【 我ら姉妹は静かに祈る 】
◆CoNgr1T30M




100 :No.22 我ら姉妹は静かに祈る 1/5 ◇CoNgr1T30M:07/11/11 21:00:12 ID:5abG7Ca1
 私は雨が嫌いだ。
 雨を見るとあの時の光景が浮かんでくる。赤い赤い血を雨が流している……そんなさめざめとした雨を思い出す。
 だから私は雨が嫌いだ。

「そういえば佐倉妹を男子から守る姉って貴女じゃないんですよね。ホラ、双子なら同学年のはずだし」
家には山本と私だけ。妹はどこかに出掛けてるようだった。
「……私は学校では大人しいよ。それに悪い虫からはくろ姉が妹を守っているからね」
「ん? 新しい登場人物ですか。誰ですそれ?」
「黒松くろ。この家のお隣りで、そりゃあお世話になったさ。くろ姉は私とは別にシスコンでさ。まぁこれを話すと長いけど」
そう、それは私たち姉妹がまだ中学生だった時の話。私たちが……。
「あっ、長くなるならお茶でもいれましょうか」
「……あー頼むわ」
空気が読めないんだか気が利くのかよくわからない山本。彼の場合はきっと天然なんだろう。
 ふと窓の外を眺める。ぱらぱらと雨が降り始めている。
 あの時と同じ悲しそうな雨が。

101 :No.22 我ら姉妹は静かに祈る 2/5 ◇CoNgr1T30M:07/11/11 21:01:35 ID:5abG7Ca1
 その日は雨が降っていた。
 お日様が好きだった私たち姉妹は車の中でそれを見て少しだけ不機嫌になっていた。
 東京か千葉かでたまに分からなく大きな遊園地。私たち家族の車はそれの帰り道を走っていた。
 道路を滑るように走る。そして悪魔は楽しそうに私たちの幸せを奪った。
 前方からトラックは父はそれに必死で対応してブレーキをかける。だがそれも空しくトラックは激突、前の座席に居た父と母がぐしゃりと潰れていった。その返り血が私たちを濡らす。
 シートベルトを付けていなかった私は凄まじい衝撃でどこかに頭をぶつけてそのまま意識を失った。
 残された妹の恐怖は私には想像できないだろう。

 最初に目に入ってきたのはクリーム色の天井で、その場に居た看護師から状況を聞いた。
 妹は家族ぐるみで仲の良かった黒松家に世話をしてもらっているようだった。
 私は打った場所が場所なのでしばらく入院することになっていた。妹のことは気になって居たが黒松家、くろ姉が面倒を見てくれるということで安心した。
 そして、やはり両親は即死だった。やはりというか予想通りというか、目の前で死んだというのに実感がわかない。
 かといってその悲しみがないわけではない。心にすっぽりと開いた喪失感、たまに事故の映像がフラッシュバックして催す嘔吐感。それらしばらくの間、私を支配した。

102 :No.22 我ら姉妹は静かに祈る 3/5 ◇CoNgr1T30M:07/11/11 21:02:11 ID:5abG7Ca1
 退院、両親の葬式はすでに親戚や黒松家が執り行ってくれていた。妹はというと事故のショックか、ずっと自室に閉じこもっていた。
「ねぇ、くろ姉……」
両親に線香をやり終えて、黒松くろに相談を持ち掛ける。
「あの子……ずっと籠りっきりなんでしょ? どうにかできないかな」
「あぁ、そうだな。けれどこればっかりは自分の問題だ。死者との折り合いは自分で付けないといけない」
くろ姉は煙草をふかしながらそう言う。年齢的に違法のはずだが突っ込むのはやめよう。
「……でも私は助けてもらった。病院で空っぽで陰鬱な気分だった私を、助けてくれた人がいた。だから私も妹を助けたい」
「……私は最終的に結論するのはその人自身だと言っただけだ。その過程で誰かに救われたりするのはよくあること……私だってそうだった。まぁ、好きにやってみるがいい」
煙草を灰皿に押しつける。
「お前さんたち家族には本当に救われたよ。……お父さん、お母さんありがとう」
今度は線香に火を付けるくろ姉。けれどその動作は煙草の時とは違ってとても優しい動作だった。

103 :No.22 我ら姉妹は静かに祈る 4/5 ◇CoNgr1T30M:07/11/11 21:02:33 ID:5abG7Ca1
「ねぇ、ちょっと行きたいところあるんだけどあんたもどう?」
妹の部屋のドアを開けて誘う。妹の存在は弱々しく強く抱き締めると壊れてしまいそうだった。
 妹はこくりと頷いて肯定。多少ごねるかと思ったが意外とすんなりいった。いや彼女の中身は空っぽで何もかもを抵抗なく受け入れるようになってしまったのかもしれない……ふとそんな風に思ってしまったがそんな後ろ向きな考えをやめ、妹を引っ張るように外へと連れ出した。

 田舎の方へ田舎の方へと私鉄を使い移動。駅を越えて行く度にだんだんと緑が多くなっていく。そして終点。ここからは徒歩だ。
 ざくざくと進む田舎道。妹の表情は無から何かを思い出したようだった。
「あっ、ここって前にも……」
ここに来て初めて口を開く妹。
「うん、昔に家族みんなで来たよね。私は覚えてたけどあんた忘れてた?」
「ううん、覚えてる。お父さんが何かの道に迷って……私がお腹空いたって言うからここでお弁当食べたんだよね!」
そうそう、と懐かしい思い出を語る姉妹。辺りは緑色の山々に永遠に広がる田んぼ。
 そして悲しみに暮れていた姉妹は昔のように笑いあっていた。

104 :No.22 我ら姉妹は静かに祈る 5/5 ◇CoNgr1T30M:07/11/11 21:03:09 ID:5abG7Ca1
「どう? ちょっと吹っ切れた?」
メイドイン私のおにぎりを片手にランチをとる姉妹。さらにはお茶まで付いているという周到さ。うーん流石私。
「まさか、だってお父さんとお母さんを吹っ切っちゃったら可哀想でしょ?」
「あはは、そうだね」

 私は雨が嫌いだ。
 でも止まない雨はない。雨の後、地面はぐちゃぐちゃにもなるしより固くもなる。
 つまりそれは気の持ちよう。それを教えてくれたお姉ちゃん、ありがとう。

「へぇー、そんなことが。つーかキャラ違っ」
山本、茶菓子ばかり食うな馬鹿野郎。茶ァ飲め、茶。
「で、くろ姉は特に妹に助けられたんだ。だから男に妹をとられまいと必死で……まず自分の心配しろって」
「ほぅ……恩を仇で返すとはこの事か」
まさかのくろ姉。しかも木刀装備。ちなみに男子より強いのは幼少の頃より祖父に武術を習っていたから。
「やっ! くろ姉には多大な感謝感謝を……ひぃーっ!」
木刀が私に降り下ろされるとほぼ同じくして妹帰宅。
「あっ、お姉ちゃんにくろ姉。うわ〜痛そ」
「……無視は立派なイジメですよ?」

 拝啓、お父さん、お母さん。我ら姉妹は元気です。特に妹は元気でお母さんのようにドSになってきていて最近、私はお父さんの気持ちが分かるようになってきました。そちらもお元気で。
「敬具っと」
木刀によって痛む体を撫でつつ、そっと筆を置いた。



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