【 お祭りをもう一度 】
◆CYR3fna/uw




105 :No.23 お祭りをもう一度 1/5 ◇CYR3fna/uw:07/11/11 23:00:33 ID:5abG7Ca1
 のどかな田舎道。
この場所に似つかわしくない格好をした女の子がいる。
デフォルメされた猫がデザインされた帽子、ピンクのフリフリのフリルがついた服とスカートを着て、
ウサギの顔のポシェットを身に付け両肩にリスとキツネのぬいぐるみをのっけている。
まこと場違いな姿だ。
それも仕方のないことか、彼女は魔法使いであった。
そう、感性が普通の人間や魔法使い達からかなりずれている魔法使いであった。
 今日はここで行われる魔法使いのバザーに出品するためにやってきた。
女の子は道の中ほどで立ち止まって辺りを見回す。
まだそこには何もない。
あるのは田んぼと木々と草、今はまだそれだけ。
パステル調のお花をあしらった可愛らしい腕時計で今の時間を確認している。
今は午後の二時。
「今回は早く来過ぎてしまったわね、まだ4時間もあるわ、けど場所取りには困らなそうね」
 田んぼに挟まれた田舎道を歩き、大きくカーブした所の近くにある木のそばで歩みを止める。
数秒眺めた後その木の周囲を女の子はくるくると回る。
ふむふむっと口に出しながら何周もし、道に戻ってパンっと手を叩く。
「やっぱりこの木の下が一番よさそうね。さて、下準備した後はお昼寝でもしましょうか」
 ポシェットから入りきらない大きい絨毯を出す。
絨毯を地面に敷いて並べ木に寄りかかって自分のお店をどういう風にするかを考える。
考えている内に暖かな陽光と草木の匂いに囲まれて、ほんわかとした顔でそのまま寝てしまう。
 3時間くらいが過ぎて女の子は目を覚ます。
すでに太陽も傾き夕焼け空となっていた。
眠り眼を擦りながら周囲を見ると田舎道のそこかしこに人がいて何か準備をしている。
大抵の人は田んぼの上に浮いている絨毯に乗って品物を並べている。
女の子は時間を確認してその後、ため息をつく。
「また準備を終えてもいないのに寝てしまったけど、まぁ後1時間もあるから十分ね」
 立ち上がって木と向かい合い何かを口ずさみ、そして木に触る。
するとぼんっと音を立てて木が煙に包まれる。

106 :No.23 お祭りをもう一度 2/5 ◇CYR3fna/uw:07/11/11 23:01:17 ID:5abG7Ca1
 煙が風に流され消えていくとそこには先程とは違う木が生えている。
子供が描いたような可愛い木に変わって周囲の風景からとたんに異彩を放つ。
そして今度は指をパチンと鳴らす、すると草も姿形を変えて絨毯を挟んで対の大きな花が咲く。
「まぁこんな感じね、さてと次はお絵かきをしないと」
 パレットと筆を取り出して色を塗る。
パステル調の赤にオレンジに緑や黄色を取り出して草や木や花を一気に塗りあげる。
途端に女の子が好みそうな可愛くてファンシーな世界が出来上がった。
「おやおやこれはまた……、絵本の中に迷い込んだ感じになりますな」
 野菜の入った籠を背負った今回の主催者が声を掛ける。
「ええ、とてもかわいいと思いませんか? 本当ならお空もそうしたいのですけど?」
「はっはっはっ、実はお嬢様に頼みたいことがありましてな」
 話を笑って軽く流し、民家のある山の方を指差す。
「あちらの山を私好みに変えてもいいのですね」
「いえ、ちがいます。あの山の先の雲が気になりまして、これは一雨降るのではないかと」
 山の上の方をみると黒々とした雨雲がある。
主催者はこれをどうにかしてもらいたいらしい。
「いいですよ、私も久々に参加するバザーで雨が降るのは困りますから」
 木の上に立ち目を瞑って手を雲にかざす。
その手から黄色い光が溢れ出し、星の形を作りそれが徐々に大きくなる。
そして彼女の手を離れ雲目掛けて虹色の軌跡を残しながら流れ星の如く飛んでいく。
雲に突っ込むとその雲を蒸発させると星はバザーの中央辺りに飛んできて爆発をする。
「あら、時間ピッタリ。開始の合図にちょうどよかったけど、でしゃばった真似だったかしら?」
「構いませんよ、お嬢様に開始の合図をして頂けるなんて、このバザーは盛り上がりますな」
 主催者は宙に飛び上がり始まりの挨拶をする。
爆発はバザーの始まりを告げる花火となった。
 このバザーは魔法使い達とその関係者、それとごく少数の一般人が客としてくる。
箒や絨毯や馬車、車やボート、はては戦車を空に飛ばしてやってくる。
買う側も魔法使い、売る側も魔法使いなため売り物も変わった物が多い。
大抵のものは魔法をこめた家具や魔法の本に錬金術に使う原材料と道具など。
その中でも女の子のお店はまたさらに変わっていた。

107 :No.23 お祭りをもう一度 3/5 ◇CYR3fna/uw:07/11/11 23:01:54 ID:5abG7Ca1
「ほらほら、喋って飛ぶ時はお星様を出しながら飛ぶかわいい鳥さんでしょ」
 子供に彼女の周囲を飛んでいるぬいぐるみを指差す。
カラフルな色彩で目は大きなボタン、ずんぐりとした鳥である。
「ボクヲカッテヨー、エサモイラナイシ、ナンデモデキルシ、ナニヨリシュクダイモヤッテアゲルヨー」
「ねぇ、あの鳥さんほしい」
 子供にせがまれて困っている母親を見て女の子はさらに、
「今回は久しぶりの参加なのでサービスをつけているんですよ」
 子供の母親の動きが固まる、古今東西サービスという言葉に人は弱い。
それを見て彼女はにやっと笑い、ポシェットからある子瓶を出す。
「これは私の魔法で作った薬で肌の老化を止めることができるんですよ」
「わかりました、ジョン。この可愛いぬいぐるみがほしいのね買ってあげるわ」
「ママー、ありがとー」
「ママー、アリガトー」
 ぬいぐるみをリボンで結んで子供に渡し、母親には後ろの木と同じデザインをした袋を渡す。
女の子のお店はぬいぐるみやオモチャやお菓子をたくさん扱っている。
さっき渡した薬の他にも育毛剤や体重を減らす薬に皮膚の荒れを治す薬をサービスで親に渡す。
万事この調子で売上を稼いでいく。
子供など相手にせず薬だけを売れば売上も伸びる。しかし女の子はそんなことはしない。
彼女にとって大切なのは売上よりも子供に楽しんでもらうことである。
子供の名残惜しそうに見つめる顔が嫌いでなにがなんでも親に買わせようと薬のサービスを始めたのだ。
「ふぅ〜、だいぶ売れたわね、さて私も少しバザーを見て回ろうかしら」
 絨毯の上に置かれている物も少なくなり彼女も買い物に出かける。
立ち上がると両肩のぬいぐるみの頭をなでる。
とたんに動き出して絨毯の上に飛び移る。
「それじゃあ、店番を頼むわよ、うさぴょんにこんこん」
「まかせるピョン、どんな相手がきてもヒット&アウェイで1分でマットに沈めるピョン」
「まかせてよ」
 二体のぬいぐるみにお店をまかせてバザーの中を歩く。
暗いはずの夜道はそこかしこにある空中看板の光によって明るく彩られる。
人々の喧騒を聞きながら轍の中を歩いていく。

108 :No.23 お祭りをもう一度 4/5 ◇CYR3fna/uw:07/11/11 23:02:25 ID:5abG7Ca1
 可愛い物以外はめったに買わないため、食べ物を扱っているお店を中心に回る。
バザーの入り口までわたあめを食べながら歩いて行く。
「しかし結構寂しい所だったけどたくさんのお客さんがきてたわね。あら?」
すると少し遠くの丘のところに主催者の姿が見えたため彼の近くによる。
「そういえば一つ聞きたかったのですけど、よろしいですか?」
「構いませんよ、しかし今日は多くの人が集まりましたなぁ」
 二人並んでバザーを見る、バザーも酣といったところだろうかある魔法使いが花火を撃つ。
それに続いて次々と空に向けて花火を撃つ。
「なぜこの農道を選んだんです? あちらの方なら廃校と大きな空き地があるのに」
 遠くに見える廃校を指差す。
そこは今回のバザーの駐車場にしている、しかし空き地を駐車場にして廃校でバザーをした方がもっと大きなバザーになったはず。
主催者は利益を追求するためにできるだけ大きな場所でしたがるものである。
今回の主催者は口をつぐんだままただ花火を見上げる。
それにしたがって彼女もまた花火を見上げながらわたあめを食べる。
大きな花火が七色に輝くホシを広げて宙に咲く。
花火が消えるのにあわせて口を開く。
「この農道はわたしの子供の頃によく通った道であの廃校に通っていました」
 連発式の花火が轟音とともに上がる。
「村にもまだ活気があってたくさんの人々や子供がいました」
 皆買う手売る手を止めて花火を見上げる。
「あの頃はこの農道で祭りをやったのです。神輿をかついで騒ぎながら。あの祭りがわたしは好きでした」
 連発式の花火の中にいた火の精霊が火の玉となって様々な色に変わりながら踊る。
「ところがだんだんと人が減ってきましてな、もうこの村に残っているはわたしを含めわずか数人。
もうあの頃のような祭りは見ることができない」
 やがて連発式の花火が止まり、一人空で踊る火の精霊が恥ずかしそうに真っ赤に燃えながら地に下りてくる。
「わたしはただあの祭りをもう一度みたい。この農道が騒がしかった夜に戻りたい。そんな自己満足のためにこの場所をえらんだんですよ」
 女の子は空に手をかざし、星を放つ。
星は徐々に増えてバザーの上に来る頃には大量の星となる。
その星々が一斉にはるか上空へとあがって行き流星雨となってバザーの空に降り注ぐ。

109 :No.23 お祭りをもう一度 5/5 ◇CYR3fna/uw:07/11/11 23:02:49 ID:5abG7Ca1
「いいじゃないの、このバザーは主催する人が好きなようにやるのがしきたりだから。自分の権益のためにやったり、
人々を驚かせるためだけに都会でやったり、1700年程前では国おこしのために王自ら出張って大騒ぎをしたり」
 星達が集まり一つの大きな星となって夜空で大爆発をする。
すると星の形をした様々なお菓子が空から降って客や店員のカバンに勝手に入っていく。
「みなさーん、それは私からプレゼントですよー。もって帰らないと泣いちゃいますからねー」
 丘からバザーの方に大きくて振り、その横で主催者も手を振る。
「もう終わりの時間のようですね、楽しい祭りでしたな。今夜はいい夢が見れそうだ」
「えぇ、きっといい夢が見れるでしょうね」
 主催者と別れ木の所にある自分の店に戻る。
「ご主人様、おかえりなさい」
「お帰りピョン、もう全部の飾りを元の景色に戻したピョン」
 キツネのぬいぐるみがいそいそと荷物をまとめ、ウサギのぬいぐるみは辺りの景色を戻し終えて花の上に座っている。
「頑張ったわね、あなた達。後は私がやるから」
 二体の頭を触ってまた元のぬいぐるみに戻して両肩にのせる。
荷物と絨毯をしまい終えて、時計を確認すればもう次の日まであと10分。
「さぁ、お家に帰ろうかな」
 ポシェットからコントラバスを出し、それに乗って空を飛んで帰る。
 次の日の朝、主催者はいつも歩いている農道を歩く。
そこはいつもの田舎道、昨夜のバザーの余韻も残すことなくいつもの風景であった。
まるで夢の中の出来事だったように。
「おや?」
 ただ、カーブした先にある木の下にはファンシーな花が一輪だけ咲いていた。

おわり



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