膜と脳裏に焼き付けた。彼女は太腿も白いが、それよりもお尻は白かった。これが彼女本来の白さなのだろう。
 焼き付けた映像から馬鹿な事を考えていると、橘が「坂城!」と走り去って行く後姿に叫び、藤沢が後ろを振り返った。彼女は俺と目が合うと、その顔を驚愕に歪め、ぺたんと座り込んで泣き出してしまった。
 坂城を追いかけようとして、少し離れていた橘が慌てて戻ってくる。しゃがみ込んで藤沢を慰めながら、俺の事をキッと睨んできた。
 その様子を眺めながら俺が思ったのは、『ナイス坂城』とか『何で俺が睨まれる』ではなくて、『そんな風に座ったら、お尻が冷たいんじゃないか』という、藤沢へのどうでもいい気遣いだった。

 教室には男子八人、女子十二人が席に着き、担任の中村先生は教壇横のパイプ椅子に座っている。
 橘が教卓を前に立って藤沢の状況を説明したため、女子の表情は沈痛だったり、憤慨していたり、困惑していたりと様々だ。藤沢も今は泣き止んでいるが、暗く落ち込んでいる。
 彼女が泣いているところを見ただけに、俺も申し訳ないような気持ちになる。とはいえ、それは俺だけの話だ。他の男子は、中には真剣な顔を装おうとしている奴もいるが、一様にニヤついた顔をしている。
 しかし橘が腕組みをして、『視線で人を殺す』を実践するかのように、席に着いている俺たち――男子を睨むと、俺を含めた全員が俯いてしまった。さすが二年A組の『氷の微笑(アイス・ビューティ)』と恐れられるだけはある。
「さあ、夏海の下着を盗んだ変態はさっさと返しなさい……!」
 静かだが怒りを秘めに秘めた言葉。俺たちに与えるプレッシャーは相当なものがある。ところで夏海というのは、藤沢のことだ。
「今ならまだ夏海の下着に変なこともしてないでしょうから、最低限の罰で許してあげるわ」
 橘の言う最低限の罰はきっと、俺たちにとっての最大級の罰だろう。
「夏海が下着を盗まれてどんな風に思ってるか、考えたことがあるの?」
 橘。お前が下着って言う度に、藤沢が身体をビクッと震わせてるぞ。親友ならもう少し気を使ってやれ。
「ねえ、それよりも。藤沢さん、帰った方がいいんじゃない?」
 藤沢の隣に座る奴がそう言った。俺と同じことに気づいたようだ。何人かの女子がそれに賛同する。しかし、
「ノーパンノーブラで帰って、もし変質者に襲われでもしたらどうするのよ」
 橘は表情一つ変えず、さらりと恐ろしい事を言ってのけた。変質者に襲われたら、ノーパンノーブラじゃなくても一緒だと思うが。
 ああ、また藤沢が身体を震わせている。何だか、別のトラウマが出来そうだな。ちなみに今、藤沢は制服のブラウスの上からタオルを巻いて胸を隠している。使われなかったタオルを借りたそうだが、その姿が何とも言い難い雰囲気を醸し出している。
「あのさあ、さっきからオレたちが盗んだことになってるみたいだけど、なんで?」
 憮然とした表情で橘を見る坂城。きっと心の中では『スカートをめくった後じっくり見ればよかった』とか考えているのだろう。
 橘は視線の温度を二℃くらい下げて坂城を見つめる。まあ、坂城がスカートをめくらなかったら、藤沢だって他の誰にも知られる事はなかったわけだから、怒るのも当然だ。橘の冷たい視線に一瞬たじろぐが、負けじと睨み返す坂城。
「女子が全員プールに揃ってから坂城君は姿を見せた。プールで遊んでいる最中、姿が見えなくなった三原君と穂刈君。この三人を疑う余地は充分にあると思うけど? それに今日、学校に来てるのは私たちの他は先生たちだけでしょう?」
 最後は確認なのだろう、中村先生の方を向いて尋ねていた。はたして先生は頷く。というか俺も容疑者の一人なのか?
「も、もしかしたら、変質者かもしれないじゃないか!」
 やや、どもり気味に反論するのは三原。そうだ。もっと言え。

25 名前:No.06 DN事件 3/5 ◇IPIieSiFsA[] 投稿日:07/11/17(土) 23:34:09 ID:hRh3dYCh
「私たちが夏休み中にたまたまプールで遊んでいたところに、偶然、変質者がやって来て、隙を見て更衣室に侵入。まんまと夏海の下着を盗んだと、こういう事?」
 可哀相な藤沢。もう完全に俯いてしまっている。
「そ、そういう可能性だって、あるだろ!」
「ないわね。少なくとも、アナタたちの誰かが盗んだという以上の可能性はね」
 橘の言葉は絶好調。切れ味が鋭すぎる。他の女子たちもその考えに賛成し始めたようで、坂城と三原、俺の三人を見る目が厳しくなってきた。
 と、俺の隣に座る小谷の様子がおかしい。膝を固く閉じて座っているのだが、その上で両手を重ね合わせてギュッと握っている。顔は俯きがちに、頬を赤く染めている。
 どうかしたのか、と俺が声をかけると、小谷は身体をビクッと震わせて、
「う、ううん。何でも……ない……」
 と、消え入りそうな声で答えた。
「……もっとも。穂刈君に関しては、私たちとすれ違ったときの態度や、夏海のお尻を見た時の態度から、犯人じゃないとは思うけれど」
 俺を容疑者から外してくれた事には感謝しよう。だが、お前は本当に藤沢の親友か? お尻を見られたなんて公言されたから、藤沢の顔が真っ赤っかになってるじゃないか。
「俺だって、知ってたらさすがにスカートをめくったりしなかったよ!」
 坂城が弁解をする。どうだろうか。アイツなら正面からめくりそうで恐ろしい。
「……あ、あの……」
 か細い声が聞こえた。隣の小谷だ。何か言いたい事でもあるのだろうか。しかし声が聞こえたのは俺だけのようで、橘も坂城も三原も、他の誰も気付いていない。
「言いたい事があるなら、もっとハッキリ言った方がいいぞ」
 アドバイスをしてやるが、小谷は物静かなタイプで、普段から大きな声を出したりはせず大人しくしている。
「あ、ありがとう……」
 というお礼の言葉も、小さくて聞き取り難いほどだ。
『坂城と三原』対『橘』の舌戦は激しさを増していく。
 日頃からスカートめくりなどの悪行で女子に接する坂城と、女子に対しては無口であまり話しかけない三原。どちらも女子からの評判が良いとは言えず、今やこの二人のどちらかが犯人という事でまとまりそうになっている。
「……あの……!」
 先程よりは大きな声。だが、教室内の騒々しさも先程までの比ではない。小谷の言葉はやはり、俺にしか聞こえない。
 しかし、普段は大人しいコイツが何を言いたいのだろうか。俺は考える。そして小谷の様子をじっくり見て……そして、思い至った。まさか、コイツ……!
「坂城君と三原君の持ち物検査を要求するわ!」
 橘がついに最終手段に出たようだ。中村先生に同意を求めると、力強く肯いた。先生、教師として貴女の態度は色々とどうなんでしょうか。疑問に思います。
 しかし今はそんな悠長な事を考えている場合じゃない。
 先生のお墨付きを貰った橘が女子に指示を出す。数人の女子が、二人のカバンと水着入れの奪取に成功した。
 坂城と三原は橘派の男子に押さえられている。橘の冷徹さに惚れている精神的にMな男子も少なくはないということだ。
 まずは坂城の荷物の確認から。カバンの中と水着入れの中を取り出すが、変な物は何一つない。

26 名前:No.06 DN事件 4/5 ◇IPIieSiFsA[] 投稿日:07/11/17(土) 23:34:39 ID:hRh3dYCh
「何も入ってるわけないだろ!」
 と坂城が当たり前だとばかりに言う。確かに、カバンを見られる事に対して抵抗を見せていなかった事も、その言葉の裏付けにはなる。
 次は三原の番だ。奴は激しく暴れ、「見るな!」とか「放せ!」とか叫んでいる。これだけで充分に怪しい。
 そして、荷物の中身が机の上にぶちまけられる。夏休みの宿題、筆箱、漫画、水着、タオル、――そして、オレンジ色の縞々パンツ。やっぱりか。
 女子が悲鳴を上げる。男子も叫び声を上げる。橘はこめかみをヒクヒクとさせている。藤沢が信じられないといった顔で見つめている。小谷は口元を押さえて凝視している。三原は力無く立ち尽くしている。
「やっぱりあなたが夏海のパンツを盗んでたんじゃない!」
 橘の怒号。それに三原はしどろもどろで答える。
「い、いや。違う! お、オレは藤沢のパンツなんか、盗んでない!」
「カバンの中にパンツを入れておきながら、何を言ってるのよ!」
 橘が厳しく追及する。女子は『サイテー』と声を揃える。藤沢も、今は橘のパンツ連呼が気にならないほど驚いているようだ。だが橘よ、それは違う。
「ハイハイ。とりあえず、みんな席に着きなさい。三原君も、橘さんも」
 教室が陥った、騒然という言葉を通り越した混乱をまとめたのは、中村先生だった。パンパンと手を叩きながら生徒たちを静める姿は、さすがに先生なんだと思わせた。
「騒ぐよりも先に、やらなくちゃいけない事があるでしょ」
 先生はそう言うと机の上の縞々パンツを手に取り、藤沢の前に差し出す。
「藤沢さん。まずはこれを穿きなさい。いつまでも下着を着けていないなんて、気持ち悪いでしょ」
 中村先生は優しく藤沢に微笑みかける。藤沢は頷いてそれを受け取る。だからそれは……。
 藤沢はおもむろに立ち上がると、手にしたパンツを広げて、右足を穴に通そうと持ち上げた。
「あっ、あの……!」
 小谷が声を上げるが、大きな声を出せと言っているのに、相変わらず小さい。そして小さいが故に続く声にかき消されてしまった。
「ちょっと夏海! ここで穿く気!?」
 橘が叫ぶ。無理もない。予想外の行動に誰しもが驚いている。何人かの男子は喜んでいるが。
「へ?」
 間抜けな声を出した時にはすでに藤沢は片足を突っ込んでおり、そこで動作を止めて手を放した為に、右の足首にパンツが引っかかるという、何ともそそられる格好となった。
「もういいから、早く穿きなさい!」
 橘が逆に顔を赤らめる。藤沢は、何だかわかっていない様子で再びパンツに手をかけ、もう片方の足を通すと、パンツをくいっと腰まで引き上げた。前にいたら絶対見えてるぞコレ。
 念願のパンツを穿いた藤沢はしかし、首を傾げる。
「どうしたの?」
「んー……なんだかキツイみたい。これ、あたしのじゃないかも……」
 あっさりと言う藤沢。まあ、そうだろう。活動的で大きめのお尻の藤沢が穿いたら、どうしてもキツくなる筈だ。
 しかし教室の中は三度、騒然となる。無理もない事だが。……そろそろ解決させるとするか。

27 名前:No.06 DN事件 5/5 ◇IPIieSiFsA[] 投稿日:07/11/17(土) 23:34:57 ID:hRh3dYCh
「藤沢!」
 俺は全員の注目を集めるように、大声で呼ぶ。
「お前、制服の下に水着を着て学校に来なかったか? それで、下着を持って来るのを忘れたんじゃないのか?」
 そう。そんな理由でもなければ、三原のカバンからブラジャーが出てこない事の説明がつかない。
 そして数瞬、藤沢はポカンとした顔で俺を見つめ、やおらポンッと手を打った。
「そういやそうだった」
『はぁ〜?』という全員の大合唱。お笑いなら、床に倒れこむところだ。続いて俺は、小谷を促す。
「いいか、お前にとったら死ぬほど恥ずかしい事だろうけど、自分の口でしっかりと言わないといけないからな」
 小谷は小さく頷くと立ち上がって、大きく息を吸った。
「その縞々のパンツは、あたしのです!」
 藤沢の腰の辺りを指差し、顔中を真っ赤に染めて告白する小谷。全員が驚きの眼差しで彼女を見つめる。
 そう。これが小谷の物だとすれば、三原の『藤沢のパンツなんか、盗んでない』という言葉も頷ける。奴が盗んだのは小谷のパンツなのだから。
 どうして気づいたかと問われれば、小谷の態度から。いくらきちんと座る子だったとしても、あそこまできつく膝を閉じたりはしないだろう。重ね合わされた両手も、スカートを押さえていたのだと考えれば納得がいく。
 こうして、『二年A組ダブル・ノーパン事件』は解決した。三原は女子には嫌われたものの、一部の男子に勇者と称えられた。
 余談だが、小谷の告白のあと藤沢が、穿いていた彼女のパンツをその場で脱いで、そして手渡したのは伝説となった。
 というか藤沢よ。当初の落ち込みや恥ずかしがりようはなんだったんだ? 
 あの様子を見る限り、お尻はおろか、前の方が見えたって気にしないように思えたんだが。
 もしかすると、元々は本人は気にしてなかったが、橘があまりにも言うものだから、逆に気にするようになったのかもしれない。
 そしてパンツが――自分のではなかったとはいえ――見つかったことで、本来の自分を取り戻したというところか。
 結局は、ノーパンノーブラで元気よく帰ったわけだし。
 何にせよ、羞恥に頬を染める小谷の顔を間近で見れたのと、藤沢のお尻を見れたことで、俺が一人で得をした形だったんじゃないだろうか。
                          ―完―


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